今週はちょっと、背筋がひやっとする、「怖い話」をお届けします。
お話を伺ったのは『山怪 山人が語る不思議な話』という本の著者で、長年マタギを追いかけているカメラマン田中康弘さんです。

特に秋田のマタギの取材をライフワークとしていて、長年、秋田県の阿仁という土地へ通い続けています。

◆マタギを取材するようになったのは
 今は廃刊になってしまったのですが、ナイフの専門誌がありまして、その取材のときにマタギの人と知り合うきっかけがあったんです。それで、秋田県の阿仁というところに通うようになりました。3日前も行ってましたね。
 マタギの人に出会うまでは、「マタギ」っていう言葉は知ってましたが、具体的にはどういう人なのかということは知りませんでした。それで興味があったんで、阿仁へ取材に行ったんですよ。そうしたら、そのマタギの方が非常に面倒見のいい方で、私が頼むと、じゃあ一緒に山行こうと言って山へ一緒に連れて行ってくれる。キノコ採りから山菜採りから、らうさぎ狩り、熊撃ちとかね。そういうの全部連れて行ってもらって、それがとてもおもしろかったんです。
私は九州の出身なので、雪のある光景もそれまであまり見たことがありませんでした。それが山の中だと、深い場所は4mくらいあるわけです。そういう中で生活してる人たちと初めて出会って、それでもうおもしろくて、今に続いてきたというわけですね。


ひと呼んでマタギカメラマン・田中さん。
といっても、ご自身はマタギの生活を写真に収めるのが専門。日本各地で山の猟師を取材している田中さんによれば、各地で、猟の仕方・自然に対する考え方が違うそうで、そうした猟師の方々を客観的に見つめるために、あえて彼らの仕事をやってみる、というところまでは踏み込まないのだそうです。
そんな田中さんが、もう何十年も通い、マタギの方と交流しているのが秋田県・阿仁です。こちらは今も「マタギの里」と呼ばれ、その文化が残っています。

◆阿仁のマタギ
 阿仁は秋田県の内陸部で、北秋田って言われてるとこなんですね。山の周囲にマタギの集落がいくつか点在しているんです。歴史は古くて、かつては銅山があったので人の流れは多かったですね。文化も京都とかの文化がいっぱい入って来てるところです。
 阿仁は山の中で、ものすごい雪深いんだけど、閉ざされた空間ではないんです。マタギの人たちは、肉は自分たちで取って食べるにしても、例えば毛皮であるとか、熊の胆ですとた、色んな薬を作るわけです。その薬を近場で売ることができるので、マタギは昔から商売をやる人が多くて、行商をやって、外の世界に行って、新しい文化を持ってくるというような開けた人たちだと私は思います
自分たちで取りに行って、加工して、売るので、いまでいえば六次産業ですが、それを全部昔からやってたんですよ。ただ段々、薬事法ができたりとか、色んなことがあってそういうことができなくなって、今はもうほとんど行商をしてる人はいませんが、昔はすごい盛んでした。


現在、秋田県阿仁には、かつてのように、マタギを生業としている人はいません。今は、別に本業を持ちながら、マタギの知恵と技術を受け継いで、時おり山で猟をする・・・というのが現代の秋田のマタギだと言います。
そして、田中さんの本『山怪 山人が語る不思議な話』には、秋田のマタギ、そして各地の猟師たちが森・山の中で体験した、世にも奇妙なお話がたくさん集められているんです。

