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26.03.24

春闘「満額回答」ラッシュ、3つの落とし穴

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ネットニュースの内側にいるプロフェッショナルがニュースを読み解きます。

ダイヤモンド・ライフ編集長の神庭亮介さんにお話を伺います。
神庭さんに取り上げていただく話題はこちら!


【春闘「満額回答」ラッシュ、3つの落とし穴】


吉田:春闘は3月18日に主要企業の集中回答日を迎え、日立製作所やNEC、三菱重工業などが、基本給を底上げするベースアップ相当分で労働組合の要求に満額回答しました。しかし、そんな「満額回答」ラッシュも良いことばかりではないようです。今朝は神庭さんと一緒に、春闘の課題を深掘りしていきます。


ユージ:まずは各社の回答状況を教えてください。


神庭さん:朝日新聞によると、労働組合からの要求に対して、トヨタは6年連続の満額回答。ボーナスも7.3カ月分で満額回答でした。このほか、日産、ホンダ、マツダ、日立、パナソニック、三菱電機、NEC、富士通、東レ、三菱重工などが満額回答。スズキや三井金属、JX金属では要求を上回る回答もあり、まさに満額回答ラッシュと言ってもいい状況です。とっても素晴らしいことですが、実は3つの落とし穴が隠れているんですね。


ユージ:3つの落とし穴。気になりますね。


吉田:1つ目の落とし穴は何でしょうか?


神庭さん:これは「労働組合の要求水準が低すぎる」ということです。満額回答と聞くと「太っ腹な会社だな」と思う人もいるかもしれませんが、これは会社が余裕で払えるだけの水準に収まっているということでもあります。そもそも交渉が「勝負」になっていない可能性があります。エコノミストの河野龍太郎さんは、唐鎌大輔さんとの共著『世界経済の死角』のなかで、このように指摘しています。日本労働組合総連合会(連合)が求めている5%台の賃上げ率の中には、毎年自動的に上がる定期昇給の約2%弱が含まれています。これを除くと、賃上げ要求は3%台にとどまります。一方で、最近のインフレ率は3%程度ですから、実質賃金の上昇幅はごくわずかに過ぎません。要求水準としてはあまりにささやかすぎるとして、大企業の経営者だけでなく、労働組合の側も『実質ゼロベア・ノルム』に侵されているとおっしゃっています。


ユージ:労働組合の側にも課題があるということですか?


神庭さん:大いにあると思います。アメリカでは組合がストライキをガンガンに打って、フォードが4年間で25%、ボーイングが5年で24%もの賃上げを実現しています。もちろん制度も文化も違うので単純比較はできませんが、それに比べると日本の組合はちょっと遠慮がちというか、迫力不足なのかなという気もしますよね。


吉田:続いて2つ目の落とし穴は何でしょうか?


神庭さん:追いつけない小規模企業です。日本企業の99.7%は中小企業で、日本の労働者の7割が中小企業で働いています。大手ばかり賃上げが進んでも日本は元気になりません。帝国データバンクの調査によると、2026年度に賃金改善を見込む企業は63.5%。ところが、従業員5人以下の企業となると41.6%にとどまります。賃金改善を実施しない割合も29.7%と突出して高い。大企業から中規模企業までは徐々に賃上げの波が及びつつありますが、小規模企業に関しては置き去りになっているのが実情です。


ユージ:どうして賃上げ格差が広がっているのでしょうか?


神庭さん:中小企業ほど賃上げ分を価格転嫁しにくいのです。昨年の中小企業庁の調査によると、価格転嫁率は53.5%。コスト別に見ると、原材料費55%、労務費50%、エネルギーコスト48.9%という結果でした。つまり賃上げも、原油高も、半分程度しか商品に価格転嫁できていないわけです。特に飲食、トラック運送、廃棄物処理、農業・林業などの業種は転嫁率が低いです。また1次請け、2次請け、3次請けと取引階層が深くなるほど価格転嫁しにくくなる傾向が見受けられました。大企業は自社の社員の給与を引き上げて終わりではなく、取引先まで目配せする必要があると思います。


吉田:では、3つ目の落とし穴は何でしょうか。


神庭さん:「イラン戦争とエネルギー危機」です。野村総研エグゼクティブ・エコノミストの木内登英さんの試算によれば、ホルムズ海峡が完全封鎖される悲観シナリオだと、ガソリン価格は最悪328円まで高騰する可能性があるといいます。電気・ガス代に加えてプラスチック製品、肥料代なども上昇が懸念されています。先ほど言ったように、中小企業がエネルギーコストの48.9%しか価格転嫁できていない状態では、賃上げどころではなくなってしまうかもしれません。


ユージ:では、どんな対策が必要なんでしょうか?


神庭さん:連合の「未来づくり春闘」評価委員会は、こんな趣旨の提言をしています。1つ目は、将来のインフレ見通しを要求水準に反映することです。現状、賃上げの際は、過去の物価上昇率を参照しています。けれども、本来の目的は、次回の交渉までに労働者の生活を少しでも良くすることですよね。したがって、過去ではなくて、今後1年のインフレ率や労働生産性の見直しが重要と言っています。そして2つ目が、実質賃金に関する「キャッチアップ条項」の導入です。戦争などで想定外の物価高騰で見通しが外れてしまった場合、実質賃金が下がってしまった分を次回の交渉で補正するというもので、そのことを明文化したキャッチアップ条項を設けることも有効だと連合は言ってるんですね。私からも1つ付け加えさせてもらうと、トランプ関税とかイラン戦争で1カ月先のこともわからない混迷した状況が続いている。なのに、賃上げのチャンスが1年に1回の春闘だけでいいのか?ということは、すごく思うところです。春夏秋冬、ずっと闘い続けてもいいと思います。社会が変化するスピードに賃上げを同期させていく必要があるのではないでしょうか。

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