東京・上野、国立科学博物館で開催中の「ラスコー展」を監修した研究者・海部陽介さんのインタビューをお届けしてきましたが、今回でラストとなります。
この番組では「鎮守の森」や、人が手をいれることで豊かな森を作る「里山」など、日本人に古くから根付く、森や自然との向き合い方に、色々触れてきました。
おそらくこれって、数千年かけて培われた考え方だと思うのですが、では、クロマニヨン人がラスコーに壁画を描いたという2万年前の人々は、森や自然をどう捉えて、どう向き合っていたのでしょう。
海部さんのお考えを伺いました。


 実際人類学をやっていてわかってくるのは、常に人間が森を大切にし、動物を大切にしていたわけじゃないっていうことです。というのは、やっぱり僕らハンターだったわけですから動物を狩っていたわけですよね。実はホモサピエンス、つまりクロマニヨン人や我々が現れて世界中に広がっていく過程で、ちょっとショッキングな事が起こってるんです。例えばマンモスやケサイ、ホラアナライオン、日本にもナウマンゾウっていう象がいましたが、オオツノジカなどことごとく絶滅してしまうんですね。これはちょうど気候変動が起きて、氷期が終わって温かくなってくる時期と大体重なってはいるんですが、ただ一方でホモサピエンスが世界中に広がっていた時代とも重なっているんですね。ですからこの動物たちの大絶滅に人間が関わってないとはちょっと考えられないですね。
 アフリカで進化したホモサピエンスが世界中に広がっていく過程で、ユーラシアあるいはアメリカ大陸、オーストラリアにいた動物たちは人間の怖さを知らないんですよ。例えばナウマンゾウやマンモスの目の前にちっぽけな人間が現れた時、これは危険な動物だとはとても思わないですよね。なめてかかりますよね、きっとね。ところがそうじゃないんですよこの動物は。槍という道具を持ち、この巨大な象をハンティングしてしまう、そういう能力を持った存在だったわけですね。気候変動の影響もあるのでしょうが、多くの動物たちが絶滅してしまったという事実はあります。
 ですから人間が自然を常に大事と思う本能を持ってるって言うんだったら僕はちょっと違うんだと思うんですね。だけどそういったいろんな経験をしながら人間は学んできて、やり過ぎるとしっぺ返しをくらうということを学び、それで自然を大事にするようになるっていうことが出てきたんじゃないかなってそんな風に思いますね。


〜クロマニョン人の自然とか命、自然観、生命観っていうのはどういうものだったんでしょうか?
そういうこと僕も知りたいですね。彼らは貝殻に穴をあけてビーズを作るんですけど、その貝殻っていうのは海から大体持ってくるんです。カタツムリのような陸の貝って殻が薄いから、アクセサリーに向かないんですよね。海で取れる貝の方がいいわけですよ。そういう海の貝をわざわざ何百キロも内陸に運ぶんですよね。そこまでしてアクセサリーつけたかった人達なんですね。一方で自然の厳しさもありながら、やっぱり着飾ったりおしゃれしたりして、絵も描いたりして楽しんでるっていう面もあったんじゃないかなと思いますね。それともう一つおもしろいのは楽器も出てくるんです、この時から。竹笛なんですけど、鳥の骨に穴をあけて作った笛が出てきますね。ですから音楽も存在したという事がわかってます。
ラスコー展は、そんなふうに色々考えたり、想像したりするのが楽しい展覧会だと思います。この絵の素晴らしさもそうです。絵を鑑賞するっていうことも十分いただけますし、その背景にある「何でこんなことするんだろう?」「どうして洞窟の中入るんだろう?」それから「どうしてこんなことできたんだろう?」ってたくさん驚きとか謎もあるので展覧会場で是非そういうのを楽しんでいただきたいですね。