◆うみの日
 マタギの人が、「この間山にすごい蛇がいた。」って言うんです。どんな蛇ですかと聞くと、獣道になにかあって、最初土管があるんだと思ったそうなんです。山の中ですから、なんでこんなところに土管があるのかなと思って見てたら、それが動いたって言うんですよ。で、これは土管じゃなくて蛇だと。大きさはおそらく5m以上あるだろうという。
 これを最初聞いたときにはほら話だと思いました。いくらなんでも5mの蛇なんかいないと思ったんですけども、別の人に聞くと、「いや、いるよ!」って言う人もいるし、「そんなのはいない!」っていう人もいたんですよ。それが私は面白かった。いると言う人といないと言う人が明らかに同じ場所にいるのに不思議だなあと思いました。
 そこで、今度は阿仁以外の狩猟の現場に行ったときに「何か山で不思議なことありましたか?」と聞いたんです。そうしたら、鳥取の山に猟に仲間と行って、追い出された獲物を待って打つ場所を待ち場というんですが、そこに入った。そこは竹藪だったんですが、その中に入って猟が始まるのを待ってたわけですよ。そうしたら、いきなり周りの竹藪がものすごい音を立てて揺れ始めたんだそうです。台風が来たみたいな感じで、ガランガラン音がして、竹がものすごい揺れるんですって。
 最初は風が吹いたのかな?と思って見てたんだけど、その日は天気も良く、風も吹いてなかった。ところがそんな状態にいきなりなったから、これはおかしいと思って逃げ出したんだそうです。藪から逃げ出して、ちょっと行ったところで振り返るとシーンとしていて、揺れてもいない。で、あれ?と思って、なんか気のせいだったのかな?と思ってもういっぺんそこの待ち場に入ったらまた同じことがあった。
 これはまずいと思ってまた逃げ出して、それでもうその竹藪には入らなかったっていう話を聞いたんですよ。その日は地元でいう「うみの日」。何で山なのに海なのかわからないんですけども、その日は竹藪には入っちゃいけないって地元では言われてたんだそうです。
 だから何なんだそれ!と思って、ひょっとしたら全国どこにでも山に入る人たちっていうのはこういう経験してるんじゃないのかなと思ったんです。それで聞き出すと出てくるんですよね、これが
 やはりその地区で、たぬきがメインになるところがあったり、キツネがメインになるところがあったりと、差があるんですよね。でも差はあるんだけど、起こる現象はすごく似ていて、神隠し的なものが東北から四国でも同じようにあるんですよ。でもこれはおそらく日本の山の中、森が持っている力がどこにも共通してあって、そこで暮らしてきた人々の歴史の違いとか文化の違いで感じ方が違うのかなって思ったんですね。


今回はマタギカメラマン 田中康弘さんが語る、秋田のマタギから聞いた不思議な話しをお届けしましたがいかがっだったでしょうか。
来週も、マタギの方々が語った「怖い話」です。どうぞお楽しみに!


『山怪 山人が語る不思議な話』 田中康弘(山と溪谷社)

【今週の番組内でのオンエア曲】
・MUTOPIA / BIGMAMA
・Slow & Easy / 平井大
東北・宮城県東松島市で、完成が近づく東松島の「森の学校」のレポートを先週からお届けしています。
作家で環境活動家・CWニコルさんが代表をつとめる「アファンの森」と東松島市が取り組む『東松島 森の学校』。ここでは2年後の開校へ向け、森の整備が定期的に行われています。

今年の初夏にも森の手入れが行われ、地元の方・ボランティアの方が森の健康を維持するための「笹狩り」に汗を流しました。
そして仕事の後、森の学校のシンボル、TreeDragonというツリーハウスの元に集まって開かれたのが「Tree Dragon BAR」。森の中の、一夜限りのバーです。

みんなでたき火を囲み、お酒や美味しいごちそうを食べて語り合ったり、ニコルさんはほろ酔いで歌いだしたりしていました。地元のお母さんたちも、それぞれ自慢の手料理を持ち寄り、参加者に振る舞っていました。

ただ、このお母さんたち、そしてそのお子さんも多くは、あの震災と津波を経験しています。いまも、その時のショックは、心のどこかに影を落としているんです。

◆いまでも震災の影響は心に
 子どもは水に浸かることはなかったんですが、教室の窓から浸水してくるのをずっと見てたらしいですね。いまは高校一年生になりましたが、今でも震災の影響なのか、暗いところがだめですね。
 上に女の子2人いるんですけど、真ん中の子が当時高校生で、雨の音がしばらくだめだったって言ってました。津波が一晩中寄せて返してっていう、その音にすごく似てるって言って。雨になると布団に潜って寝れないんだそうです。
 今はもう平気になったかなと思ったんですけど、岩沼市の空港に就職してすぐに地震があって、お客さんを助けなきゃいけない役目だったんだけど、足がすくんで何もできなかったっていうのを聞いた時に、やっぱりまだまだなんだなって。
 私もその震災の時はちょうど川の近くを車で走っていて、流されてしまったんですね。なので、風が強くて川の水面が波立ってるのが今でもやっぱりだめですね。


