マッドサイエンティスト・坂上!? 〜『水中ロボ』の秘密を暴け!〜


作戦開始から、たった5分後。
既に林さんは、『ナゾの海洋機関』内部への侵入に成功していた。

写真

広い廊下に沿って、『ナゾの研究室』の入り口らしきドアが並ぶ建物内。
『ナゾの海洋機関』にしては、どこか暖かい雰囲気を醸し出す空間。

「いやー、まるで大学の建物みたいですな…」


そんなことをつぶやいていた、わずか数秒後。
林さんの顔が、『カリスマスパイ』の表情に、瞬間的に変化した。

−数メートル先の部屋のドアから、うっすらと明かりが漏れている。
ドアには、『船舶海洋工学科』の文字。

手際よくドアのそばにすり寄るやいなや、そっと中をのぞきこむ林さん…すると!
部屋の中には、明らかに怪しいメカを、怪しい手つきでまさぐる怪しい男が!

写真

「こ、これはっ… いけませんぞ!」

『緊急事態』を察知した林さんは、瞬時に内ポケットに入れてあった拳銃を抜き取り、大胆にも正面のドアから部屋に侵入し、ナゾの機械を破壊!

…しようとした。

写真

「ちょちょちょ待って下さい! 何ですかあなたちょちょちょちょ!」

「『ちょちょちょちょ』じゃない! なんだコレは! 何かを企んでいるに間違いありませんな! 悪いが、破壊させてもらいますぞ!」

「んな訳ないじゃないですか! これは大切な研究の… ちょちょちょちょ! やめて下さい! ちょちょちょちょ!」

「だーかーら! 『ちょちょちょちょ』じゃない! じゃあ、何なんだコレは? 納得のいく説明をしてほしいものですな!」

「ちょちょちょちょもういいでしょ! じゃあ、とりあえず、話を聞いてくださいよ!」


男のあまりの剣幕に、一旦拳銃をしまう林さん。
すると、男も一旦『ちょちょちょちょ』をしまい、おもむろに語り始めた。

「ふー。えーとですね。実はボク、水中ロボットの研究をしておりまして…」

ダマされるか、と思いつつも、男の話は、非常に興味深いものだった。

写真

「このロボットは、人間の代わりに水中に潜って、海底や湖底の調査をするために作られたものなんです。例えば、琵琶湖。琵琶湖の底には、実は遺跡があるんですよ。そこで、ダイバーが遺跡の収集を行っているんですけど、もちろん、ダイバーには潜れない水深のところもあるので、その代わりにロボットを使いたいなという訳です」

話を聞きながら、男の目をじっと見る林さん。
よく見ると男の目は、非常に澄んでいた。

写真

「でも、実はこれらのロボット、まだまだ実用段階には至っていないんです。なので、ボクらの場合は、琵琶湖での基礎実験を重ねながら、実用に向けて日々研究を続けています。彼らの助けなんかも借りながらね」

写真

そう言って、男は部屋の奥にいた、若者たちに目を向けた。

この研究室で研究をしている3人の若者たちは、20代の前半 (※大学4年生)。
それぞれ、ココに集まった理由はバラバラだという。「なんとなく、機械が好きだった」「ただ、海が好きだった」ココに来る前は、ロボットなどには全く興味がなかったという者すらいた。

「でも、研究してみたらすごく面白くて… もちろん、毎日すごく忙しいんですが、こんなことを勉強できるところはあんまりないので、すごく貴重なことをさせてもらっていると思います」

写真

「今の研究生たちは、理系とは思えないほど明るい人間ばかり」と男は笑い、それから続けて、彼らの恋愛事情の暴露大会を始めた。

雰囲気のいい研究室だな。
当初の誤解を反省しながら、林さんは、若者たちに向けて、質問を投げかけた。

「みんな、将来は…?」

若者の一人が答えた。

「研究室の先輩たちの中には、海洋関係など、一般の企業に就職している方もいるんですが、できればボクは、このまま研究を続けたいなと。厳しい道だとは思うんですけど…」

そう言って彼は、ピンクのポロシャツを着た『先生』の顔をちらと見た。

すると『先生』は、優しい笑顔を見せながら、こう答えた。
「それは、キミの頑張り次第じゃないかな」

林さんは確信した。彼らは、悪事など企んでいないということを。
…そして、自分が完全にトチ狂っていたということを。

「ホンットーに、申し訳ございませんでしたあ!」

写真

「いえいえ。また、いつでも遊びに来て下さいね」

優しい目をした水中ロボット研究者。
男の名前は、坂上 (さかがみ) と言った。



「ここは、ハズレですな。さて、次に参るとしましょう」

林さんは、どこか爽やかな感慨を胸に、坂上研究室を後にした。