〜海部さんがこれまで一番印象に残った森ってありますか?
 そうですね。世界中に調査で行ってるんですけど、あえて言うんだったらシベリアの森、それから熱帯のインドネシアの森。ボルネオ島とかですね、そういうのをちょっと思い浮かべます。
 日本もそうなんですけど、自然の状態の森って少ないんだなってことをすごくそのことを気付かされましたね。世界のあちこちへ行って。だいたい人の手が入っている。モンゴルやシベリアでは川が好きなように暴れて流れてる、そういうものを見た時に僕が日本で見てきた川って違うんだって感じました。日本の川は人の手でコントロールされちゃってますよね。こっちに流れろっていうね。そうじゃない、自然ってこうなんだってそういうのを行って見て初めて感じたんです。北海道なんかでそういう場所はありますけど、日本で暮らしていると、本当に人の手の入っていない自然って中々体験することができないなっていうのをよく思いますね。


海部陽介さんのお話、いかがだったでしょうか。
特別展「世界遺産 ラスコー展 〜クロマニョン人が残した洞窟壁画〜」は東京上野 国立科学博物館で、来年2月19日まで開催しています。

特別展「世界遺産 ラスコー展 〜クロマニョン人が残した洞窟壁画〜」

【今週の番組内でのオンエア曲】
・gone feat.曽我部恵一 / あらかじめ決められた恋人たちへ
・Hello / YUKI
さて、東京・上野、国立科学博物館で開催中の「ラスコー展」を監修した研究者・海部陽介さんのインタビューも3回目です。2万年前のクロマニヨン人をめぐる興味深いお話、本当にたくさんしてもらったのですが、まだまだ、ラスコーの洞窟をめぐるエピソードはつきません。実は壁画が発見された経緯にも、面白いエピソードがあるんです。

ラスコーの洞窟壁画は1940年に発見されています。非常に保存が良くて、色彩豊かで動物の数も圧倒的に多くて、それで世界的に有名になりました。クロマニヨン人の芸術といえばラスコーがまず出てくるっていう代名詞的な存在ですね。
発見された経緯がちょっとおもしろいんですけど、犬と少年たちが発見したんですね。モンティニャックという村に住んでいる少年の犬が穴に落っこちちゃった。それでここに穴があるってことに気が付くんですね。何日か後にランプをもって友達と一緒にその穴に入ってみた。そしたら驚くべきことにそこに絵があったっていう。それを学校の先生に伝えるわけです。そして、その先生が研究者に伝えてっていう風に話が広がっていくんですね。


〜ラスコーの壁画で描かれている人間とか様々な生き物を見ると、二万年前の人たちがどんな物を食べて、どんな生活をしていたかっていうこともわかりますね。
そうですね。彼ら狩猟採集民というのは農耕民の前の段階、つまり食料の生産を始めていない時代です。野生の動物をハンティングして、植物を採ってきて食べるという、そういう時代の人達ですね。壁画の中にはクロマニヨン人たちが実際に見た生き物たちが描かれているわけです。ライオンだとか、ラスコーにはないんですけどマンモス、それから熊ですね。ホラアナグマっていう大きい熊がいたんですけれど、そういった動物たちがいる光景の中で彼らは生活していた。そういうのが壁画を通じてもまざまざと見えてきますね。
〜日本の場合、縄文人たちは狩猟採集をしながら定住していたんですか?
縄文時代の竪穴住居ってありますよね。竪穴住居を見た時に、正直みすぼらしく感じると思うんですけど、でもあれだけの穴を掘るって結構大変な重労働ですね。大きな穴を掘って、大きな材木を持ってきて、それを柱にして建てるわけです。それなりの重労働です。クロマニヨン人たちは実はそこまでやってないんです。というのは、あそこまで家に手をかけるっていうのはある程度定住していることの反映なんですね。縄文人たちはある場所にある期間住もうと思ってる。だからそれだけ家を丁寧に作り込んでるんですね。クロマニヨン人たちはそこまでやっていません。洞窟の入口だとか、岩陰みたいなとこを利用する。平地の場合は簡単なテントみたいなものを建てたりはするんですが、縄文人よりあちこち動き回る狩猟採集民だったわけですね。

