26.02.03
およそ40年ぶりの労働基準法大改正。働き方、どう変わる?

ネットニュースの内側にいるプロフェッショナルがニュースを読み解きます。
ダイヤモンド・ライフ編集長の神庭亮介さんにお話を伺います。
神庭さんに取り上げていただく話題はこちら!
「およそ40年ぶりとなる労働基準法の改正に向けて『つながらない権利』について」
吉田:およそ40年ぶりとなる労働基準法の改正に向けて議論が進んでいます。高市内閣総理大臣が打ち出した労働時間規制緩和の方針を受けて、厚生労働省は通常国会への法案提出を見送りましたが、実現した場合、職場への様々な影響が予想されます。そんな大改革の中から、けさは、勤務時間外に職場からのメールやチャット、電話などを拒否できる「つながらない権利」について、神庭さんに解説してもらいます。
ユージ:神庭さん、改めて、「つながらない権利」について教えて下さい。
神庭さん:休日にゆったりくつろいでいたら、上司からLINEやSlackで通知が来てイラっとすることや、特に急ぎでもないメールが深夜早朝に乱れ飛んで気が休まらない。そんな経験のある人は多いと思いますが、退勤した後や休日に、仕事の連絡に煩わされることがないように労働者を守るための権利が「つながらない権利」です。ヨーロッパでは保護が進んでいますが、日本ではまだ法律に明文化された規定がないんですよね。
吉田:実際、悩まされている人は多いのでしょうか?
神庭さん:多いです。2023年の連合の調査によると、「勤務時間外に部下・同僚・上司から業務上の連絡がくることがある」と答えた人は雇用者の実に72.4%を占めていて、6割超の人がそのことにストレスを感じていました。頻度は「月に1日」という人が17.9%、「週に2〜3日」が14.3%、「ほぼ毎日」という方も10.4%もいました。業種別で見ると、建設や医療・福祉、宿泊・飲食などで時間外の連絡が多く、公務員や情報通信などの領域では少ない傾向にありました。
ユージ:相当みなさん困っているみたいですね。労働基準法の改正に向けて、いったいどんなことが議論されているのでしょうか?
神庭さん:通常国会への法案提出は見送りになりましたので、あくまで議論の段階ですが、厚生労働大臣の諮問機関である労働政策審議会では、こんな意見が出ています。「労働者が勤務時間外に心身ともに仕事から離れることを実効性のあるものとすべき。」「企業内だけではなくて、顧客や取引先との関係を含めて、社会全体での取り組みを前進させるためには、しっかりと法制化を進めることが必要である。」といった意見ですね。一方で労働政策審議会の委員の間には「権利の乱用になってはいけない。労働基準法上の規制の問題として捉えることはなじまない」という慎重意見もありました。たとえ勤務時間外に連絡が取れないとしても、それを理由に社員が不利益な扱いを受けることがないようにしないといけない。それが大事ですよね。その上で法改正で対応するのか、強制力のないガイドラインを設けるのか。その辺りのやり方は色々考えられるのかなと思います。
吉田:この「つながらない権利」、海外ではどんな扱いなのでしょうか?
神庭さん:フランス、スペイン、イタリア、ベルギーなどヨーロッパ諸国では法制化されています。厚生労働省の資料によると、フランスでは従業員が勤務時間外にメールなどで返信しなくていい権利を持つことが規定されているそうです。ドイツの取り組みも面白いです。サンドラ・ヘフェリンさんの「GLOBE+」のコラムによると、ドイツのダイムラーでは、休暇中の社員にメールが届くと、「対応可能な従業員の〇〇さんまでメールをご再送ください」と自動で返信されて、休暇中の社員のメールボックスからメールが削除されるそうです。また、フォルクスワーゲンでも18時15分〜翌朝7時までの間、会社のサーバーが停止して、たとえ業務用の携帯でもメールを受信できなくなるという。企業レベルで対策が徹底しているということで、非常に感心しますよね。
ユージ:「つながらない権利」、神庭さんはどう見ていますか?
神庭さん:警察、消防、自衛隊、医療、報道など業種によっては、「つながらない権利」よりも「つながる義務」の方が優先されるケースはあり得ると思います。私も記者時代は携帯電話が手放せず、シャワーを浴びている時でも着信音の幻聴が聞こえてくるくらいでした。いまだにクセが抜けなくて、詐欺電話にもワンコールで出てしまうので、詐欺師にも驚かれるくらいです。それは置いといて。命にかかわるような職業の場合は、急な呼び出しはあり得るとは思います。急な呼び出しがあり得るとしても、1人の人に負荷が集中しないようにローテーションを組むなど職場環境を整える必要がありますよね。それ以外の職種でも、原則は「つながらない」でいいですけれども、どんな緊急事態が発生したら会社から連絡する可能性があるのかということを、事前に社員さんとの間で取り決めておくべきだと思います。
吉田:一方、課題もあると思いますが、いかがでしょうか。
神庭さん:「つながらない権利」の話になると、上司から部下への連絡ばかりが注目されがちではありますが、最近、管理職の罰ゲーム化が叫ばれるなかで、部下から上司への時間外の連絡にも当然配慮が必要だと思います。報告・連絡・相談はもちろん大事ですが、あらゆる情報が精査されないまま全部あがってきてしまったら、上司はパンクしてしまいますよね。そこまで急ぎでない連絡に関しては、翌朝の始業時間に合わせて予約メール、予約投稿する手もあります。とはいえ、重大なインシデントの報告が翌朝9時まであがってこないというのもまずい。ここは難しいのですが、バランスを取った取り決めを交わす必要があると思います。