25.12.03
『解雇の金銭解決』制度の議論再開…導入された場合、労働者への影響は?

ネットニュースの内側にいるプロフェッショナルがニュースを読み解きます。
本日は、情報社会学がご専門の学習院大学・非常勤講師、塚越健司さんです。
今朝、取り上げるテーマはこちら!
【『解雇の金銭解決』制度の議論再開…導入された場合、労働者への影響は?】
吉田:労働者の解雇が不当だとして無効となった場合に、企業側が金銭を支払うことで労働契約を終了する「解雇の金銭解決」をめぐり、厚生労働省は先月11月18日、専門家による検討会を新たに立ち上げることを決めました。塚越さん、聞き慣れない言葉ですが、「解雇の金銭解決」について詳しく教えてください。
塚越さん:まず例えばですね、ある労働者が企業に解雇されたとして、これを不服だとして裁判をしますよね、労働者が勝ったとします。すると、職場復帰できることになりますよね。ですが、復帰後の人間関係や、企業が自分をどうみるかなどの懸念がありまして、弁護士の方にアンケートしたところ、実際は職場復帰しない、できないというケースが全体の半分を超える、といったデータもあります。そこで、労働者が勝訴している状態で、「労働者が申請すれば」企業が一定額を支払って雇用関係を終了しましょうというのが、今回導入が議論されている「解雇の金銭解決制度」ということで、あくまで労働者が選択するものなんですね。ただ、この制度にはいろんな意見がありまして、まず労働者の立場としては、結局のところ、お金を払えばいいんだろうと。企業のリストラが増えてしまうのではないか、という懸念がありました。また、企業側にも色々な意見がありますが、現在は経済界のほか、去年の自民党総裁選では、元デジタル大臣の河野太郎氏が制度の導入を訴えていました。
ユージ:「解雇の金銭解決」は、労働者にとってメリットはあるのでしょうか?
塚越さん:メリットもありますが、けっこう複雑なんですよね。解雇には複雑なルールがありますが、法律では、企業が労働者を解雇するには「客観的に合理的な理由」がないとできないことになっています。例えば、会社が倒産の危機だから、といったことはありますけれども、実際はそれが「合理的」かどうかというのは判断が難しいところがあります。なので、労働者が解雇を言い渡されても不当だとして裁判をするケースがあります。実際、2020年度に全国の地方裁判所でくだされた解雇関連の判決は242件ありましたが、原告の勝訴と敗訴はほぼ半々ということです。ケースによるということですね。また原告の労働者が勝訴しても、お話したように、実際には職場復帰できないケースも多いと。一方で現状でも、裁判では判決前に和解をすすめたり、より早く結果が出る「労働審判」や「あっせん」という制度を使って、職場復帰を求めずに解決金を受け取るケースも多くあるんですね。こちらが2020年度だと、地裁での和解は406件、労働審判の申し立ては1,853件と多いんですね。だったらこれでいいじゃないか、という意見もあるかと思いますが、実際は解決金の金額にばらつきがありまして、中央値でいうと100万円〜200万円程度ですが、ケースによってはもっと低いとか、あるいは1,000万を超えるといった高いケースもあるということです。なので、もし今回の金銭解決制度を導入するのであれば、事前に金額のおおよその水準がわかる仕組みをつくると、労使の双方にメリットがあると指摘する専門家の方もいらっしゃいますね。労働者にとって、裁判が場合によっては数年続くということがあって、そうすると先が見えなくなるので、どうしても生活が厳しくなって交渉力が落ちるということがあります。そういう意味では、金銭水準がわかっていると、見通しもつきやすくなるのかなと思います。一方で、この金銭水準が低くなってしまうと、企業が「金を払えば辞めさせられる」と誤解して、逆にリストラが増えてしまう懸念もあります。なので、労働者のメリットもありますが、重要なのはこの金銭水準を慎重に設定する必要があるのかなと思いますね。
ユージ:本当ですね。「解雇の金銭解決」について、塚越さんは、どうご覧になっていますか?
塚越さん:難しいところはありますが、先日の厚生労働省の審議会だと、企業側は、解決金の金銭水準が決められれば、逆に安易な解雇は減るということで賛成、という意見がありました。一方で労働者側は、金銭水準が低く設定されてしまうと、逆に解雇が増えてしまう可能性がある、といった意見もあったと思います。難しいところですけど、裁判に勝ってもしこりが残るケースもあるのであれば、転職をしやすくすることは大事かなと思います。裁判が長引くと厳しいことがあります。労働者が望むなら金銭を受けたり、あるいは企業による再就職支援などがあってもいいと思います。海外にもいろんな制度、近いものがありますが、それぞれ複雑なルールがあり、日本独自で進めていかないといけないという側面もあるんですよね。やっぱり重要だと思うのは、労使共にメリットにするためには、ある程度この金銭解決するための水準を少し高めに設定して、安易なリストラはできないような歯止めをかけつつ、労働者の方にとっては「これだったらこのくらいでいいかな」と思えるような道筋をある程度決めるといいですね。雇用の流動性も言われていますし、残念ながらトラブルがあったとしても対応があると思います。この制度自体は、何年もずっと議論はあって、なかなか進まない部分もあるんですよね。今回もどうなるか分からないですけど、この議論が今のところはこう進められようとしていますね。