〜ラスコーの壁画を描いたクロマニヨン人たちにとっては、森ってどういう存在だったんですか?
これもやっぱり想像するしかないことではあるんですが、氷期、寒い時で、森は今よりも少ないんですけれど、もう少しひらけた草原が広がっていたはずです。だからこそマンモスみたいな動物たちがいるんですね。確実に言えることは、なにしろ狩猟採集民で農耕がまだ始まっていませんので、もっと森と人との距離が近かったはずですよね。農耕が始まったときに人間は森の開拓を始めるわけです。森を切り拓いて畑を作るっていうことを始めますね。縄文人は栗の栽培なんかをやってたといわれていますが、最近だんだんそういうことがわかってきました。だから限定的ですけど森を利用し始めてる。コントロールし始めてますね。まだそんなに影響力は大きくはないでしょうけど。
それから丸木舟を作ったり、竪穴住居作ったりする為に森林の伐採っていうのもある程度やってますね。その先に都市文明みたいなのが起こって、だんだんそうやって材木や、今度は金属を作るための燃料として採ったりもするわけですけれど、そうやってどんどん切り拓いていくわけですね。クロマニヨン人たちはそういうことが起こる前の時代ですから、大木を刈り倒して何かするっていうことは多分やってなかったと思いますね。ありのままの森と人間がその中で暮らしている。そういう時代だったんじゃないかなと思いますね。


〜石器時代の人も、森と里と川と海の繋がりを感じてたんですかね?
当然あったと思います。彼らにとって、自分たちの住んでる環境が彼らの生活をある意味支配しているわけですから、そういう影響力っていうのはあったんじゃないかと思います。
ただ僕が人類学をやっていてわかってくるのは、常に人間が森を大切にし、動物を大切にしていたわけじゃないっていうことです。というのは、やっぱり僕らはハンターだったわけですから動物を狩っていたわけですよね。実はホモサピエンス、要するに我々ですけど、クロマニヨン人もホモサピエンスなんですけれど、ホモサピエンスが現れて世界中に広がっていく過程でちょっとショッキングな事が起こってるんです。例えばマンモス、ケサイ、ホラアナライオンにしても何にしても、日本にもナウマンゾウっていう象がいましたし、オオツノジカとかいろんな動物がいましたけど、ことごとく絶滅してしまうんですね。
これはちょうど気候変動が起きて、つまり氷期が終わって温かくなってくる時期と大体重なってはいるんですが、ただ一方でホモサピエンスが世界中に広がっていた時代とも重なっているんですね。ですからこの動物たちの大絶滅に人間が関わってないとはちょっと考えられない。アフリカ行くとわかりますけど、アフリカの動物っていうのは基本的に人間と一緒に進化してきているんで、人間の怖さをある意味学びながら生きてきたんだと思います。ですから人間と適切な距離感を保ちながら進化してきたんじゃないかな、アフリカの動物たちは。ところがアフリカで進化したホモサピエンスが世界中に広がっていく過程で、ユーラシアあるいはアメリカ大陸、オーストラリアにいた動物たちは人間の怖さを知らないんですよ。例えばナウマンゾウでもマンモスでもいいですけれど、こんなちっぽけな人間が目の前に現れた時に、これは危険な動物だとはとても思わないですよね。ところがそうじゃないんですよこの動物は。槍という道具を持ち、いろんな工夫をしてこの巨大な象をハンティングしてしまう、そういう能力を持った存在だったわけですね。その中で気候変動の影響もあるのでしょうが、多くの動物たちが絶滅してしまったという事実はあるんですね。


海部さんのお話いかがだったでしょうか。来週も続きをお届けします。

特別展「世界遺産 ラスコー展 〜クロマニョン人が残した洞窟壁画〜」

【今週の番組内でのオンエア曲】
・Wavin' Flag -Coca Cola Celebration Mix with AI / AI
・カロン / ねごと
今週も引き続き、東京・上野、国立科学博物館で開催中の「ラスコー展」を監修した研究者・海部陽介さんのインタビューです。
およそ2万年前。私たちの祖先・クロマニョン人が、フランス・ラスコーの洞窟に残した謎の壁画たち。
実はフランス・ラスコーの本物の洞窟壁画は、現在 保全のために、研究者ですら入ることができなくなっています。
この展示では、そのラスコーの洞窟の凹凸まで最新の技術で精密に再現。さらに日本初公開となる、クロマニョン人たちが使っていた本物の道具や装飾品も展示されています。
こうした、2万年前の壁画や装飾品を、海部さんは人類が初めて手掛けた、「芸術」ではないかと話します。


