26.03.16
石油だけじゃない!イラン戦争で日本を襲うリスクとは?

ネットニュースの内側にいるプロフェッショナルがニュースを読み解きます。
コメンテーターはダイヤモンド・ライフ編集長の神庭亮介さんです。
今朝、取り上げるテーマはこちら!
【石油だけじゃない!イラン戦争で日本を襲うリスクとは?】
吉田:イラン戦争で中東情勢が混迷を極めるなか、政府は今日、3月16日から石油備蓄を放出することを決めました。ただ、私達の暮らしへの影響は石油だけに留まりません。そこで今朝は、液化天然ガスの高騰など様々なリスクについて、神庭さんに解説してもらいます。まずは、原油高でガソリンの価格も上がっていますよね?
神庭さん:ガソリン価格は各地で1リットル200円目前まで上昇しています。既に200円を突破したスタンドもありますし、高いところだと237円という報道もありました。日本は輸入する原油の9割以上を中東に依存しており、早くもその影響が出ています。野村総研エグゼクティブ・エコノミストの木内登英さんの試算では、軍事衝突が比較的限定される楽観シナリオで、国内のガソリン価格は181円。軍事衝突が激化し、ホルムズ海峡の原油輸送に長く支障が出る中間シナリオだと204円。ホルムズ海峡が完全封鎖される悲観シナリオだと、何と328円まで上昇する可能性があるという状態です。
ユージ:328円!そんなことになったら大変ですね!
神庭さん:そうなんです。高市総理は補助金を入れて170円程度に抑えると言っていますが、仮に300円台まで上がってしまったら莫大な公費負担が発生することになると思います。
吉田:ガソリン以外の影響はいかがでしょうか?
神庭さん:液化天然ガス(LNG)の価格高騰もじわじわ効いてきています。LNGによる火力発電は日本の電源構成の3割強を占めます。石炭に比べてCO2排出量が少なく、出力の上げ下げもしやすいので、再生エネルギーの変動を補う調整電源として重宝されています。日本はLNGの調達の多角化を進めていて、オーストラリアやマレーシア、ロシアからの輸入量が多いです。中東依存度は10.8%に留まります。
ユージ:中東依存度が1割ちょっとなら、9割超の原油に比べるとだいぶマシでしょうか?
神庭さん:そうとも言い切れないです。イランのドローン攻撃を受けて、世界2位のLNG輸出国であるカタールが生産を停止し「フォースマジュール(不可抗力宣言)」を出しました。不可抗力宣言というのは、戦争や災害などで契約が履行できない状態にあることを取引先に伝えるものです。「我々ではどうしようもない事情なので、責任を免除してね」という宣言です。日本がカタールから調達しているLNGは5.3%ですが、中国やインド、韓国はカタールからの輸入に頼っています。これらの国がカタール以外からのLNG調達に動けば、世界的に争奪戦が起こり価格は上昇します。
ユージ:結局、日本も巻き込まれてしまう可能性もあるということですね。
神庭さん:おっしゃる通りです。日本はLNGの多くを15年、20年単位の長期契約で調達しています。そして、長期契約でのLNG価格は原油価格と連動します。原油が上がればLNGも上がります。また、LNGは石油のように長期間の備蓄に適さないです。マイナス162度の超低音をキープする必要があり、タンク内でもどんどん気化してしまいます。石油の備蓄は官民合わせて250日分あるのに対して、LNGの在庫は3週間分しかないのもネックです。
吉田:電気代やガス代はどうなってしまうのでしょうか?
神庭さん:数ヶ月後に時間差で上がってくる可能性が高いです。野村総研の木内さんは、中間シナリオで電気代が月額793円、年間9,518円アップすると試算しています。日経新聞に掲載された、第一生命経済研究所・首席エコノミストの永濱利廣さんの試算によると、原油価格が97ドル台で為替変動がない場合、電気・ガス代は年間1.5万円分上昇するといわれています。
ユージ:他に懸念されることはありますか?
神庭さん:「ナフサショック」ですね。ナフサは石油製品の1つです。様々な物が作れるので「魔法の液体」とも呼ばれています。ナフサ由来の基礎化学品、中間材料から、食品トレーや弁当、カップ麺の容器、肉・魚のラップ、冷凍食品の袋、ペットボトルなどが作られます。紙おむつや生理用品、洗剤などにも使われています。点滴バッグや注射器などが不足したら、医療現場にも大きな影響が出かねないです。ナフサ以外にも、中東依存が大きい尿素の不足で肥料価格が上がり、食料品のインフレに繋がることも懸念されています。中東危機でありとあらゆる物の値段が上がり、貿易収支の悪化で円安も加速します。物価高なのに景気が停滞する悪いインフレ、スタグフレーションにならないか心配です。
ユージ:日本はどうしたらいいでしょうか?
神庭さん:打つ手なし、みたいなところもありますが、その場しのぎでガソリン代や電気・ガス代を補助すると「なんだ全然上がってないし、問題ないじゃん」となり、かえって需要を煽ることになります。やめ時を見失うリスクもあります。エネルギー代が上がっているなら、本来は社会全体で「省エネ、節約をしよう」という方向にいくべきだと思います。補助金をじゃぶじゃぶ突っ込むと、そういう機運を削いでしまいます。買い占めなどの無用なパニックを防ぐ為、政府の適切な情報発信も大切だと思います。コロナと一緒です。恐れすぎず、侮りすぎず、落ち着いて行動して欲しいと思います。