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25.11.25

出産費用の無償化を検討へ。近年の「無償化ブーム」のメリットとデメリットを考えます

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ネットニュースの内側にいるプロフェッショナルが、注目のニュースを読み解きます。
今日は、ダイヤモンド・ライフ編集長の神庭亮介さんにお話を伺いました。
神庭さんが注目した話題はこちらです。


【出産費用の無償化を検討へ。近年の「無償化ブーム」のメリットとデメリットを考えます】

吉田:厚生労働省が、出産にかかる費用の無償化に向け、公的医療保険の新たな枠組みを創設する方向で調整に入りました。そこで出産や高校授業料など、近年の「無償化ブーム」の光と影について、神庭さんと考えます。


ユージ:神庭さん、まず今回の出産費用の無償化に向けての動きですが、現在、出産にかかるお金や制度はどうなっていますか?


神庭さん:現状だと出産は「病気やケガではない」ということで日本では自由診療扱いになっています。公的医療保険が適用されないため、全額自己負担です。その代わりに「出産育児一時金」という制度があって、健保組合などからお金が出ます。この一時金が導入された1994年は30万円だったのですが、出産費用の上昇にあわせて年々引き上げられ、2023年4月には42万円から50万円に一気にアップされました。では出産費用はどれくらい上がっているかというと、2012年度から2024年度の12年間で平均41万7,000円から52万円弱へ10万円以上も上昇しています。せっかく一時金を引き上げても追いつけ追い越せで出産費用も上がっちゃうということで、完全にイタチごっこです。


吉田:ないよりはマシ…という感じではありますが、実際は出産一時金よりも、もっとお金がかかったなという覚えもありますが、いかがでしょうか?


神庭さん:エリアによります。いま言った金額は全国平均で、実際は地域格差がすごく大きいです。一番高い東京都は62万5,000円で一時金を大きくオーバーします。一方、最も安い熊本県は38万9,000円なので余裕でおつりがくる状況です。いまの仕組みには他にも課題がありまして、病院側で自由に出産費用を決められるので、豪華な個室やお祝い膳、エステ、アロマセラピー、記念撮影、赤ちゃんの足形など、あの手この手で妊婦さんへのサービスを競ってきた側面があります。結果として、出産費用の高騰を招いた面もあります。どこまでが必須の出産費用で、どこからが追加オプションなのか不明朗なので、妊婦側でサービスを選べない病院も少なくありません。妊産婦の方からは、「最後に請求書が来るまで自分がいくら払うのかよく分からないまま退院の日を迎えた」「お金がどこまでかかるのか、病院のホームページを見ても分からず不安だった」といった声もあがっています。


ユージ:じゃあ、いま検討されている無償化は、どんな仕組みを作ろうとしていますか?


神庭さん:出産費用を公的医療保険でカバーする形で、早ければ2027年度中にも無償化をスタートすることを目指しています。現役世代の場合、病気やケガだと原則3割の窓口負担が必要になります。これだと「無償化」にならないので、厚労省は妊婦さんの自己負担が生じないような新制度をつくる方向で調整しています。現状だと正常分娩は自由診療、帝王切開などの異常分娩は保険適用と対応が分かれていますが、すべて保険適用になれば、そこはシンプルになるかなと思います。


ユージ:今までの制度と比べ、メリット・デメリットあると思いますが、そちらはどうですか?


神庭さん:メリットとしては「出産費用はいくら」という形で診療報酬に明確に定められるので、明朗会計になります。全国一律の料金で地域差もなくなります。あとは、お祝い膳やエステ、記念撮影などは保険適用の対象外となる見通しなので、過剰サービスや便乗値上げによる出産費用の高騰にも一定の歯止めをかけられるんじゃないでしょうか。完全に保険に移行するのではなく、一部、現金給付を組み合わせることも検討されているようですが、あまり複雑にすると色々複雑になってよくないので、そこはシンプルに必須の出産費用は無料、オプションは自己負担とするのがわかりやすいかなと思います。あとは、無痛分娩を無償の対象にするのかどうか、赤字の産科診療所の割合がすごい増えている中で、病院の経営をどう守っていくか?といった点も議論の対象になりそうです。


吉田:今回の出産費用含めて、近年、幼稚園や保育園、高校授業料など子育て分野での無償化が相次いでいます。無償化のメリットは沢山ありそうですね。


神庭さん:子育て世帯にとっては家計負担が軽減され、経済面の負担が減るのは大きなメリットです。家庭の事情で進学を断念せざるを得ない子を減らせるんじゃないかなと思います。教育は国家にとって最も効率の良い投資だと言われていますが、日本の公的支出に占める教育費の割合はOECD諸国の中でもワースト4位です。高齢者の社会保障費に比べると、子どもへの教育はおざなりにされがちなので、そういった世代間格差を是正する効果は期待できるんじゃないかなと思います。


吉田:一方で、考えられるデメリットも教えてください。


神庭さん:無償化と言いつつ実際は「税負担化」だということです。「無償化」というとウケがいいので、政治家は無償化、無償化と言いたがります。これって「お上がタダにしてくれる」「ありがたや、ありがたや」なんていうのは大間違い。政治家のポケットマネーではなく、元々の原資は我々が支払う税金や社会保険料です。結局、何らかの形で自分たちがツケを払うことになります。ただ、「だからやめろ」という話では全然なくて、そのつもりで政策の費用対効果や制度設計を考えるべきだということが言いたいです。いいことばかりではなく、便乗値上げであったり、サービスの質の低下であったり、無償化によって色々引き起こされるデメリットな波及効果、副作用もきっちり計算したうえで、何をどこまで公的サービスとして抱えるのか議論を尽くしてほしいなと思います。


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