26.10.12
AI企業が日本の本を大量購入、賛否両論の背景

ネットニュースの内側にいるプロフェッショナルがニュースを読み解きます。
コメンテーターはダイヤモンド・ライフ編集長の神庭亮介さんです。
今朝、取り上げるテーマはこちら!
【AI企業が日本の本を大量購入、賛否両論の背景】
吉田:大手AI企業のアンソロピックが、日本の出版取次会社から大量に書籍を購入していたことが分かりました。また、古書店にも米国から数千冊単位の注文が相次いでおり、AI学習に使われているのではないかとの指摘もあります。そこで今朝は、こちらのニュースについて、神庭さんに解説してもらいます。まずは、何故AI企業が日本の本を大量購入しているのか教えてください。
神庭さん:AIの「2026年問題」といって、AIがネット上にあるテキストをあらかた学習し尽くしてしまい、2026年にも高品質なデータが枯渇してしまうのではないかと以前から言われていました。AIがネットにあるテキストを学習して、ネット上に文章を吐き出す。そして、そのデータをまた学習して…をどんどん繰り返していったら、いつかAIがバカになっちゃうかもしれないです。そこで、AI企業が目をつけたのが書籍のデータです。本をスキャンしてデータ化し、AI学習に使っているものとみられます。
ユージ:これは法律的に問題ないのでしょうか?
神庭さん:2018年に新設された著作権法第30条の4では、AIに文章やイラストなどの著作物を学習させることが認められています。人間が作品を楽しむ為に使うのではなく、データを解析する為なら著作権者の許諾がなくてもOKということになっています。ただし、AI学習なら無制限に何をやっても良いわけではなく「著作権者の利益を不当に害する場合は駄目だよ」という但し書きもあります。AIが本の内容をそのまま再現して本の売上が落ちた、といったケースでは著作権侵害とみなされてもおかしくないです。
ユージ:日本の法律で裁くことはできるのでしょうか?
神庭さん:アメリカ企業がアメリカでAI学習させた場合、裁判もアメリカの管轄になる可能性がある。アンソロピックがClaudeの訓練の為に書籍データを学習させた件について、アメリカの連邦地裁は2025年、フェアユースであって著作権侵害に当たらないという判断を示しました。一方で、700万冊の書籍を海賊版サイトからダウンロードしてAI学習に使っていた点が問題視され、アンソロピックは総額15億ドル(約2,200億円)という巨額の和解金を払うことになりました。ただ、今回の古書店のニュースのように、海賊版ではなく正規で買い付けられた書籍の場合は「フェアユースでお咎めなし」となる可能性が高そうです。
吉田:書籍を売る側、買う側、それぞれ何と言っているのでしょうか?
神庭さん:日経新聞によると、書籍をアンソロピックに大量販売した出版取次会社は「AI学習への利用が目的だとは認識していなかった」と主張していました。アンソロピックは「書籍を調達して学習に使うのは、AI業界全体で大規模言語モデルの学習手法として広く行われている。当社はいかなるデータ取得プログラムにおいても希少本などを購入して破棄することはない」としています。また、NNNは古書店員の「売上が上がるのは嬉しいが、本の価値は今後どうなるのか。複雑な気持ちもある」との声を紹介しています。
ユージ:書籍のAI学習、どんな意見が出ているのでしょうか?
神庭さん:賛成ないし擁護意見としては「本は誰でも自由に買える」「法的に問題ない」「消えゆく知識がAIによって有効活用される」「AIが日本の文学に造詣が深くなってくれたら嬉しい」といった声があがっています。反対ないし慎重意見としては「文化の流出」「古本がAIの養分になって廃棄されるのは悲しい」「安売りしないでほしい」「古本が売れても、著者には1円も入らない」などの声があがっています。また、日本雑誌協会、日本写真著作権協会、日本書籍出版協会、日本新聞協会の4団体は今回の一件が報じられる3年前、2023年の段階でこんな共同声明を出しています。「日本の著作権法第30条の4が諸外国に比べ、AI学習に極めて有利に作られていることは大きな課題です」「権利侵害コンテンツが大量に流通する恐れがあるにも関わらず、著作権者に対する実効的な救済策は何ら示されていません」。
ユージ:一連の問題、神庭さんはどう考えていますか?
神庭さん:難しいですが、音楽配信、ニュース配信、検索、通販。この20年、あらゆるジャンルで海外のプラットフォーマーが覇権を握り、日本のコンテンツプロバイダーの多くはデジタル小作人の地位に甘んじてきました。それを「AIでもまた同じことを繰り返すのか?」という疑問はあります。詳細が分からないので、個別事案について何か言うのは控えたいですが、AI企業だけが利益をむさぼるのではなく、著作権者や日本側の関係者が真っ当な見返りを得られるような仕組みを構築する必要があると思います。一方、AIの進化は不可逆です。留まることを知らないことになると思いますが、今後は書籍の受容のされ方も大きく変わっていくでしょう。つい最近、Amazonのオーディオブックサービス「Audible」で、本の中の人物と対話できる新機能を提供する、というCNETの報道がありました。こうした進化を拒否するのではなく、読者や著者も含めた関係者がウィンウィンになるような形で前に進んでいけると良いと思います。
ユージ:そう思いますね。あと、本を購入して著作権料を払って学習するのは良いですが、その学習したものを無償で人に提供するのはちょっと問題あるかもしれないと個人的には思いますね。