 芸術の一つのポイントって、見た人を感動させるような何かがないといけないんですけど、クロマニヨン人の絵もそのレベルは間違いなく達してるんですね。一筆書きのようにサーッと描いているんですけど、一つ一つの線の描き方が本当に美しいんです。動物たちの輪郭もすごく綺麗に表現されていて、躍動的です。馬なんかもいろんな姿勢をとっている馬が出てきます。ギャロップしてる馬だとか、いなないてる様子だとか。
 それだけじゃなくて、全体的の構図も少し誇張してある部分があったりします。例えば牛は大きく描くんですが、馬は小さく描くんですね。実際の動物のサイズとは違うわけですよ。人間はあんまりちゃんと描かなとか。沢山出てくるのは馬だったりします。どうしてそうしたのかわからないのですが、なにしろラスコーの洞窟の中では、牛は巨大に描かれます。何か構図にも意図が感じられますよね。何の意図かわからないんですけど、何かの意図があるっていうのが見えてきます。
 例えばこれはただの彫刻じゃなくて実は道具の飾りなんですね。棒みたいなののおしりのところにフックが付いていますが、これは槍を飛ばすときの補助具なんです。投槍器と呼ばれているんですが、このフックのところに槍の一番後ろの部分をひっかけて手に持ちます。そうすると槍を遠くに投げることができるんです。その補助具にこんな素晴らしい彫刻を付けてるんですよ。単なるアクセサリーじゃないんです。僕らも大事な道具って飾ったりするじゃないですか。すごく親近感感じませんか?そういうことやってる人たちって。
2万年前の人にも遊び心があったんですね。そもそも絵を描くっていうこと自体が不思議なことです。なんでそんなことをするのか。絵を描いたりするのは人間だけです。しかもわざわざ真っ暗な洞窟の中に入ってそんなことをしなくて本当はいいわけですよ。動物が生きていくためには。
ですから人間はそういう余計なことをやる動物なんだと思うんですけれど、そういうものが始まった、まさに芸術の始まりですね。人間の不思議な側面が現れ始めたそういう時代の展覧会だということですね。

 実はラスコーの絵のなかには謎の絵があるんです。どうしてこんなもの描いたのか、わからない場面なんですけれど、ラスコーの洞窟の中の一番奥の深い場所から見つかっている絵なんですが、非常に巨大なヨーロッパバイソンに襲われた人間のような、そういうシーンが描かれています。よく見るとお腹のところ何か刺さってるようですね。お腹から何か出てますよね。これ多分腸が出てる。内蔵が飛び出てるわけです、バイソンの。バイソンが角を突き付けてその前に人間が倒れてますよね。よく見るとこれ男性だってことわかりますね。だけどもう一つ不思議なのは頭を見ると人間っぽくないんです。鳥人間って呼ばれてるんですけど、まさに鳥の頭をした人間ですよね。なぜか人間と鳥を変な風に組み合わせているすごい不思議な絵ですよね。その向こうにいるのがケサイなんですね。そのケサイが反対方向を向いて去ろうとしている感じですね。おしりのところには何か変な点々が描かれている。これも意味がわからないんです。
 全体としてこのラスコーの絵には動物がたくさん描かれているんですけれど、このように場面表現をしたものは極めて珍しいんだそうです。その中でも非常に不可解なシーンですね、これは。何を表現しているのかよくわからない謎めいた絵ですね。しかもこの絵だけ色が使われてないんですね。黒だけで描かれている。そして洞窟の一番深いところでこれが描かれている。これの他にはもう一点やっぱり黒い馬の絵があるだけなんですけど、他の部屋にはたくさん絵がびっしりあるのにここだけはそうじゃないらしいんですね。ちょっと非常に不思議な空間なんですこれは。
写真ですと二次元ですが、今回のラスコー展は、実物大で壁面の立体感がある状態ご覧いただけますので、これを是非見ていろんなことを想像して頂きたいなと思いますね。