ツリーハウスの中で、こう話して下さったのは槻木(つきのき)かずこさん。三人のお子さんと 元々 野蒜地区で暮らしていました。
震災後は内陸側の矢本へ転居。森の学校にお子さんが通うことは無いのですが、子どもたちの育った故郷のために、森の整備を手伝っているそうです。



森の学校に賛同する親御さんたちは、子どもたちと、故郷・野蒜の将来のために、学校作りに協力を続けています。もうひとり、山田真理さんのお話です。

◆「森の学校」で子どもも大人も何かが変わっていけば
野蒜小の体育館で津波に遭ったんですけど、自分は泳げないので、必死でしたね。子供も最初は自分の周りにいたんですが、津波が何度もくるのでどこにいるかもわからなくなってしまいました。上の子が小学6年生と2番目が小学3年生で、下が2年生でした。
上の子はギ体育館のギャラリーに上がってたので大丈夫だったのですが、2番目の子と3番目の子は濡れてしまいました。前から水泳を習わせていたのですが、習わせててよかったかなって思いました。
私は泳げなかったので、もう必死でした。水の中でもがき苦しむうちに、意識も遠のいていって、「あ、死ぬってこういうことなんだな」って一旦は思いました。でも次の瞬間、「いや、やっぱり死にたくない」と思って必死になったら力が湧いてきたんです。今ここで死にたくない、絶対子供たちを見捨てないって思う力がなんか働いて頑張った感じですかね。
4年経ったんですけど、まだやっぱり心のどこかで忘れられないというか、鮮明に覚えてるんでちょっとまだ辛いっていうのがありますね。
自分の子どもがこの森の学校には通わないのですが、この森はやっぱり故郷、野蒜の場所です。野蒜の小学校は失われましたが、この「森の学校」ができることによって、子どもだけじゃなくて大人の方たちとか地域の方とかも何か変わっていくんじゃないのかなって思います。


夜の森で、静かに聞こえる様々な音、焚き火のあかりの中、お母さんたちは自分の体験や思いを素直に話してくれました。森の中だからこそ、心静かに、こういう話しができるのかも知れません。
最後にCWニコルさんさんのお話です。

◆ここで育った子どもたちは日本のリーダーになる
この震災でみなさんがすごくトラウマを受けましたが、生きてる森、ひょっとしたら一日しか命がないカゲロウもいれば、何百年も生きるミズナラの木もある。そういう森に来たら少し癒しになると思ったんです。
東松島のみなさんは我々を家族にしてくれました。私は本当に幸せです。僕は死ぬまでここに来ます。僕が死んでからも、うちのスタッフや友人が来ます。ただ、あんまりうるさいから来るなって言われたら来ないかもしれないね(笑)だからあんまりうるさいなら言ってね!
自分はもうあと2カ月75歳ですが、ますます未来を信じます。たとえばここにいいヤマザクラがあります。町とみんなが納得してくれるなら、ここでヤマザクラを作りましょう。この池は本当珍しい蛙もいるからこの池も活かしましょうよ。
それでこの学校は間違いなく日本一の学校になります。トラウマを受け、苦労をした人は人の苦労がわかります。だから僕はここで育った子どもたちは日本のリーダーになるに違いない、そう思うんです。



このツリーハウスで行われた一夜限りのバーは、ニコルさんではなく地元のお母さん達が、「“私たちのツリーハウス”で、こういうことしたい」と声を上げ実現したものだそうです。自分たちでつくり、守る森だという思いが伝わってきますね。
夜の森、闇の中でぼんやりと焚き火の明かりに照らされるツリーハウス。そこで語り合う人たちは本当に素敵な雰囲気ですよね。
ニコルさんはツリーハウスで一人ウィスキーのグラスを傾け、ときおりイギリスの歌を口ずさんだりしていました。

今日お届けしたお話しはポッドキャストでも詳しくご紹介しています。
こちらもぜひお聞きください!

