25.12.08
旧姓使用の拡大、メリットとデメリットは?

ネットニュースの内側にいるプロフェッショナルがニュースを読み解きます。
コメンテーターはダイヤモンド・ライフ編集長の神庭亮介さんです。
今朝、取り上げるテーマはこちら!
【旧姓使用の拡大、メリットとデメリットは?】
吉田:先週、政府・与党は結婚で姓を変えた人の旧姓使用を法制化する方針を固め、来年の通常国会に法案を提出することを検討しているという報道がありました。リスナーの方の中にも気になっている方多いのではないでしょうか。そこで今朝は、旧姓使用の拡大のメリットとデメリットについて神庭さんと考えます。まずは、今回の「旧姓使用法案」の狙いについて教えて下さい。
神庭さん:結婚して夫婦どちらの姓にするかは自由なはずですが、実際には姓を変える人の94%が女性になっていて、銀行口座やらクレジットカードやら様々な名義変更の負担を強いられています。選択的夫婦別姓についての日経新聞の世論調査では賛成69%、反対23%と賛否が割れています。そこで折衷案として出てきたのが「旧姓使用の拡大」です。現状でも住民票、マイナンバーカード、運転免許証、パスポートへの旧姓併記はできますが、民間には広がっていないです。銀行の3割強は旧姓の使用を認めておらず、旧姓の証券口座の開設もできないのが現状です。高市総理は就任前の段階で、現状の夫婦同姓や戸籍制度は維持したまま、国や自治体、事業者に対して旧姓使用に必要な対応をとるように求める「私案」を発表しています。新たに提出が検討されている法案は、この高市私案がベースになるものとみられます。
ユージ:SNSや検索サイトでもトレンド入りしていたようですが、ニュースに対するネット上の反応はどうでしょうか?
神庭さん:まず賛成意見としては「このまま旧姓を使いやすくなれば助かる」「法制化が進めば、偏見もなくなり便利になる」「これで不便が解消され、夫婦別姓は不要になる」といった歓迎の声があがっている一方で「選択的夫婦別姓終了!ざまー!」みたいな声も出ています。「ざまあ見ろ」は酷いですが、選択的夫婦別姓に関してはそれくらい根深い世論の断絶、激しいイデオロギー対立があるということです。
吉田:反対意見はどうですか?
神庭さん:反対意見としては「そこまでして強制的夫婦同姓を維持したいの?」「個人が法的に2つの名前を持つことになり、これは誰も望んでない」「戸籍名は変えざるを得ず、アイデンティティーが傷つく」「役所の事務手続きが大変なことになり、犯罪の温床にもなり得る」といった意見が出ています。
ユージ:旧姓を使用するメリットってどういうところになりますか?
神庭さん:金融機関の口座開設とか役所の手続きで旧姓が公式に使えるようになるなら、今よりは利便性が高まるかもしれないです。あとは国民の合意形成がしやすいという点もあるかなと思います。先ほども言ったように、保守派の方々を中心に選択的夫婦別姓に反対する声は根強いです。一方で、旧姓使用の拡大は支持する人が比較的多いです。読売新聞の世論調査だと、現状の夫婦同姓が24%で法改正による選択的夫婦別姓を選んだ人が27%だったのに対して「夫婦は同じ名字とする制度を維持しつつ、通称として結婚前の名字を使える機会を拡大する」が46%と最も多かったです。「別姓は家族の一体感がなくなるから良くない」と主張する保守派の方々も、旧姓使用の拡大なら飲み込みやすいのかなと思います。
ユージ:デメリットはどうでしょうか?
神庭さん:1つは犯罪対策です。銀行の3割超が旧姓使用を認めていないのは、犯罪に悪用される懸念があるからです。なりすましやマネーロンダリングを防ぐ仕組みをどう構築するのか。戸籍名と旧姓を名寄せしてチェックするにはシステム改修が不可欠で、半永久的に二重管理のコストが発生します。その費用は国や自治体、金融機関、企業が負担することになります。2つ目は、海外では通用しないことです。パスポートは旧姓併記できますが、ICチップには戸籍名しか入らないです。入国審査で「ダブルネームじゃないか?怪しいぞ」と言われてしまいます。国内で法整備をしても、海外での対応はあまり改善しないと思います。研究者や専門職の人の場合、姓が変わることで論文の名義も変わり、キャリアが断絶してしまうという問題があります。法改正を受けて海外の科学誌や論文サイトが、わざわざ旧姓と現在の姓の紐付けをやってくれるかと言ったら、あまり期待できないと思います。
ユージ:なるほど。
神庭さん:より根本的な問題として、法律が変わっても銀行口座とかクレジットカード、携帯電話などの「本名変更手続き」が必要になるとすると、手続きの負担自体はあまり軽減されない可能性もあります。
ユージ:旧姓使用や夫婦別姓の問題、神庭さんはどう考えますか?
神庭さん:選択的夫婦別姓をめぐる議論が不毛なイデオロギー論争になり、袋小路にハマっているように見えます。私が提案したいのは「ジャンケン的夫婦同姓」です。
ユージ:「ジャンケン的夫婦同姓」。それはどういう事ですか?
神庭さん:結婚前にジャンケンして、強制的に勝った方の姓にする。現状だと、様々な負担が女性に偏りすぎているので、男女平等、フィフティー・フィフティーの確率で男性も痛みを引き受けられるようにする。家族が同じ姓になるので、「姓が違うと家族がバラバラになる」という批判も避けられますし、システム改修の費用や海外での入国トラブルも発生しません。ジャンケンだとウラで談合したり、圧を感じてわざと負ける人が出てきたりするかもしれないので、実際は役所で完全ランダムの電子的なくじ引きにするのが公平じゃないかと思いますが、そういういろんなある種の思考実験ですけど、いろんな考えを持って皆さま議論を交わして頂ければと思います。
ユージ:「選択的だったら別に良いのでは?」って思いますね。
神庭さん:そういう意見もあると思います。
ユージ:あとは単純に子供の事を考えた時にどうなのかなっていう、そこだけ気になりますね。
神庭さん:そうですよね。