特別展「世界遺産 ラスコー展 〜クロマニョン人が残した洞窟壁画〜」

今回の海部陽介さんのお話いかがだったでしょうか。ポッドキャストでも詳しくご紹介していますので、こちらもぜひお聞きください。

【今週の番組内でのオンエア曲】
・Still Falling For You / Ellie Goulding
・Kids / OneRepublic
今週は、私たち人間が、いまと違い、森や自然の「中で」暮らしていた時代のお話です。
インタビューしたのは、東京・上野、国立科学博物館で開催中の「世界遺産 ラスコー展〜クロマニヨン人が残した洞窟壁画〜」を監修した研究者・海部陽介さん。
フランス西南部ラスコーの洞窟に、およそ2万年前の人類が描いた、有名な壁画の話をきっかけに、私たちの祖先が何を考えどんな暮らしをしてきたのか。そこから見える、彼らの自然観・生命感まで色々伺います。


高橋:今日はスタジオに国立科学博物館人類史研究グループ長の海部陽介さんお越しいただきました。海部さんは人類進化学者。人類がどこからきて、そしてどうやって世界へ拡散していったか。さらに日本人はいつどこからどうやって来たのか、そうした研究を長年されてきた方です。ちなみに今年の夏、海部さんはその研究プロジェクトで沖縄にいらっしゃったんですよね
海部:はい。沖縄琉球列島のいろんな島に、大体三万年前くらいに遺跡が突然現れ始めるんですね。これは当時も島だった琉球列島に人が渡ってこれるようになったっていうことですね。海を越えて人類がそこに進出してきたわけです。
ですが、考えてみると、沖縄の島って小さいし、遠いし、あんなとこにどうやって行ったんだろうってすごく疑問になりますよね。そういう技術とかチャレンジの心があるんだと思うんですけど、そういう祖先たちがいたっていうこと、これがおもしろい。それで、それを知るために実際に実験航海をして、当時の姿を再現して彼らがどんなチャレンジをしたのかっていうのを知るというプロジェクトを始めたところなんです。その最初の第一段階の実験航海というのを今年の夏にやりまして、沖縄に行っておりました。
 僕らの最終目標は、台湾から与那国島まで黒潮を越えて、すごい距離を行かなければいけない大変な航海になるんですが、その前段階として僕らも色々経験を積まないといけないので、与那国島から隣の西表島を目指す航海っていうのをやりました。
 実際には、当時の舟が草の舟かどうかはわからないんですけれど、一つの有力候補として今回は草舟で試してみたわけです。しかし残念ながら上手くいきませんでした。非常に海流が強い海流が発生していて流されてしまった。
まあそういう状況だったんですが、でも逆にそういうハードルを越えてきた先祖たちってすごいですよね。簡単じゃないことをやっぱりやってるんだっていうことを体感した非常に貴重な体験をさせて頂きました。
高橋:当時は草の舟だったんですね?
海部:あり得るということで考えてますね。縄文時代には丸い木舟、木をくり抜いて作る刳船(くりぶね)が出てきますけれど、それを作るには斧が必要ですね。縄文時代の遺跡からは石の斧が出てくるんですが、その斧が当時の沖縄にはないものですから、丸木舟は作ってなかったんじゃないかと思います。まあわからないですが、一応そういう前提で何があり得るかと考えてみると、浮く物体を束ねるタイプの舟。例えば竹のいかだだとか、草を束ねて作った草舟だとか、そういうのが候補になってくるので、まず今回は草の舟を作って試してみたんですね。
 僕らは遺跡の調査をやっている人間なので、調査をやって初めて沖縄には三万五千年前に人がいたっていうことがどんどん明らかになってくるわけですね。その最先端の研究をやっている過程で、遺跡を掘ってるだけだと、人がいたことはわかるんですけど、どうやって来たのかまでは見えてこないんですよね。どうしてもこれは見たいと思いまして、実際に再現してみる、体感してみることでそれを知りたい。そういうプロジェクトを始めたわけです。やっぱりどんな難しいことだったのかっていうのがわかってきたときに、本当はこうだったんじゃないかって具体的なことが考えられるようになると思うんですね。ですからその祖先たちの実態に迫るためにいろんなことをやってみたいと思っています。

