「いいとこあります フランス人」
行った、観た、よかったが「旅」の入門編だとしたら、次のステップとして、そこで出会った人々に視点をすえてみたい。「月日は百代の過客にして……」で知られる芭蕉の時代とちがい、現代社会の足はジャンボ・ジェットになろうとも、人の心はそう変わるものではない。21世紀の現代でも「旅情」にセンチメンタルはつきものだし、たとえばワインの里めぐりをしながら、ボルドーに沈む真っ赤な夕日を眺めて一句という心境にもなろうというものだ。旅先で擦れちがった人たちに垣間見た笑顔が、やけに記憶に残ることがある。
探し当てて訪れた宿のムッシュとマダムのもてなしも、商売という言葉だけで置き換えてしまうには暖かすぎる。それはホテルになる以前の昔、食堂をかねた旅籠のオーベルジュとして旅人に安らぎを提供していた時代から今日まで、宿の人たちに代々受け継がれてきたホスピタリティーにちがいない。言葉の壁に邪魔され、コミュニケーションどころではないという声も聞こえそうだが、そこは以心伝心。
絵にもかけないほど美しい、ブルターニュのポン・タヴァン村のパン屋さんの彼女、南仏はカルパントラの村はずれで、泥人形をこねていた夫婦。薄暗いカーヴで、シャンパンの瓶を回していた彼らの姿は時を越え、私たちに語りかける。人と人との出会こそが、私たちの心を癒してくれる。(続く)