【今週の番組内でのオンエア曲】
・風は西から / 奥田民生
・やわらかくて きもちいい風 / 原田郁子
今回は東北・宮城県東松島市で行われている森づくりについてお伝えします。この番組では何度か取材している、東松島の「森の学校」です。

作家で環境活動家 CWニコルさん、そして東松島市が取り組むこのプロジェクトは、子どもたちのために、森をそのまま「学びの場」にしようという計画なのですが、その途中経過をお伝えします。
東日本大震災による津波で、地元の小学校が被災した東松島・野蒜地区。
その高台に、森そのものを学びの場にした学校を作ろうということで、はじまったこのプロジェクト。
2012年に構想が立ち上がって、まる3年。着実に、完成が近づいています。例えば、野蒜地区にある山の中腹には素敵な展望デッキ完成していて、東松島市・成瀬未来中学校1年生の山田ともみさんが案内してくれました。震災直後・小学校3年生の時から、森の学校作りに関わっているそうです。


そして「復興の森」と名付けられたこの森に隣接する高台では、小学校の新しい校舎を建てる土地の造成が進んでいます。

アファンの森財団 事務局長の野口理佐子さんにお話しを伺いました。

◆森と海を大事にする学校
 この復興の森の真下が宮野森小学校という森の学校ができる予定の場所です。この大きなもみの木は、まるでマザーツリーのように町と学校を見守ってくれてるように感じます。当初切ってしまう予定もあったのですが、残されて本当に良かった。

 今からあと2年、学校が開校される2年までの間にここをきれいにしようと思います。


授業中でも、「今日は気持ちがいいから森で授業をしよう!」って、先生たちと一緒に森に来て授業ができるみたいにしたいですね。
 ここの小学校は野蒜小学校と宮戸島にある宮戸小学校が統合されて、宮野森小学校が森の学校になります。だから森の学校といっていますが、宮戸の人たちにとっては海も大事なので、森と海を大事にする学校、地域の自然を丸ごと学校にしようっていう思いでみんなでつくっています。以前は学校が終わってから、夕方海に行ったりしていたのですが、いまは少し遠ざかっています。なるべく早くこの地域の人たちと海とのよりを戻したいなと思っていいます。


この、宮野森小学校の新しい校舎が完成するのは2017年。現在、仮設の校舎に通う小学生たちの中には卒業してしまう子どももいます。
そういった子どもたちのために、完成に先駆けた授業の一環として、地域の自然を学ぶプログラムがスタートしているそうです。

そして今後は、自然の中でしか学べないこととして、「サウンドシェルター」という施設もつくられる予定です。
まだ完成していないので、今回は小さな模型を見せて頂いたのですが、テントを半分に切ったような形で、森の音が反響する仕組みになっています。森の中の、いろんな生き物の音、かすかなささやきを、大きな耳の形のシェルターの中でじっくり聴くことができます。

そしてこのサウンドシェルターは、震災でつらい体験をした子どもたちがみんなで体験を共有する、という目的もあるんです。

この場所を案内してくれた山田ともみさんは、震災当時、避難先だった野蒜小学校の体育館で津波に遭遇しました。体育館の中に濁流のように押し寄せる波の渦に飲まれそうになった時、助けてくれたひとは亡くなってしまったそうです。
「野蒜の人たちは、避難所が野蒜小学校だったので野蒜小学校に行って避難しました。お姉ちゃんはギャラリーの上にいたから、お姉ちゃんは無事だったのですが、わたしのお兄ちゃんと、自分とママは津波に飲まれました。自分が渦の中に入りそうになって、でもママが教えてた子のお母さんが手を引っ張ってくれて、助かりました。そのお母さがんいなかったら、多分今いなかったなとか思って、ママがすごく泣いてありがとうねって言ってました。その押してくれた女の人、亡くなっちゃって、私がいなければとか思ってしまったり…。
でも、話を聞いてくれる人がいると、なんかスッキリして、もやもやが晴れます。1人で溜めこんじゃうとあれだから、バーって話した方がすごいスッキリするから(サウンドシェルターは)いいなって。」


サウンドシェルターは、C.W.ニコルさんが若い頃カナダの北の少数民族と一緒に旅をしてであったものだそうです。じーっと自然の音を聴く楽しみだけでなく、たき火をしながら、会話がしやすい、そんな場所です。人は小さな焚火を見ると穏やかな気持ちになり、心を開いて会話をすることができる、とニコルさんは話していました。

アファンの森財団について興味をもった方はぜひこちらのページもチェックしてみてください。
C.W.ニコル・アファンの森財団 | Facebook

来週も引き続き森の学校のお話をお届けします。
どうぞお楽しみに!

