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今、知っておくべき注目のトレンドを、ネットメディアを発信する内側の人物、現代の情報のプロフェッショナルたちが日替わりで解説します。

25.11.24

日中対立悪化、暮らしへの影響は?

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ネットニュースの内側にいるプロフェッショナルが、注目のニュースを読み解きます。
今日は、ダイヤモンド・ライフ編集長の神庭亮介さんにお話を伺いました。
神庭さんが注目した話題はこちらです。


「日中対立悪化、暮らしへの影響は?」

吉田:連日報道されている「日中関係の悪化」とその影響について神庭さんに解説してもらいます。まずは、そもそもなぜここまで関係が悪化してしまったのか、教えてください。


神庭さん:ざっとおさらいすると11月7日に高市総理は中国が台湾を海上封鎖して、そこに介入した米軍が武力行使を受けた場合、集団的自衛権を行使できる「存立危機事態」になり得ると国会で答弁しました。翌8日に、中国の大阪総領事がXで《勝手に突っ込んできたその汚い首は一瞬の躊躇もなく斬ってやるしかない》とトンデモ暴言を投稿しました。その後削除したのですが、日本側では総領事を「ペルソナ・ノン・グラータ」(好ましからざる人物)として国外退去処分にすべきだとの声が強まりました。一方の中国は、日本への渡航自粛要請や日本産水産物の輸入停止などの対抗措置を次々に打ち出して、揺さぶりをかけようとしているのが今です。


吉田:このまま、悪化が続くと私たちの暮らしにどんな影響が出そうでしょうか?


神庭さん:まず観光産業への打撃です。すでに中国から日本への航空券50万席分がキャンセルされています。野村総研エグゼクティブ・エコノミストの木内登英さんは向こう1年の日本の経済損失を1.79兆円と試算しています。観光地の宿泊業や飲食業には大きなダメージですが、逆にホテル代の高騰で困っていた日本人には、国内旅行のチャンスになるかもしれません。日本産水産物に関しては、処理水放出を理由に中国が2023年に禁輸措置をとりました。これ自体難癖に近い話だったわけですが、どうにか交渉して段階的な再開で合意。この11月にホタテの輸出を再開したばかりだったのに、一気に禁輸に逆戻りしてしまったとのことです。振り回された水産関係者の方々はガックリきているんじゃないかなと思います。


ユージ:他にはどんな影響が出ていますか?


神庭さん:中国で劇場公開された『鬼滅の刃』の売上が急落したり、『クレヨンしんちゃん』の公開が延期されたり、最近だとゆずのアジアツアーが中止されたりと、エンタメ分野にも影響が出ています。中国内には、パンダを交渉材料に使うような意見もありまして、上野動物園からパンダがいなくなったら悲しいですが、そういうこともありえなくはないかもしれないです。「産業のビタミン」と呼ばれ、ハイテク製品に欠かせないレアアースも今後の焦点です。中国がレアアースの輸出禁止に踏み切った場合、経済損失がさらに膨らむ恐れがあります。


ユージ:日中関係、どう改善すべきだと思いますか?


神庭さん:経済安全保障の観点で考えると、完全に元通りを目指すというよりは、中国への依存度を少しずつでも下げていくべきじゃないかなと思います。レアアースはもちろん、ノートパソコンやリチウムイオン電池など中国からの輸入が多い品目について、他の国から調達できないか模索する。輸出先に関しても、中国の禁輸をきっかけにホタテの輸出でアメリカ市場を開拓したように、販路の拡大を急いだ方がいいかなと思います。とはいえ、中国は日本の輸入相手国のダントツ1位であり、輸出相手国としてもアメリカに次ぐ2位です。これがいきなりクラッシュしたら大変なことなので、戦略的互恵関係を維持しながら適切な落としどころを探っていくしかないのかなと思います。


ユージ:うまくいくと思いますか?


神庭さん:なかなか難しいですが、うまくいかせなきゃいけない。ギリギリの難しい交渉が必要になります。一部の左派の人たちは中国の尻馬に乗って「高市総理は発言を撤回しろ!」と叫んでいます。私自身は、存立危機事態の具体的なケースについてわざわざ国会の場で説明したのは、いざという時の手の内を明かす不用意な発言だったと思っています。ただし、一旦言ってしまったことを、中国に脅されたから撤回する、というのは絶対にあり得ない話です。また逆に、右派の人たちは「いいぞ、もっとやれ!」「中国にかましてやれ」と吹き上がっています。高市氏自身が反省点があったと述べているのに、今回の答弁を擁護する方も多いです。ただ、外交というのはスカっとするゲームじゃないので、あまりに強すぎる強硬論は、今後事態を収束させていくにあたって日本が取り得る政策の選択肢を奪ってしまって、逆に高市氏を追い込むことにもなりかねないので、そこは注意が必要です。


ユージ:賛否両論、様々な意見が出ていますね。


神庭さん:言う通りですね。日本は民主主義国ですから、多様な意見が出るのは当然ですが、中国の分断工作、情報戦に躍らされるべきではないなと思います。私がもし中国の偉い人だったら、「しめしめ…日本の世論は右と左に分かれて揉めてるぞ」とほくそ笑んでいると思います。日本人同士でいがみ合っていては思うツボですから。そうならないように冷静な議論を望みたいなと思います。産経新聞が《「戦狼外交」を笑いで無力化 日本のSNS利用者、中国からの批判投稿に皮肉や風刺で反撃》と報じたのですが、日本のネット上では、中国外務省のSNS発信のテンプレートを流用してパロディー画像をつくって大喜利をしています。それから、うつむき加減の日本の外務省幹部と、ポケットに両手を突っ込んだ中国外交官の写真が話題になりましたが、これを逆手にとって2人が急にハイタッチしたり、いきなり踊り出したりする生成AIの動画も拡散されています。日中関係は確かに緊迫していますが、これくらいの心の余裕をもって、冷静さを失わずにいたいなと思います。


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