yes!~明日への便り~presented by ホクトプレミアム 霜降りひらたけ

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第431話 スペシャリストにならない
-【音楽家のレジェンド篇】クロード・ドビュッシー-

Podcast 

©GAUTIER Stephane/SAGAPHOTO/Alamy/amanaimages 印象派、象徴派と言われ、独自の世界観を切り開いた、フランスの作曲家がいます。 クロード・ドビュッシー。 今年3月に亡くなった坂本龍一は、ドビュッシーを敬愛していたことで知られています。 新潮文庫の自伝『音楽は自由にする』では、中学2年生のときに、初めて弦楽四重奏曲を聴いたときの衝撃が綴られています。 自分自身をドビュッシーの生まれ変わりではないかと考えたことがあったと語り、その傾倒ぶりがうかがえます。 毎年行われるクラシックコンサートで、必ずといっていいほど、全国のどこかで演奏される、ドビュッシー。 彼の音楽の何が、ひとびとを魅了するのでしょうか。 ドビュッシーは、こんな言葉を残しています。 「私は、スペシャリストになりたくない。 自分を専門化するなんてバカげている。 自分を専門化してしまったら、それだけ、自分の宇宙を狭くしてしまうんだ。 みんなどうしてそのことに気がつかないんだろうか」 ドビュッシーは、自分を枠にあてはめられることを嫌がりました。 伝統的な奏法を無視したことで、彼が発表する曲の評価は、安定しませんでした。 高評価があるかと思えば、演奏中に観客が帰ってしまうほどの不評もあり、社会的な成功は、なかなか得られません。 内向的で頑固な気質と、女性にのめりこむ性格。 音楽院の教師や音楽出版の編集者など、周囲のひとたちは、扱いづらい芸術家に、手を焼いていました。 それでも、ドビュッシーは、前に進むことをやめません。 ガムランの響きに感動し、絵画や文学にインスパイアされ、唯一無二の音楽世界を求めたのです。 その結果、昨年生誕160年を迎えた彼の音楽は、後世に多大な影響を与え、ガーシュウィン、デューク・エリントン、マイルス・デイビスなど、ジャズ界においても、彼の格闘の歴史は引き継がれていったのです。 創っては壊し、壊しては創ることをやめなかった賢人、クロード・ドビュッシーが人生でつかんだ、明日へのyes!とは? ©Eric James/Alamy/amanaimages フランスの作曲家、クロード・ドビュッシーは、1862年8月22日、フランス帝国、サン=ジェルマン=アン=レーに生まれた。 父は陶器を扱う店をやっていたが、経営はおもわしくなく、貧しかった。 気の弱い父は、勝気な母にいつも叱られていた。 一家は、あまりの困窮ぶりにサン=ジェルマンを離れ、母の実家があるパリに移り住んだ。 モンマルトルの丘のふもと。 歓楽街で、およそ子育てには不向きな場所だった。 ドビュッシーは、無口で、表情を顔に出さない子どもになった。 唯一 彼が心を許していたのは、叔母のクレメンティーヌだけだった。 クレメンティーヌは、美しく奔放で、大金持ちの男を渡り歩いていた。 なぜか彼女はドビュッシーを可愛がった。 「あんたはきっと、有名になるわ。 あたしね、そういう勘だけは当たるのよ」 彼女がカンヌの富豪と暮らしていた時、そこに、8歳のドビュッシーが呼ばれた。 短い期間だったが、この幼い日のカンヌ体験が、彼の人生を変えることになる。 カンヌの青い海、薔薇の香り、降り注ぐ清潔な太陽。 そこで、ドビュッシーは、ピアノのレッスンを受けた。 彼はのちに、こう語った。 