「愛する妻と、
自分で造った家で暮らす幸せ」
人気のプロヴァンスといえども、地味な印象のカルパントラは旅行者が大挙して訪れるような町ではない。その郊外の村にいたってはなおさらで、ミシュランの地図を片手に炎天下の農道を車を走らせながらのル・ボーセ村の陶芸家夫妻のアトリエ探しは、決して楽なものではなかった。ところがフランス人の友人が熱心に勧めるだけあり、ようやくお会いしたエリックとベアトリスのお二人と話していると、あたかも人生の奥義に到達したような、そんなすがすがしい気分になったのである。「ベアトリスと出会い、すぐにこう決心しました。この女性と暮す家を作りたいと。自分で作った家に愛する妻と暮らす以上の幸せが、この世にあるでしょうか」
それは30年前のこと、パリに生まれ育ったエリック青年は南仏旅行の途中に立ち寄ったカルパントラの町で、二十歳に満たないベアトリスさんと出会い、恋に落ちた。当時、パリで勤めていた会社を辞め、エリックさんは陶芸家を志しながら、この地に自力で家を建てることにした。
「お金がありませんでしたから、壁にする石と木材を集める作業からはじめました。そして目に入った切り通しを建物に取り入れることを思いついたのです。天然の岩肌ですから、夏はとても冷たく冬は暖かいし湿度もほどほど、最高です」
ダイナミックなインテリア効果が話題になり、ヴォーグやマリ・クレールの雑誌の取材依頼もひっきりなし。国内外に固定ファンを持つエリックさんの陶芸家としての腕前もさることながら、お二人のライフスタイルこそ、都会人の私たちの憧れである。
(続く)