高橋:そして海部さんといえば、国立科学博物館で11月1日から来年の2月19日まで開催の「世界遺産 ラスコー展〜クロマニヨン人が残した洞窟壁画〜」の監修を務めていらっしゃいます。まずこのラスコー展は、フランス、ラスコーの洞窟にある、昔の人類が描いた壁画に関する展示なんですよね。どんなものが描かれているんですか?
海部:洞窟に描かれているのはほとんど動物ですね。ラスコーの洞窟だけで600頭くらい描かれてると報告されているんですけれど、非常にたくさんの動物が描かれていますね。それも生き生きとした姿がですね。ラスコーの中は主な空間が7つあるんですけど、その七つの空間にそれぞれ違ったタイプの絵が描かれているんです。そのなかには牛とか、馬とかバイソンとかですね、それから今は絶滅した動物もいます。ラスコーの中ではライオンなのかなっていうような動物も描かれていますから、当時ヨーロッパにライオンがいたんですね。ホラアナライオンと呼ばれているのがいたんですが、あとはサイですね。ケサイって呼ばれている、寒冷地に適応したマンモスと同じように、そういったサイが当時もいたんですけど、それもラスコーの中に描かれてます。
 ラスコーの洞窟が描かれたのは二万年前です。これは日本の縄文時代が始まるよりも前の話になります。旧石器時代と呼ばれる時代なんですけれど、まだ人々が狩猟採集の生活をしていた時代のことです。そしてその当時は氷河期。寒い時代だったんですけれど、マンモスやケサイ、それからハイエナとかライオンとか、そういう動物もヨーロッパにいた、そんな時代ですね。

高橋:二万年前の人はなんでこの壁画を描いたんですか?
海部:これは究極の謎をいきなりぶつけられちゃいましんたね。なんでって言われるとちょっと難しいんですが、これを描いたのはクロマニヨン人と呼ばれてる人たちです。ヨーロッパの旧石器時代、後期旧石器時代と呼ばれる時代にヨーロッパにいた人たちをクロマニヨン人と呼んでいるんですが、彼らが洞窟の中に入り込んで絵を描いているんですね。
「なんで?」ってことを考える前に、まず洞窟に絵を描くっていうことをイメージしてください。我々は観光用の洞窟僕ら入ることありますが、そこは電気がたくさん点いてて明るくて、道も整備されています。そうじゃなくて、全く整備されていない洞窟。明かりが点いていない洞窟。そこに自分が入るっていうことをイメージしてほしいんですが、当然真っ暗です。その中には何らかの明かりを持って入らないといけない。実はクロマニヨン人たちはランプを持っていました。これは皿状に窪んだ石の上に動物の油なんかを乗っけて火を灯すものです。それを持って洞窟の中に入り、そのほのかな明かりの中で、ここにこういう絵を描こうって考えてああいう絵を描くわけです。
展覧会に来ていただけるとそういったものが見れます。彼らが実際に絵を描くのに使った石器だとか、絵の具なども、ラスコーの洞窟の中から回収されたものを今回フランスから借りてますので、そういう風にできた絵だってことをまず想像して頂きたいんですね。

高橋:クロマニヨン人は絵の具も使っていたんですか?
海部:そうです。ラスコーの洞窟の壁画は色彩が豊富だっていうことでも有名で、いろんな種類の絵の具を使っているんですね。黄色とか赤とか茶色とか黒とか、いろんな色を使っているんです。

特別展「世界遺産 ラスコー展 〜クロマニョン人が残した洞窟壁画〜」

海部さんのお話いかがだったでしょうか。来週もこの続きをお届けします。

【番組内でのオンエア曲】
・ADVENTURE OF A LIFETIME / Coldplay
・I Walk Until / Yael Naim
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高橋万里恵
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