「言葉で表現できなくなったその瞬間、音楽が始まるのです」 ©StevanZZ/Alamy/amanaimages クロード・ドビュッシーの音楽人生は、簡単には始まらない。 1870年に勃発した普仏戦争。 この戦争により、ドビュッシーの父は職を失う。 さらに父は、当時、勢いのあった反政府軍に入隊。 しかし、情勢は反転。 政府軍が粛清をおこない、反政府軍の人たちは、捕虜となり罰せられた。 ドビュッシーは9歳にして、『反逆者の子ども』というレッテルを貼られる。 アパルトマンに石が投げられ、周囲の冷たい視線の中、生きる。 牢獄の劣悪な環境の中、父は、我が息子のことを思った。 まわりの囚人に聞いてまわる。 「ウチの息子は、ピアノがうまいんです、大好きなんです、どなたか、レッスンをしてくれるひとを知りませんか? 犯罪者の息子でも、レッスンをしてくれるピアニストをご存知ないですか? オレのせいで…オレのせいで息子はしなくていい苦労ばかりしているんです。 お願いです、誰か、誰か、息子を助けてやってください!」 返事は、ない。 絶望の果て、うつろな目をしていた父に、ある老人が近づいてきた。 「ひとり…いいピアノ教師を知っているよ」 それが、詩人ヴェルレーヌの義理の母、フルールヴィル夫人だった。 ドビュッシーは、このはからいが父のおかげだと、生涯、知らなかった。 フルールヴィル夫人は、一瞬で、クロード・ドビュッシーの才能に気がついた。 音楽の基礎知識がまるでないのに、音を感性でとらえる能力がある。 レッスン料をとらず、熱心に教える。 ただ、彼の弱点もわかっていた。 誰も信じない暗い瞳。 創ることより、壊すことに情熱を注ぐ性質。 でも、五感を音に変換する能力は、ずば抜けていた。 ドビュッシーは、10歳で、パリ音楽院に入学。 この奇跡の背後にも、父の尽力があったことを、彼は知らない。 パリ音楽院でも、ドビュッシーの閉ざされた心は、開かれることはなかった。 それどころか、裕福な同級生に恵まれた音楽環境を見せつけられ、激しいコンプレックスに、口をきくことができなくなった。 ただ、音楽院のピアノ教師、アントワーヌ・マルモンテルは、ドビュッシーに、他の生徒にはない「魅力的な素質」を見た。 ショパンの生演奏を自らの耳で聴いたことのあるマルモンテルは、ビゼーなど、多くの音楽家を育てたレジェンド。 ドビュッシーのピアノ演奏に感動を覚える一方、彼の破壊的な衝動に危機感を覚えた。 「いいかい、ドビュッシー君、音楽は、ひとを驚かすものじゃない。 ひとに幸せを与えるものなんだ。 だから、何度、壊してもいい、そのたびに、創りなさい。 100回壊したら、101回創りなさい。 誰かの真似をして、自分の世界を閉じることはない。 ただ、創りなさい。自分の世界を、自分の夢を」 「今日の不協和音が、明日の協和音である」 クロード・ドビュッシー 【ON AIR LIST】 『版画』より「1.塔」 / ドビュッシー(作曲)、ジャン・イヴ・ティヴォーテ(ピアノ) ※ドビュッシーがガムラン音楽に魅了され生まれた曲です 交響詩『海』第一楽章 地上の夜明けから正午まで / ドビュッシー(作曲)、ジャン・マルティノン(指揮)、フランス国立放送管弦楽団 夢 / ドビュッシー(作曲)、辻井伸行(ピアノ) 弦楽四重奏曲ト短調 作品10 第1楽章 アニメ・エ・トレ・デシデ / ドビュッシー(作曲)、アルバン・ベルク四重奏団 ※坂本龍一さんが中学2年のとき聞いて衝撃を受けた曲です CDブック『坂本龍一選 耳の記憶』収録
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RECIPE

