2025.05.27
転んでも怪我をしない世界に
ONE MORNING「 The Starters 」
火曜日のこの時間は社会に風穴を開けようと取り組む若き起業家をお迎えして
そのアイデアの根っこにあるものや未来へ向けたビジョンを伺います。
今週と来週のゲストは、株式会社Magic Shields 代表取締役CEOの下村明司さんです。
下村明司さんは神奈川県のご出身。ヤマハでバイクの研究開発に従事し、同時にプライベートで人を守る発明活動を行い、その後、2019年Magic Shieldsを創業されています。
今週は主な事業内容について伺います。Magic Shieldsは転んだ時だけ柔らかい床「ころやわ」の開発・販売を行っているということで、どういうものかご説明お願いします。
「はい。実は今、お年寄りが転んで骨折する。そしてそこから寝たきりになって認知症になってしまう、という例がたくさんあって、これを防ぐために、"歩く時は硬くて転びにくい。でも転んだ時には柔らかくへこんで骨折を防ぐ"という新素材を使っています。」
そんなことができるんですね。触ると硬い。しかし、転んだ時の衝撃は柔らかい。
どうしてへこむのに安定して歩けるんですか?
「そうですね。メカニカル・メタマテリアルと言われるジャンルの技術で、簡単に言うと紙コップも似たような特性を持っているんですが、紙コップは優しく押す分には潰れませんよね。でも、軽く叩くとあっさりと潰れてしまう。これと同じような物理現象を床で起こしています。」
つまり、歩く時の衝撃を軽い衝撃と捉えるのであれば、歩くぐらいの軽い衝撃を加えると固く感じる。逆に、走る時の様に、かかとがドンと地面につく強い衝撃が加わる動きの時は、柔らかく感じるんですね。
お持ち頂いたフローリング材のようなサンプルを触っているのですが、やはり、面で押すとかなり硬い。でも、指や膝などの尖った部位で押すとクッションのように衝撃を吸収していますね。
さらに詳しく、「ころやわ」のポイントを教えてください。
「お年寄りの転倒といっても、いろんな転び方、いろんな怪我があります。その中でも特に、大腿骨を折ってしまうことと頭を打ってしまうこと、この二つが本当に致命傷になるんですね。この二つに注目して我々は開発しており、先ほど体験していただいたように、歩く時は、面で小さい力が働くのでへこまない。転んだ時には、頭などの、点で大きな力が働くので、その時にはムニュッと潰れてくれるという具合です。」
何か物を落とした時にも、役に立ちそうですよね。落としたものが壊れにくいんじゃないでしょうか。
「そうですね。ワイングラスや植木鉢などを落としても大丈夫です。」
子供がいる家庭にもいいなと思いました。なるべくガラスのコップは危ないので使わないようにしているんですが、そういった家庭でも、落としても割れにくいというのであればとても便利ですよね。
やはり素材がフローリングに近い、というのが歩きやすさにつながっているんですか?
「骨折を防ぐ、衝撃を吸収するという意味だけだとスポンジでもいいんですが、これだと困ることがいくつかあって。一番はやはり、お年寄りだとこの上を歩けないんですね。足元がおぼつかないので転んでしまいます。また、杖や車椅子使っている方もいらっしゃるので、スポンジ素材だと杖をついたり移動したりするのが難しくなってしまいます。また介護や看護する方々、ご家族の方にとっても、足元が柔らかいと抱きかかえたり踏ん張ったりするのにも余計に体力を消耗してしまい、介護が非常に難しくなってしまいます。なので、普段は硬くあってほしいんです。」
実際に導入も進んでいるんですか?
「そうですね。全国で既に1000棟以上の病院や介護施設に設置済みです。また、海外でも10か国の利用があります。」
すごいですね!これは床によって形を合わせられる構造になっているんですか?
「はい。これは、切ったり貼ったりと簡単に加工できるようになっていて、壁に合わせて切って使います。病院以外にも個人の在宅介護や保育園などでも利用いただいています。」
値段はどのくらいなのでしょうか?
「商品形態によってある程度幅はあるんですが、平米あたり2 、3万円ぐらいで介護保険の補助金も使えるので、最大18万円の補助金が国から出る形になります。」
じゃあ家で介護されている方は、個人宅での使用も可能ということですね。
お家のリフォームで、バリアフリー化をリフォームの目的とされている方も多いと思うんです。段差をなくしたり手すりの位置を変えたり、そういったことも一環で導入を進めてもいいかもしれないですね。
「骨折してしまうと、入院費で何十万払ったり、あるいは介護施設行かなければいけないとなると、何百万という費用かかってくるので、だったらこういったもので予防した方が幸せだし、お金もかからないですよね。」
上はフローリング材のようなクッションフロアが一枚引いてあるので、見栄えもいいですよね。
実際に利用されている方からどういった声が届いていますか?
「やはり繰り返し転倒されている方々からは、転んでも怪我がなかったということで「歩きやすくなった」とか「安心感がある」という感想があり、喜んでいただけています。」
最後に、これまで乗り越えてきたハードルを教えてください。
「やっぱり最初に病院の人たちに使っていただくというのは、一番のハードルでした。」