【番組内でのオンエア曲】
・お二人 Summer / ケツメイシ
・にじいろ / 絢香
先週までは「コケ」の専門家のお話をお届けしてきましたが、今回は私たちの足元にある小さな森、「コケ」のなかで暮らしている不思議な生き物のお話です。
それは「クマムシ」です。
“地球で最強の生物”として紹介されるこの生き物の、恐るべき能力、
そして自由研究にもピッタリな、クマムシ観察のコツなど、クマムシ博士 慶応大学の上席所員で生物学者の堀川大樹さんにうかがいました。

◆不思議な生き物「クマムシ」
 熊みたいにノシノシと歩いているところからクマムシという名前になりました。英語ではWater Bearといいます。クマムシは水の中でしか動かないんですが、水の中で熊みたいに動いているのでwater Bearと名付けられました。
 大きさは種類によって異なるのですが、0.05mmから大きくて1mmくらいです。世界中どこにでもいて、深海から山の上まで、色々なところに分布しています。1000以上の種類があります。
 私たちの身近なところでは、道路の脇にある乾いたコケにも住んでいます。そういうカラカラのコケのなかにいるクマムシは、水があるときは動きまわっているんですが、水が周囲からなくなると、自分の体の中の水もなくなって、カラカラになってしまうんですね。それでも仮死状態で生き延びられる。水をかけるとまた復活します。これがとても不思議だということで研究しています。


名前に「ムシ」とつきますが、、虫ではありません。無脊椎動物の一種で緩歩動物とも呼ばれています。
顕微鏡で見ないと分かりませんが、足が8本あって、この足を使って移動します。地球上のあらゆるところに存在し、その種類は1000種類以上と言われています。
そして、この生き物がよく“地球最強”と言われる理由は、過酷な環境下でも生きられるすごい能力があるからなんです。

◆最強の生物「クマムシ」
 クマムシは元々海にいました。そこから陸に上がってきたと考えられています。海のクマムシは乾燥すると死んでしまいますが、陸に上がってきた時点で、乾燥に耐えられるようになり陸に進出してきたというふうに考えられます。
 たとえば我々のように陸上に住んでいる生き物は乾燥にさらされているわけですが、人間なんかは皮膚が非常に発達していて、体内の水分を逃さないように進化しています。
 クマムシの場合はこれと全く逆の方向で進化しています。水が体からなくなっても生きていればいいやという、カラカラになっても死ななければいいだろうというふうな適応をして、陸に進出してきたと思われます。
 たとえばカラカラに乾燥すると、普通は細胞が壊れてしまうのですが、クマムシは何らかの方法で細胞を保護するような特別な秘密があります。もしカラカラになっても死なない理由がわかれば、それを応用して移植用の臓器を乾燥させて保存することができるようになるかもしれません。あるいは新鮮な肉、刺身なんかもカラカラにして保存しておいて、また水をかけると新鮮なものに戻って食べられるようになるというような、そういう食品保存の技術にも応用できるかと思います。
 最終的には人間まるごとミイラになっても生き延びられるというようなものができれば、宇宙旅行にいくとき、何十年、何百年、あるいは何千年もの時間、乾燥した状態で、コールドスリープならぬドライスリープという状態で宇宙空間を移動、なんていうことも夢じゃなくなるのかなと思っています。
 ヨーロッパ宇宙機構というところが、乾燥したクマムシを宇宙に持って行って、10日間くらい宇宙の真空にさらしたのですが、地球に返ってきてから水をかけたら復活したという記録があります。私はNASAにいたのですが、その時は宇宙生物学という分野でクマムシを研究していました。


というわけで、宇宙空間でも生き延びるクマムシ。彼らは水分がなくなると、「乾眠」という状態になり、仮死状態になります。この状態のクマムシは、人間が耐えられないような強い放射線はもちろん、空気の無い状態、そして摂氏百数十度や、マイナス百数十度の気温、さらに電子レンジでチンしても水をかけると復活するといいます。
そんなすごい能力をもったクマムシ。私たちの身近だと道端の乾燥したコケの中を好むそう。実はこれ、クマムシさんがこの地球で生き残ってきたしたたかな戦略があるんです。

