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今、知っておくべき注目のトレンドを、ネットメディアを発信する内側の人物、現代の情報のプロフェッショナルたちが日替わりで解説します。

25.12.22

日中関係悪化、観光への影響は?

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ネットニュースの内側にいるプロフェッショナルがニュースを読み解きます。
コメンテーターはダイヤモンド・ライフ編集長の神庭亮介さんです。
今朝、取り上げるテーマはこちら!


【日中関係悪化、観光への影響は?】

吉田:先週、日本政府観光局の推計値が発表になり、今年1〜11月に日本を訪れた外国人客数が、推計3906万人余で過去最多となったことがわかりました。一方で、日中関係の悪化を受け、11月の中国からの訪日客数の伸び率は大幅に鈍化しています。そこで今朝は、観光への影響や今後の課題について神庭さんに解説してもらいます。


神庭さん:現時点で観光客数にはどれくらい影響が出ているのかですが、訪日外国人全体で見ると、1〜11月で推計3906万人で前年同期比を17%も上回っています。円安もあって、割安に旅行できる日本は人気なんですよね。中国と香港を合わせると全体の28%で、1000万人を超えました。ただし、足もとの11月を見ると少し様子が変わってきています。高市総理の台湾有事をめぐる国会答弁を受けて、中国政府は11月14日、日本への渡航自粛を呼びかけました。「日本国内で中国人をターゲットにした犯罪が多発している」とか「中国人への襲撃が相次いでいる」といった根も歯もないデマを流し、観光をある意味「武器化」して経済的に威圧しています。これによって中国人訪日客の伸びが急速に鈍化しています。前年同月と比べた伸び率は3%の微増にとどまりました。9月が18.9%、直前の10月が22.8%と高い伸び率を記録していたことを考えると急失速と言っていい数字ですよね。


吉田:この影響ですが、どういった業種・業界にダメージが出ているんでしょうか?


神庭さん:まず航空業界。日経新聞によると、JALの11月の中国路線の収入は10%ほど減少し、12月以降は20〜30%ほどの下ブレを見込んでいます。次にホテル・宿泊業。毎日新聞によれば、三重県松阪市のあるホテルは多い月で3000人の中国人を受け入れていましたが、団体客のキャンセルで100人分のキャンセル料を得られていない状況。12月以降の予約も見込めないということです。大阪観光局が大阪のホテル20社に調査したところ、12月末までに予約が入っていた中国人客の50〜70%がキャンセルになったそうです。関西は相対的に中国人観光客の比率が高く、その分いなくなった時のダメージも大きいです。京都もホテルや着物レンタルのキャンセルが相次いでいます。最後に小売業界。読売新聞によると、百貨店の高島屋は12月1〜14日の免税売上高が前年同期比で9.8%ダウン。なかでも中国人客は23.9%も減らしているそうです。


ユージ:数字を見ていくと、なかなか大変ですね…。


神庭さん:野村総研エグゼクティブ・エコノミストの木内登英さんは、向こう1年の日本の経済損失を1.79兆円と試算しています。日本の名目GDPの0.29%に相当し、かなりの悪影響が懸念されているんですね。他方、以前に比べて中国人観光客の存在感は低下しているという声もあります。しかも今回の自粛要請の対象は団体客であって、個人旅行の人たちは引き続き日本にいらっしゃっているんです。経済ジャーナリストの浦上早苗さんはBusiness Insiderの記事で、こう指摘しています。《ツアー客が爆買いをするというような中国人の旅行スタイルは過去のものになっている》《観光庁の統計によると2015年はツアーの比率が42.9%だったが、2025年4〜6月は11%に下がり、9割近くが個人旅行だった》《「団体旅行が〇件キャンセル」という報道はキャッチーであるが、中国人の訪日旅行の1割にすぎない》――この辺りの影響は冷静に見極める必要があるかなと思います。


吉田:長引く可能性もありますか?


神庭さん:十分あり得ますね。参考になるのが韓国のケースです。2016年に在韓米軍のTHAAD(高高度防衛ミサイル)配備を決めると、中国が猛反発しました。韓国ドラマや映画、韓国への団体旅行を制限したんです。一部緩和されたものの、8年以上経った今も制裁は続いています。韓国のように長期化する可能性も念頭に置いておいた方がいいのかなと思います。


ユージ:日本の観光業はどう対応していけばいいでしょうか?


神庭さん:ある意味チャンスと捉えて、中国依存を薄めていくべきかなと思います。欧米、韓国、台湾、東南アジアなど、訪日観光客のポートフォリオを多角化していけば、今回のような威圧を受けてもダメージを最小限にできます。政府は2030年に訪日外国人を6000万人に引き上げることを目指していますが、単に数を追うのはやめた方がいいです。たとえば、クルーズ船で大勢やってきて、駆け足で観光地をめぐり、安いお土産だけ買ってすぐに船に戻って次の寄港地へ行ってしまうようなケースでは、地元に全然お金が落ちません。そのくせ混雑で住環境が悪化して観光公害、オーバーツーリズムにもつながります。重要なのは観光客の数より質。どれくらいお金を落としてくれるのかをもっと重視した方が良いのではと思います。


ユージ:一連の問題、神庭さんはどう受け止めましたか?


神庭さん:悪いことばかりでもなくて、国内旅行を検討している人にとっては絶好のチャンスでもあります。ここ数年高騰していた京都のホテルが、キャンセルの余波で1泊3000円台、4000円台で取れたりします。混雑も緩和されてゆっくり観光できそうです。安く旅行したい方はこの機会に検討してみてはいかがでしょうか。

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