今週は、猟師さんをめぐるお話です。
ゲストにお迎えするのはノンフィクション作家の北尾トロさん。
一時期移住していた長野県で狩猟免許を取得、
「猟師さん」になった北尾トロさんに
新米猟師として経験したさまざまなエピソード、
知られざる「猟師」の世界について伺います。


長野県に僕が移住したんですよ。松本市というところで。
知り合いの人から猟師さんに会ってみないかと言われたんです。
猟師さんにインタビューしない?と。
それは無理だよと最初はお断りしたんですね。
その理由は、素人が専門分野というか、
そういうことをやっている人のところにいきなり訪ねていって、
いくらライターだといってもわかるわけない、
聞いたって。
相手も面白くないから本当に良い所の話を
してくれるわけがないと思ったんですね。
だからそんなのはうっかり手を出すもんじゃないと思ってやめたんですけど、
そこからしばらくして、
ちょっと猟師さんって面白そうだなと思って、
どうしたら話が聞けるかと考えて、
自分がなれば良いじゃないかと。
自分が猟師になっちゃえばキャリアの差はあるけど
認めてくれるんじゃないかと。そこら辺が始まりですよね。


じゃあ、猟がしたくてというより
猟師さんにインタビューがしたくて、なんですね!


最初はライターとしての好奇心で
ちょっとやってみようと思っただけなんです。
銃なんてねえ。怖いじゃないですか。
それで調べると猟といってもいろんなやり方があるんです。
一番ハードなのが熊。
命がけの猟みたいなものもあれば鹿や猪や、
そして鳥撃ちというのがあるんです。
キジとかカモとか鳥を相手にする猟の場合空気銃という。
銃にも3種類あって、一番威力があるのがライフル。
映画なんかでも出てくるライフル銃。
それから散弾銃があって空気銃がある。空気銃は火薬を使わないんです。
空気を圧縮した、空気の力で弾を打つから火薬がいらないんですね。
じゃあ空気銃だったら良いんじゃないかと。
それで家族に相談をして、俺猟師になろうと思うと。
どう思う?と聞いたら、最初は笑われたんですけど説明して、
空気銃だったら家にあってもいい?と聞いたら、
しぶしぶだったんですけど、
「火薬がないなら良いんじゃないの、そんなにやりたいんだったら」と。
ただ「やる以上は取れよ」と言われて。
それから免許を取る講習を受けたり空気銃を所持しまして、
準備をするわけですけど、どこに行ってどういうことをすれば
どこへ行ってどういうことをすれば鳥が入るのかとか、
どうしていいかわからないので困っているときに、
やっぱりこれを教えてくれる人が欲しいなと思って
人づてに師匠を探したんです。
それがラーメン屋さんなんですけど、ラーメン屋の店主で、
噂であそこのラーメンは何か猟師が集まってワイワイやっている。
行くと鴨肉とか出してくると言うので行って、
習いたいんですけどと言ったら「いいよ」ということで弟子になったんです。
だから初年度は全く当たらない。


初めて打ったときどんな感じでしたか?

相手は生きているじゃないですか。
鳥の命を獲るということじゃないですか。
そんなことが自分にできるのかなと思って、自信がなかったんです。
それで、空気銃というのはスコープが付いていて、
それを覗くと遠くのものも近くに見える。
すると鳥がスコープに入りますよね。
羽がちょっと動いたとかさ、明らかに生きているわけじゃないですか。
自分が引き金を引いてこれが当たった場合、
あの命がなくなる。娘とかからも散々僕は言われていて、
「なんてひどいことをしようとしているんだ、鳥さんがかわいそうじゃないか」
と責められて。
理屈では、いやいや娘よじゃあスーパーで売っている鶏肉は最初から
あんなんじゃないよ。
羽が生えていて誰かが食べられる状態にしているから食べているんだよ、
みたいな話をして、命って何なのかなとか、
自分にとっても勉強になったんですけど、そんな話をして、
一応娘は「しょうがない、行ってこい」
みたいな感じになったんですけど、
いざ自分が銃を構えた時にこれは大変な世界に
一方足を踏み込もうとしているという感じがあって、
最初の一発を打つときは外れろと思ったんです。
手がブルブル震えているのがわかるんです。
よしよし、外れて良いんだという感じで打ちました。


とんでもないところに飛んでいったらしいです。
でも師匠が見ていて「何やってんの?」みたいな。
「絶対外れると思った、ブレブレだもん」と言われて。
そうですよねと。でも内心はほっとしました。
外れてほっとしたし、引き金を引くまで
相当躊躇するなと思っていたんですけど、意外といけちゃうんですよ、引き金。
打てるんだ、おっかないこと始めたなと思いました。
命って、例えば師匠がそれをやったらほぼ確実に当たるわけですよね。
こんな簡単に鳥の命を獲っちゃうんだなって思って、
1人でしょんぼりするわけですよ。
そうしたら師匠がそばで笑っていて、
「今さら何言ってんの」みたいな感じで。
「俺たちはかわいそうなことをするよ」。
例えば畑を荒らす猪であればまだ大義名分がある。
被害を減らすために駆除するという。
それだって残酷なことをするんですけど、
鴨は別に川で遊んでいるだけだと。
「だからこれは全然人に胸を張って言えるようなことではないよ。
その代わりにもし当たっちゃった場合に俺たちは決めていることがある。
それは可能な限り、鳥を回収して獲っちゃった命をほったらかしにしないで回収して、
全部食べる。これが猟師のルール。
全部食べる。できれば骨も、骨から出汁を取ったりして無駄にしない。
それで命をもらってちゃんと味わうと言うことを守ろうよ、君も守ってね。
だから命について猟をやっていると真剣に考えるようになるよ」と。
それで、良い人についたなあ思って、
猟師さんって信州の場合はプロとかはいなくて、
狩猟は趣味ですから。他に仕事を持ちながらの冬の楽しみ。
昔はそうやって、娯楽もないし車もないような時代は
集落ごとに猟師さんがいて、結婚式になると
「ちょっとキジを獲ってきてくれ」と頼まれて、
1ヵ月ぐらいかけていっぱい獲ってみんなで肉団子を作って骨まですりつぶして
お祝いの食事を作ったりとか。


そのかわり普段プラプラしている
変なおじさんみたいな感じで許されていたというそういう流れがあるので、
狩猟をしない人も漁師に理解があるし、
野生の肉、ジビエも全然抵抗ないし、
そんな感じで信州という場所は本当に昔からジビエが盛んなところなので、
そこで狩猟を始めたというのは僕にとって最高の環境だったですね。
ガツガツしないんだもん。僕の周りの人はね。



★集英社からこの春に発売された北尾トロさんの書籍
『犬と歩けばワンダフル  密着! 猟犬猟師の春夏秋冬』
その名の通り、猟犬と一緒に猟をする長野県の猟師さんを取材した本で、
来週以降、この番組でもそのお話をしていただきますが、
「猟犬」ってどんなものなのか、知らない世界のお話がたくさん書かれています。
次回もどうぞお楽しみください。




【今週の番組内でのオンエア曲】
・Stars/シンプリー・レッド
・夜来香/アン・サリー

パーソナリティ

高橋万里恵
高橋万里恵

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