◆クマムシの生き残り戦略
 クマムシを探すとき、カラカラのしょぼいコケを見つけるとクマムシが出てくる確率が高まります。乾燥しているときはずっと眠っているんですが、雨が降ったりすると復活して、活動を始めます。
 その逆に、水分を多く含んだコケには意外とクマムシはいないんです。なぜクマムシはカラカラのコケを好んで住むのかというと、水を含んだ環境というのは、住みやすいのでいろいろな生き物が入ってきます。そうすると資源を巡って競争が起きたり、カビやバクテリアのような天敵に攻撃されやすい。
 ところがカラカラのコケのように生き物が住みにくい環境ですと競争相手が少ないですし、天敵が住むこともできなくなるということで、そういうニッチな環境、他の生き物が住みづらい場所を選んでいるんです。まあ結果的にそうなっていると思うんですが。
 これは我々、人間にもなんらかの示唆を与えている。競争が激しいところでがんばるよりも、周りに他者があまり入ってこれない場所をつくって、そこでがんばると、競争を避けながら、ニッチなところで生きていけるのかもしれません。
 クマムシの強さの秘密というのは、乾燥には抵抗せずに受け入れているところです。ストレスに対して抗わず、受け入れる。ですからすごく寛容なんです。ストレスに対していちいち過敏に反応せず、ある程度は受け入れて、「これでいいじゃん」ということをやっていくとだいぶ楽になるのではないかと思います。寛容さと鈍感さというのが強さの秘密ですね。


夏の炎天下、カラカラに乾いたコケの中でクマムシは息をひそめているんですね。
最後に、夏休みにクマムシ観察をしてみたい!というお子さんにアドバイスを頂きました。

◆クマムシ観察のコツ
 肉眼ではクマムシは見えませんので、実体顕微鏡を買ってクマムシを見つけようというのが自由研究の定番になったらいいなと思いますね。まず街なかに出てみて、駐車場のようなコンクリートやアスファルトがあるところにカラカラのコケがあったら、それをフードの中に入れて持ち帰ります。持ち帰ったら、シャーレという、ガラスやプラスチックでできた皿に入れて、そこに水をいれてやります。それで一晩くらい置いておくと、なかから乾燥していたクマムシが水を吸って復活して出てきます。それで一晩たったら、コケを取り除いて、シャーレの中の水を実体顕微鏡で観察します。二十倍くらいの倍率があれば観察できます。これでノシノシと歩いているクマムシを見つけられたらすごく感動すると思いますので、ぜひ探してみてください。
 もし観察するだけでは飽きたらず、さらに何かしたいという方は、クマムシをろ紙の上に移して乾燥させます。そして水をかけて復活するかどうかということを観察したり、もっと上級者は、寒天培地をつくって飼育にチャレンジしてみましょう。これはちょっとハードルが高いのですが、もしクマムシ飼育キットみたいなものがつくれれば面白いですね。


クマムシのお話しいかがだったでしょうか。堀川さんのお話しにあったクマムシ観察キットですが、学研から発売されていました。
http://kids.gakken.co.jp/kagaku/mag_kagaku/kg_presents/18_zoommicroscope/

あとクマムシさんというぬいぐるみもかわいくてオススメです。


今回のお話はポッドキャストでも詳しくご紹介しています。
こちらもぜひお聞きください!

【今週の番組内でのオンエア曲】
・I Really Like You / Carly Rae Jepsen
・まなざし☆デイドリーム / さかいゆう
  • 2015.08.02

コケのふしぎ4

今週は連続でお届けしてきた「コケ」のお話の最終回です。
だんだん、コケの魅力に気づいてきた方もいるかも知れませんが、今回はコケが好きで好きでしょうがない、コケマニアの方々のちょっと不思議な集まりのお話です。
先週は、コケの観察にはスマートフォンのカメラの拡大機能が便利!とか、ジャムの瓶の中で、小さなコケの植物園を作るなんてお話がありましたが、今回はこうしたコケを楽しむテクニックを編み出し、情報交換をするというコケマニアの方々による、不思議な集まりのお話です。
コケ博士・樋口さんも、もちろんその集まりのメンバー。さて、どんな集まりなんでしょうか。


