魅惑の学問、『海洋考古学』! 〜秘密の図書館に潜入せよ!〜


広い広い部屋の中には、膨大な量の本と、整然と並べられたコンピューター群。

そう、ここは、『ナゾの海洋機関』の図書館の中。

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この図書館に侵入してから、既に1時間 (※注1)。
敵がいないことを慎重に確認してから、林さんは調べ物に取り掛かっていたのだが、もはや林さんは、完全に集中力を欠いていた。

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というのも、どんなに資料を手繰れども、『コラーゴン』なる物質の正体が、未だ全くつかめないのである。

この図書館に入ってからというもの、どんなに参考図書を探しても、どれだけネットの検索を繰り返しても、『コラーゴン』という言葉は全く出てこない。出てくるのは、『コラーゲン』という単語ばかり。

更には、この図書館の膨大な蔵書量だ。
地上一階に加え、地下二階まであるこの図書館に置かれている本の数は、半端ではない。通常の図書館にあるような一般的な書物に加え、海洋関係の蔵書が充実しているのはサスガといったところだが、あまりにも資料が多すぎて、林さんはめまいすら感じていた。

林さんは既に凄まじいスピードで数十冊の本に目を通し、目が翳み始めていた。

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「むむ… さすがに、ちょっと休憩でもしますかな…」

読んでいた本から目を離し、なんとなく書棚に目を向けた、その時。
とある本のタイトルが、林さんの目を惹きつけた。

『海洋考古学のススメ』 (※注2)

「おや、これは…」

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何気なくページを手繰ると、こんなことが書いてあった…

『海洋考古学』という言葉を聞いて、アナタは何を浮かべますか?
海中に沈んだ沈没船? その財宝? あるいは、水中にたたずむ遺跡群?
…そう、その全てが『海洋考古学』に含まれます。

林さんの少年ゴコロをくすぐる言葉の数々。『コラーゴン』のことなどすっかり忘れ、林さんは夢中になって先を読み進めた。

…例えば、ハワイやサモア、イースター島などが含まれる『ポリネシア』と呼ばれる地域。現在この地域に住んでいる人々の源流は、古代の中国にあると言われています。
遠い昔、中国大陸に住んでいた人々が、長い長い海の旅を経て、ポリネシアの島々にたどり着いた。その彼らこそが、現在ポリネシアに住んでいる人々の祖先だと考えられているのです。コロンブスなどが活躍した、大航海時代のはるか数百年も前、まだ充分な航海技術が発達していなかった頃です。しかし彼らは、驚くべき勇気と叡智を持って、旅を成功させたのでした。
では、なぜ彼らは、わざわざ危険を冒してまで、そのような旅をしなければならなかったのでしょう? …

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そこまで読んだところで、林さんは、隣に不気味な気配を感じた。

「どうですどうです? 面白い本でしょう?」

ふと隣を見ると、横に知らない男が座っている。

…だ、誰?

驚く林さんに構わず、男は話を続ける。

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「ウチの学校の『海洋文明学科』では、その本に載っているようなことを研究しているんですよ。先生によっては、いろんな島の民族に対する研究にどっぷりハマっていたりして、何ヶ月も現地の人々と一緒に生活をしたりして、全く学校に帰ってこない人もいますがね。フフ… 場合によっちゃあ、学生さんも、そんな旅に、一緒に連れていかれることもあるらしいですよ、フフフ…」

なんとなく不気味ではあるが、どうやら、悪い人ではなさそうだ。

しかし、それにしても『海洋考古学』とはなんとも魅力的な学問である。もしも今回のミッションを成功させ、生きて帰ることができたのならば、もっと勉強なんかもしてみたいものだ。林さんは、そんな夢のようなことを考えた。

「まま、この図書館に置いてある本のことなら、気軽に何でも私に聞いて下さい。うちの図書館には、およそ23万3000冊の蔵書がございますからね。自分だけで色々検索するのも大変でしょうから。私なんかでよければ、うまく利用して下さい」

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そこまで聞いて、林さんはふと我に帰った。
そう、まずは自分が、スパイとしての任務をこなさないことには、夢物語を語る資格はないのである。

虎穴に入らずんば虎児を得ず。
林さんは思い切って、男に尋ねてみた。

「あのー、いきなりぶしつけな質問ですが、ひょっとしたら、『コラーゴン』という名前の物質について、心当たりがございませんか?」

男は一瞬怪訝な顔を浮かべたが、
「『コラーゴン』ですか… ハテ、私は聞いたことがないですが… 一度調べてみましょう。」
そう言って、備え付けのコンピュータの元へと向かった。

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(ひょっとすれば、何かの手がかりがつかめるかも…)

林さんはワラをもすがるキモチで、男の後ろ姿を眺めた。



注1: もちろん通常は、学内の関係者しか出入りできません。
注2: これは、架空の本です。


<続く>