25.11.11
ようやく政府が指針を作るため動き出した女性用トイレの行列問題

ネットニュースの内側にいるプロフェッショナルが、注目のニュースを読み解きます。
今日は、ダイヤモンド・ライフ編集長の神庭亮介さんにお話を伺いました。
神庭さんが注目した話題はこちらです。
「ようやく政府が指針を作るため動き出した女性用トイレの行列問題」
吉田:駅や商業施設などで女性用トイレにだけ長い行列ができている、そんな光景を目にしたことのある方も多いと思います。政府はそんな女性用トイレの待ち時間を減らすため、トイレの男女比など設置数の基準を見直し、年度内にガイドラインを取りまとめる方針です。
ユージ:よく見ます。我が家も女性と一緒に暮らしていますから、みんなで商業施設に行ったらうちの女性陣は、なかなかトイレから帰ってこないというのがよくあります。僕がスイスイ進む男子トイレに入るからというのもありますが。この女性用トイレの行列問題、どんな声があがっているのでしょうか?
神庭さん:SNSでは「女子トイレがアトラクション並みに混んでる」「女子トイレの行列に並ぶ時間が人生で一番ムダ」「もっと数を増やしてほしい」といった不満が根強いです。男性からも「ライブとかフェスの時、女子トイレの行列を見る度にかわいそうな気持ちになる」と同情の声が寄せられています。国土交通省が実施したアンケートによると、大規模な商業施設のトイレで「行列に並ばなければならない」と答えた女性は47.4%。男性の17.7%の2.6倍超に達しました。駅のトイレも同様で、55.2%の女性が「並ばなければならない」と答えたのに対して、男性は35.3%と男女差が浮き彫りになっています。
ユージ:吉田さんは、この実感はありますか?
吉田:正直、諦めてはいました。商業施設でも、下の階よりも上の階の方が空いていたりとか自然と空いている方を探すようになりました。母になって、子供が突然尿意をもよおすんですよ。「ママ、トイレ行きたい」とギリギリまで我慢するので、子連れのときが辛いですね。トイレに並べないので、どうしよう、どこ行こうってなります。
神庭さん:僕もご飯に行ってて、子供が「トイレに行きたい」と言うから、女の子なのでトイレまで連れていくのですが、僕もトイレに行って戻ってくるとまだ並んでいることがあります。一緒にトイレに入るわけにいかないから、僕が女子トイレの前でずっと待っていることがよくあります。
吉田:女性用トイレに行列ができがちなのは、どうしてだと考えられますか?
神庭さん:そもそも男女で利用時間が違って中日本高速道路の調査によると、男性の小便器の利用時間は平均35秒に対して、女性の個室は105秒と3倍の時間がかかります。そのうえ、トイレの数も女性の方が圧倒的に足りていなくて、全国1,000箇所以上のトイレを独自調査した行政書士の百瀬まなみさんによれば、男性用便器は女性の1.7倍あり、9割超のトイレで男性用が女性用の数を上回ったということです。需要は、たくさんあるのに供給が足りないわけなので、行列ができてしまうということです。
ユージ:トイレの数の男女比は、どうするのが理想だと思いますか?
神庭さん:1つの目安として「スフィア基準」というものがあります。紛争や災害が起きた際に、避難者を守るための国際的な基準で、男女のトイレの設置数は「1:3」と記載されています。あくまでも、難民キャンプなどの有事を想定した基準なので、平時の日本にどこまで当てはめていいものかは精査が必要です。現状が少なすぎるのは確かですし、女性トイレを増やした方がいいのは間違いないです。
吉田:海外の場合はどうですか?
神庭さん:アメリカのテキサス州では、スタジアムやホールなど一定以上の規模の公共施設を新築・改築する際に、トイレの男女比を少なくとも1:2以上にすることを定めた法律があります。台湾でも2010年に法律が成立し、オフィスでは男女比1:3、学校や劇場では1:5とすることに決まりました。
吉田:対策が進んでいる国もあるんですね。日本もそういうふうになればいいなと思います。
神庭さん:面白いなと思ったのが、ドイツ出身のサンドラ・ヘフェリンさんが書いた読売新聞・大手小町のコラムです。それによるとドイツも日本と同じく男子トイレの方が女子トイレより多いですが、行列ができても回転が早く、すぐに順番がくるそうです。ヘフェリンさんはその理由として、ドイツのトイレは「落ち着けるような場所ではない」と指摘しています。まず、入り口に清掃係の方がいてチップを渡さないといけないですし、日本と違ってウォシュレットや音姫がありません。防犯上の理由で、ドアと床の間が大きく空いていて、他の利用者の会話や物音も筒抜けだそうです。日本のトイレが「快適すぎる」ことがアダになって回転率が下がり、行列を生んでいるとしたら皮肉なことだなと思います。
ユージ:海外の場合、男性用トイレもそうですが、隙間が大きくて中で何をしているか、見ようとすれば見えます。これからの日本は、どんな対策をすればいいでしょうか?
神庭さん:アメリカや台湾のように法律やガイドラインを整備するのがまず1つ。もう1つはテック面での改善。トイレの空き情報をデジタル看板で案内したり、センサーで滞在時間を知らせて長時間利用を抑制したりといった取り組みも広がり始めています。あとは、男性アイドルのライブなど女性利用者が増える時だけ、男性トイレと女性トイレを仕切る壁を動かして、女性トイレを増やすというすごい技術もあります。既に実用化されています。あとは、トイレを用足しの場に特化するのも大事かなと思っています。パウダールームを分離して、化粧や身支度を切り離せば混雑を緩和できますよね。あとは、個室での「こもりスマホ」が問題になっています。それを解消するために、例えば劇場みたいにスマホの電波を遮断してしまう、というのも一つの手段かなと思っています。トイレが壊れて閉じ込められたら困るので、そういうためのSOSボタンを別途つくらなきゃいけないかもしれないですが、そういうのも1つの手段です。トイレを我慢したり、無理に水分を控えたりすると健康にも良くないです。女性だけの問題ではなく、パートナーや家族を待つ男性にも影響してくる話として男女関係なく「みんなの問題」として考えていくことが大事だなと思います。