25.12.11
“防災庁”を来年11月1日に設置へ、その役割は?

ネットニュースの内側にいるプロフェッショナルがニュースを読み解きます。
引き続きコメンテーターは、情報社会学がご専門の学習院大学・非常勤講師、塚越健司さんです。
今朝、取り上げるテーマはこちら!
「“防災庁”を来年11月1日に設置へ、その役割は?」
吉田:防災・災害対応の司令塔機能を担う防災庁について、 政府が2026年11月1日に内閣の下に新設する方向で調整していることが分かりました。東京の本庁に加えて27年度以降、南海トラフと日本海溝・千島海溝周辺で発生が見込まれる大規模地震の 想定地域内に1カ所ずつ、地方拠点を設ける方針です。そこで今朝は「防災庁」の役割について、塚越さんと考えます。
ユージ:12月8日に大きな地震があって「防災庁」がどんな組織になるのか気になるところですが、もともと石破前総理が政策に掲げていましたね?
塚越さん:はい。まず石破前総理は、南海トラフや首都直下地震といった大規模災害に備える為、2024年の11月に「防災庁設置準備室」を発足させました。そして、高市総理も、石破前政権を引き継いで、来年度中に防災庁設置に向けた準備を進めると話しています。こうした動きの中で、2026年11月1日に、政府は「防災庁」を設置する方針を固めたと報じられています。
ユージ:では「防災庁」はどんな役割を持つのでしょうか?
塚越さん:簡単に言うと、これまで内閣府や各省庁に分散していた防災機能を1つに集約して、災害対策の指揮系統を明確にする事です。そして、迅速かつ効率的な対応ができるような司令塔の役割を持つことが狙いです。また、復興庁やデジタル庁と同様に、内閣直下の組織として専任の大臣を置く構想がある他、他の省庁に対してこれまでのような要請や提案ではなく、行政法上の正式な権限である「勧告権」を持たせる案もあります。勧告権があると、他の機関に「これをやって」と義務を課せるということです。それだけ災害に関して強い権限を持たせるという事でしょう。他にも、災害が起きた時だけでなく、平時や事前の防災の推進や中長期的な国家政策を立案し、予算配分も含めてどの政策を優先するか等を決めるという事です。具体的には、ハザードマップや被害想定の整備。また、インフラや治水対策の推進、防災教育など様々です。これらについては、既存の国交省や総務省、気象庁などと、役割を事前にきっちりと決めておく事も必要です。災害はいろんな省庁に役割がまたがるので、どうしても省庁間で縄張り争いのようなことが起きがちです。なので、指揮系統をはっきりと防災庁が主導する必要があると思います。
ユージ:日本大震災や能登半島地震の時に「防災庁」があったら、どうだったでしょうか?
塚越さん:防災庁は、東日本大震災や能登半島地震などで生じた課題や教訓を経て組織化されます。1つ重要なのが、やはり「情報集約」です。国レベルの司令塔が1つにまとまることで、情報集約や各省庁や自治体への指示や調整が、これまでよりスムーズになる可能性があります。また、被害情報を集約するので、自衛隊や消防など、救助の初動も早くなります。また東日本大震災の時には、物資は倉庫にたくさんあるのに避難所に届かない、といった事にもなりました。こちらも避難所をデータベース化したり、物資のマッチングなどができれば、避難所ごとの物資の偏りを減らすことなどが期待できると思います。能登半島地震の際には、道路が陥没して陸路が使えずに支援が遅れてしまいましたが、防災庁では孤立地域の優先リストや物資の配置や空路・海路の緊急輸送ルートなど、初動計画を一元化する役割が期待されます。また、実際に被災して自治体が機能しなくなった時には、自治体支援の専門チームを派遣して、国が行政の肩代わりをすることもできるかと思います。とにかく、指揮系統を集約できると思います。もう1つ「デジタル化」も進められると思います。東日本大震災の時には、避難所の名簿が紙ベースのところもあり、いろんなデータの照合作業に時間がかかってしまいました。災害時に電力のかかるコンピュータを動かせるようにすることが必要ですが、デジタルでデータ化されていれば、安否確認や行方不明者の照合も早くなると思います。こういう風に利点は多いのですが、国の指揮権が強くなることで逆に自治体の判断が遅れてしまったり、防災庁を挟むことで逆に手続きが複雑になったり「二重行政化」になってしまう懸念もあります。なので、ここが事前のシミュレーションなどを行う必要があるのかな?と思います。他の違う手続きが出来てしまうって事になると、すごく煩雑になってしまいます。やっぱり省庁の争いをやめて、一元化できる方に集約する事が課題だと思います。
ユージ:「防災庁」がどんな組織になるといいと思いますか?
塚越さん:うまくいけば統一的なルールができるので、全国のいろんな対応のばらつきが減ると思います。そのあたりは実際に設置されてからですけど、災害もまたあったので頑張って頂きたいと思います。一方で、こういった国の制度の動きがありますが、私達ひとりひとりが日々の防災訓練や準備を忘れず、個人でも水や食料の備蓄とかを改めて注意していきたいと思いましたね。