26.05.05
これからの日本の子どもの教育の課題

ネットニュースの内側にいるプロフェッショナルがニュースを読み解きます。
ダイヤモンド・ライフ編集長の神庭亮介さんにお話を伺います。
神庭さんに取り上げていただく話題はこちら!
『財務省の私立大学の大幅削減案から考える、これからの日本の子どもの教育の課題』
吉田:財務省は先月23日、私立大学の数を2040年までに少なくとも250校程度減らす必要があるという数値目標を示しました。少子化で18歳人口が減少するなか、大学教育の質を確保することが狙いです。今朝は、大学削減案をめぐるニュースの背景と課題について、神庭さんと深掘りします。
ユージ:神庭さん、まずは財務省から大学削減案が出てきた理由をお願いします。
神庭さん:少子化で18歳人口は1989年の198万人から2024年は109万人まで45%も激減しています。にもかかわらず大学は逆に増え続けていて、499校から813校へ63%も増加しているんですね。学生10万人あたりの高等教育機関の数を比較すると、フランス5、ドイツ10、アメリカ19に対して、日本は31と突出して多い。その結果、半数を超える私立大学が定員割れに陥っています。こうした大学では、足し算・引き算・かけ算・割り算の四則演算や、英語のbe動詞の働き、現在形と過去形の違いなど義務教育レベルの授業をしているところも中にはあるんですね。
ユージ:かなり基本的な内容を教えている大学もあるんですね…。
神庭さん:学生の質を担保するためにも、もっと大学数を絞り込むべきだというのが財務省の考えで、18歳人口に合わせるなら、2040年までに国公立大で3.6万人、私立大で14万人の学部定員を削り、私立大を少なくとも250校減らす必要があると指摘しています。私立大は現時点で624校ですから、250校減らすということは実に『4割減』の大ナタです。私立大には年間3000億円の私学助成金が支払われていますので、ここにメスを入れたいというのが財務省の本音かなと思います。
吉田:かなり大胆な削減案ですが、反対意見としてはどんなものがありますか?
神庭さん:この問題は、コストカットしたい財務省vs抵抗する文部科学省の最終戦争みたいなところがあるんですね。ですから、公平を期すために、財務省に対する文科省の『反論』も紹介しようと思います。一つ目は、「私立大の事業活動収入に占める国からの補助金などの割合は1割ほどしかない」ということ。しかも、定員充足率が90%未満の学部に対しては減額措置をとっていて、50%未満の場合はそもそも補助金を出していないということなんですね。そして、補助金の多くは定員充足率90%超の大学に交付されているので、つまりは、「定員割れの大学にジャブジャブ税金を流すようなことはしてませんよ」ということです。また、定員割れの事実のみで機械的に判断するのではなく、理工・デジタル系人材の育成強化や人文・社会科学系の学部の縮小で教育の質を向上させつつ、大学の規模を適正化させることが重要とも文科省は訴えています。
吉田:他にも主張があるそうですね。
神庭さん:文科省は、「日本の大学には世界的な研究・教育を目的とするものもあれば、地域社会を支える職業人の育成を目的とするものもある。一律に扱うのではなく、それぞれの大学で必要な教育のあり方を考えていくことが必要」というふうにも言っているんですね。18歳人口や定員充足率など数字でズバズバ斬ってくる財務省に対して、「各大学いろいろ事情があるんだから、一律に輪切りにしないでくださいよ」と食い下がる文科省という構図があるのかなと思います。
ユージ:神庭さんはこの財務省と文科省のバトルをどう見てますか?
神庭さん:何かと評判の悪い財務省なんですけれども、今回は財務省の方に軍配を上げたいと思います。文科省には、人口減少のさなかにガバガバ基準で大学を増やしまくって質の低下を招いた責任があると思うんですね。実は2040年までに250校減らすというプラン自体も大甘で、学生10万人当たりの高等教育機関の数を米英独仏韓の平均に合わせるなら、本来は400校減らさないといけないんですよ。だから財務省は「“少なくとも”250校程度」という言い方をしているんですね。一方で財務省にも注文があります。日本の公的支出に占める教育費の割合はたった8%です。OECD諸国37カ国の中で、イタリア、コロンビア、ギリシャに次いでワースト4位なんですね。『海外並み』を主張するのであれば、予算カットの話ばかりでなく増やす話もしないとフェアではありません。大学の授業で割り算やbe動詞が教えられているとしたら、それは義務教育の敗北ですよね。定員割れ大学への助成金を削った分だけ、小中学校の先生を増やす、給料を上げるなどの措置を取るべきじゃないかなと思います。
吉田:今回の大学の削減案、神庭さんはどう見ていますか?
神庭さん:大学進学率は1989年の24.5%から2024年は58.6%まで上昇しています。ただ、このまま100%を目指すことがいいことかというと、『エリート過剰生産が国家を滅ぼす』という本もありますので、それはどうかなと思います。大学は高等教育機関なので、「もっと勉強したい」「高校までの勉強じゃ足りない」という子が本来通うべきで、あまり勉強が好きでない子にまで「モラトリアムのために通ってください」と無理やり頼み込むのは違うかなと思います。テスト勉強がすべてではなく、機械いじりが好きな子もいれば、デザインが得意な子もいます。今、大学進学が絶対視されているせいで、事務職が人余りで、ブルーカラーの人材不足が発生する、雇用のミスマッチが起きているわけですよね。目指すべきは『大学全入』ではなく、就職時に高卒・中卒を排除するような学歴差別をやめること。高卒人材を『令和の金の卵』として、もっともっと大事にした方がいいと思います。