 日本蘚苔類学会っていう学会がありまして、約500名近くの方がいます。しかしプロの研究者は少なくて、一般のコケが好きという方がほとんどです。いつも夏休みに行なっていて、家族連れで参加する人もいます。温泉地で開催することも多くて、ちょっと他の学会は違う雰囲気かもしれません。
 でも学会としてはそれだけやっているわけにもいきません。何十年も歴史がある団体としては、やはり社会貢献も考えなきゃいけないですし、あるいはコケが存在する意味みたいなものをもう少し世の中に広めたいということで、「日本の貴重なコケの森」というプロジェクトを2007年から始めました。選定委員会で条件を決めて検討して認定しているのですが、絶滅危惧種や固有種などの貴重なコケがあって、景観が美しく保たれている場所をコケの森と呼んでいて、今のところ22、3くらい指定しています。
 そういうコケが生息する場所は、水や空気がきれいであることが必要で、それは人間にとっても大変貴重な場所に違いありません。だからコケの森を守るということは、私たちにとっても大事な自然を守ってかなきゃいけないということを伝えられるんではないかということで始めたんですね。その場所は学会のサイトで見ることができますので、是非一度訪れてみてください。
 こんどの夏の大会が長野県の北八ヶ岳で行なわれるんですけども、そこも「日本の貴重なコケの森」のひとつです。実は私が推薦して認定された場所なのでちょっと思い入れがあります。アプローチもしやすく、自動車で行って駐車場に止めて、歩いて10分もするとコケの世界です。
 この北八ヶ岳が認定されたことによって、この景色を見慣れた現地の人にもここが貴重な場所なんだと再確認してもらえたと思います。日本の貴重なコケの森に指定されたことで、じゃあこれを大事に守って伝えていこうということで、現地の4つの山小屋の主人たちが集まって北八ヶ岳コケの会をつくって、保護や色々なPRを進めています。


-最後にお伺いしたいんですが、樋口先生でもまだわからないコケの謎ってありますか?
 うーん、一言で言うと謎だらけかもしれませんね。私が色々な場所に行って思うのは、なぜこのコケがここにあるのかっていうことなんです。例えば1月に南米チリのコケを見てきたんですけども、日本では見たこともない種類があるんですね。なぜ地球の裏側のこんなところにこういうコケがあって、日本にはこういうコケがあるのかっていうことは素朴な疑問です。コケは胞子で増えるので、風に乗って地球上の色んな場所に飛んで行きます。ですので、同じような種類が地球全体にあってもおかしくないんですけども、実際はそうではなくて、やはりそれぞれの地域に異なった種類があるんですよね。不思議ですね。
 これはおそらく私だけが言ってることなんですけども、史上最強の生物はギンゴケです。ギンゴケっていうのは、例えばこのビル(東京 半蔵門TOKYO FM)の外に出ると恐らく道路脇にあります。そういう普通のコケなんですね。ただこのコケはこういう都市の乾燥だとか埃だとか太陽の光が直接当たるとか、非常に過酷な環境に耐えているんですね。それに南極にもあるし、ヒマラヤの高山にもあります。このように一つの種類がそういうような広い分布を持っていて、色んな過酷な環境に耐えている生き物っていうのは他にいないと思うんですよね。
 最強っていうと例えば恐竜だとか、クマムシだとか言われるかもしれないんですけども、基本的に動物それから菌類というのは、植物、あるいは植物が作ったものを餌にしてるわけですね。だから自分で生きていける植物はやはり最強と言えるんではないかなと思いますね。
 ちなみにクマムシを探すときは、野外でギンゴケの塊を取ってくるんですね。するとクマムシを見つけることができる。クマムシ愛好家の間では知られていることなんです。クマムシの中にも肉食系と植物を餌にするグループがあるらしくて、ギンゴケの中に住んでいるクマムシはギンゴケを食べてるらしいんですね。ですから、餌としてだけでなく、住処として、「あったかいんだからぁ〜♪」(笑)水分もあるし、環境としてもすごくすごく幸せなんですね。



4回に渡ってお届けしたコケのお話し、いかがだったでしょうか。今回ご紹介した日本蘚苔類学会のサイトもぜひチェックしてみてください。
日本蘚苔類学会ウェブサイト→http://bryosoc.org/index/

【今週の番組内でのオンエア曲】
・New Morning / Alpha Rev
・Love Someone / Jason Mraz
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高橋万里恵
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