「美しい村の小さなパン屋さん」
英仏海峡に張り出した、フランス最西端のブルターニュ地方。雄々しい海と荒涼とした地の果てといったイメージは過去のこと。今では鮮度の高い観光資源の宝庫として、脚光を浴びている。中でも深い森と美しい川が流れ、色とりどりの花咲き乱れるポン・タヴァン村は、訪れた人々を魅了する。そしてこの村を一躍有名にしたのが、タヒチの娘たちを多く題材にした個性派画家、ゴーギャンの存在である。セザンヌやゴッホと並ぶ後期印象派の巨匠ゴーギャンは、南仏のアルルでのゴッホとの共同生活に破れた後、ここポン・タヴァンにやってきた。
といってもそれがはじめてではなく、すでにそのころ彼は若い画家仲間を募り、この村に意欲的な画家グループのコミューンを作り上げていた。後にポン・タヴァン派と呼ばれている画家たちのことである。モータリゼーションの波にのみこまれて長いこと、この村への鉄道は途絶えているが、ゴーギャンが暮らした当時はパリのモンパルナス駅からの汽車がこの村まで通じていた。今も語り草になっている、当時の画家たちの楽しいエピソードがある。日夜創作に励んでいた彼らの数少ない楽しみのひとつが、メゾン・ケラベルでのランチだったそうだ。現在のオーナーのロランスさんのおばあさんが店を仕切っていた時代のことである。日変わりのランチに集まった彼らの本当の狙いは、実はメゾン・ケラバルの人気ガレットを買いに訪れる村の娘さんたちにあつた。純朴な彼女たちをモデルにした画家たちの作品がゴーギャンの名作とともに、村の美術館に展示されている。(続く)