レシピ

2種のきのこのフレンチトーストオープンサンド風

今回は、旬の食材、さつまいもを使った料理をご紹介します。

材料 (2人分)
  • 霜降りひらたけ 1パック
  • 一番採り 生どんこ L2個
  • おろしにんにく 小さじ2
  • サラダ油 大さじ2
  • 塩 ひとつまみ
  • こしょう 少々
  • 刻みパセリ(乾燥でも可) 小さじ1
  • 菜の花の花 適量
  • ≪さつまいものマッシュ≫
  • さつまいも 1本
  • バター 小さじ4
  • はちみつ 小さじ2
  • 塩 ひとつまみ
  • ≪フレンチトースト≫
  • バゲット(食パンでも可) 2切れ
  • 【A】全卵 1個
  • 【A】牛乳 100ml
  • 【A】砂糖 大さじ3
写真 カロリー / 510kcal(1人分)
調理時間 / 30分(漬け時間は除く)
使用したきのこ / 霜降りひらたけ、一番採り 生どんこ
作り方
  • 1.
  • 霜降りひらたけは小房にほぐし、生どんこは厚めにスライスする。おろしにんにくと油を混ぜ合わせたにんにくオイルで焼き、塩、こしょうをして、刻んだパセリを混ぜ合わせる。
  • 2.
  • さつまいもの皮をむいてラップをし、電子レンジ(600W)で5分ほど加熱する。ボウルに移し、バター、ハチミツ、塩を入れてフォークでつぶす。
  • 3.
  • 【A】を混ぜ合わせた卵液に1時間ほど漬けておいたバゲットをフライパンで両面を焼く。
  • 4.
  • (3)に(2)(1)の順にのせ、菜の花の花を飾り、皿に盛る。

yesとは?

番組概要

『自分にyes!と言えるのは、自分だけです』今週あなたは、自分を褒めてあげましたか? 古今東西の先人が「明日へのyes!」を勝ち取った命の闘いを知る事で、週末のひとときをプレミアムな時間に変えてください。あなたの「yes!」のために。

語り:長塚圭史 脚本:北阪 昌人 ▸ Profile

放送時間
TOKYO FM…SAT 18:00-18:30 / FM大阪…SAT 18:30-19:00
FM長野…SAT 18:30-19:00 / FM軽井沢…SAT 18:00-18:29
  • TOKYO FM…SAT 18:00-18:30
  • FM大阪…SAT 18:30-19:00
  • FM長野…SAT 18:30-19:00
  • FM軽井沢…SAT 18:00-18:29
長塚 圭史

PROFILE

長塚 圭史
語り: 長塚 圭史
1975年生まれ。東京都出身。96年、演劇プロデュースユニット「阿佐ヶ谷スパイダース」を旗揚げ、作・演出・出演の三役を担う。08年、文化庁新進芸術家海外研修制度にて1年間ロンドンに留学。帰国後の11年、ソロプロジェクト「葛河思潮社」を始動、三好十郎作『浮標(ぶい)』を上演する。近年の舞台作品に、『鼬(いたち)』、『背信』、『マクベス』、『冒した者』、『あかいくらやみ~天狗党幻譚~』、『音のいない世界で』など。読売演劇大賞優秀演出家賞など受賞歴多数。 また、俳優としても、NHK『植物男子ベランダー』、WOWOW『グーグーだって猫である』、WOWOW『ヒトリシズカ』、CMナレーション『SUBARUフォレスター』など積極的に活動。
北阪 昌人
脚本: 北阪 昌人
1963年、大阪生まれ。学習院大独文卒。 TOKYO FMやNHK-FMなどでラジオドラマ脚本多数。 『NISSAN あ、安部礼司』(TOKYO FMなど全国FM37局ネット)、『ゆうちょ LETTER fo LINKS』(TOKYO FMなど全国FM38局ネット)、『世界にひとつだけの本』(JFN)、『AKB48の私たちの物語』(NHK-FM)、『FMシアター』(NHK-FM)、『青春アドベンチャー』(NHK-FM)などの脚本・構成を担当。『プラットフォーム』(東北放送)でギャラクシー賞選奨、文化庁芸術祭優秀賞受賞。『月刊ドラマ』にて、『ラジオドラマ脚本入門』連載中。 主な著書に『世界にひとつだけの本』(PHP研究所)、『えいたとハラマキ』(小学館)がある。

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