25.11.13
名誉毀損罪が増える背景と社会の変化

ネットニュースの内側にいるプロフェッショナルがニュースを読み解きます。
情報社会学がご専門の学習院大学 非常勤講師の塚越健司さんにお話を伺います。
塚越さんに取り上げていただく話題はこちら!
『名誉毀損罪が増える背景と社会の変化』
吉田:政治団体「NHKから国民を守る党」党首の立花孝志氏が兵庫県の斎藤元彦知事の疑惑告発文書問題を巡り、亡くなった竹内英明元県議の名誉を毀損した疑いで県警に逮捕されました。 そこで、名誉毀損罪について塚越さんと考えていきます。
ユージ:まず今回の立花氏の名誉毀損罪での逮捕について教えてください。
塚越さん:NHKから国民を守る党(通称:N国党)の党首、立花孝志容疑者は、今年1月に自死された、兵庫県の竹内元県議について、亡くなる前後に街頭演説で「警察の取り調べを受けているのは多分間違いない」などと発言したり、SNSでも「明日逮捕される予定だった」などと虚偽の内容を投稿し、名誉を傷つけた疑いで逮捕されました。立花容疑者は調べに対して、発言の事実自体は認めているということです。報道によると、これまでの捜査で立花容疑者は任意の事情聴取が行われており、また、立花容疑者に竹内元県議の情報を提供したとされる関係者にも任意で事情を聞いたということです。捜査は続いていたわけですが、立花容疑者が10月にドバイに渡航したことを踏まえて、逃亡や証拠隠滅のおそれがあると判断して逮捕したということです。これに関してネットでは、「逃げるとは思わないのでこのタイミングの逮捕はやりすぎではないか?」という声もある一方で、逮捕しないと関係者と口裏合わせをしたり、影響力がある人なので、人々を動員して被害者家族などに対して二次被害をもたらすことで、『証言封じ』が生じる可能性があるため逮捕したなど様々な意見があります。
吉田:SNSなどでの誹謗中傷の件数も増えていますが、『名誉毀損罪』とは実際どんな罪状なんでしょうか?
塚越さん:まず、刑法における名誉毀損とは、“不特定または多くの人に向けて『事実』を示して名誉を傷つける行為を指す”ということです。なので、名誉毀損はその内容が“事実かウソか”は基本あまり問いません。ただ、亡くなった方に対する名誉毀損は“内容が虚偽の場合しか罰しない”となっています。一方で、「竹内元県議が逮捕される予定だった」などといった立花容疑者の発言は、すでに兵庫県警が「取り調べや逮捕予定といった事実は一切ない」と異例の発言をしているので、立花容疑者の発言が正しいと思うのは難しいと思います。また、名誉毀損罪で訴えるには本人が刑事告訴する必要がありますが、亡くなった方の場合は配偶者などが告訴できるということで、今回は竹内元県議の奥様が告訴しています。事件について、兵庫県警は立花容疑者の認否は明らかにしていませんが、立花容疑者自身は会見で、「名誉毀損したことは争わないが、違法性は退けられるだけの根拠があって発言している」とおっしゃっているんですよね。なので、立花容疑者としては、“名誉毀損は認めても、違法にはならない”と考えていると思われます。実際にどんなケースで罪に問われないかを簡単にご紹介します。まず、“内容が事実である”、次に“公益にかなう内容である”、最後に“その事実が真実と証明できるか、または真実と信じるに足る相当な理由があること”、よく言われる“真実相当性がある”ということですね。つまり、発言が“公共の利益になって、社会のためになるもので、真実であると認められるもの”なら罪に問われないということなんですが、私はこれに違法性がないというの難しいと思います。というのも、警察がすべて正しいとは言いませんが、異例の発言をしたり、これまでの流れをみても、ちょっと厳しいのかなと思います。また、立花容疑者は別の事件で有罪判決を受けていて現在執行猶予中です。なので、今回の裁判で有罪となりますと実刑になる可能性が高いとみられます。
ユージ:名誉毀損罪などの事例が増えている背景には何があると思いますか?
塚越さん:総務省が運営を委託している『違法・有害情報相談センター』というネット上の問題を相談できる窓口があり、2023年度の相談件数は6400件を超えていて、そのうちの4000件近くは誹謗中傷に関する相談でした。最近は、名誉毀損以外にも『侮辱罪』という別の罪についても問題が拡大していて、SNSでも侮辱罪がどんどん増えていて、2022年に法改正で厳罰化されました。ただ、訴えたところで結局は時間もお金もかかるので困難が多いのも事実です。いずれにしても、亡くなられた方に対する誹謗中傷などは今後も増える可能性があると思うんですよね、そうしてみると、名誉毀損罪の拡大自体は、批判や告発の萎縮にもなる可能性はありますけれども、今後は、“亡くなった方への発言の責任”も大きな課題になると思います。今回は、政治家で大きな影響力のある方ですけれども、私たち一般人も考えなければいけないテーマなので、よくよく見ておく必要があると思います。