『ゆうびんの父』の作者 門井慶喜さんがご登場!
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- 2024/06/02
作家の門井慶喜さんをお迎えして

『ゆうびんの父』は、郵便制度の祖と呼ばれ、現在では1円切手の肖像にもなっている前島密を描いた長編小説です。


小山「子どもの頃の房五郎くんに夢はあったんですか?」
門井「多分ないと思います。今の新潟県上越市に生まれましたので、1年の中の相当長い期間が雪で埋もれていて、毎日生きるだけで精一杯で、経済的にもおそらくカツカツですから、すべてがお母さんと自分のためという世界だったと思います」

門井「割と早い段階で、もっと勉強をしたいから江戸に行きたいと10代で言うんです。1人で江戸に行って、ところがまったく人脈も何もないので、そこで房五郎くん自身が貧しい暮らしをするんです。偉い侍の家に入って、それこそ飯炊きや子守みたいなところから始まったんだと思うんです。それをしながら少しずつ勉強をしていくというのが大きな転機であり、母との別れになります」
小山「郵便制度を作るには、まだまだ遠い道のりがあると思うんですけど、その次は?」

小山「函館?」

江戸幕府が終わった時点では、幕臣、幕府の一員とは身分上なっていたんです。前島密は頑張って、そこまでは来られたわけです。明治政府になると、政府に逆らった逆臣の一味ですから、徳川家と一緒に静岡に閉じ込められて……と言ったら悪いのですが、そこで官職に就くんです」
小山「それはいくつくらいの時ですか?」
門井「30歳になっていたと思います」

門井「そうですね。お母さんはその間もずっと新潟にいるわけですから、相当、手紙のやり取りというのはこの人の人生では重要だったろうなという気はします」
宇賀「その時代も、手紙は一応、送れるは送れるんですね?」


門井「それはあったと思うのですが、ただ、郵便制度を自分がやろうとなった時に、今は違いますけど郵便は当時の政府の中では必ずしも花形の事業ではなかったんです。ペリーが電信の技術を持ってきましたから、役人は皆その最新技術をやりたがるんです。『あの不達率の高い飛脚の事業をやるの?』というニュアンスがあったので、必ずしも花形事業ではなかった。そこに前島密が入った。逆を言えば、だからこそ入れたという部分はあるんだと思います。前島密はそこで、おそらく自分の少年時代を思い出した」
小山「何かエピソードがあったんですか?」
門井「お母さんに出したけど手紙が届かないということもあったでしょうし、小説の中でフィクションとして書き加えた部分なんですけど、当時は書物が非常に貴重な時代ですから、旅先で本を送ったり送られたりもする。でもそれもやっぱり現地に着かない。高額商品ですから大変なことになる……そういういろいろなことがあって、『郵便って頼りにならないな』『ちゃんとしなきゃいけないな』というモチベーションにはなっただろうなと思います」

門井「そうですね、前島密の時代に出来たものです」
小山「どうやって作っていったんですか?」
門井「ここがおそらく前島密独自と言いますか、ロンドンの郵便制度を参考にして郵便制度を作っていったのですが、全国にネットワークを広げていかなきゃいけない時に、『人をいっぺんに雇うことができないからどうしよう?』と考えたんです。全国の庄屋さん、地主さん、農民階級に所属するお金持ちとか、そういう階級の人々に『助けてくれよ』と言ってそのお家を郵便局にしたんですね」
小山「それはどうやって知り合うんですか?」

小山「ペリーを見ている、というのは価値だったんですね」

宇賀「今でも地方に行くと、お家が郵便局になっているところ、ありますよね」
門井「ありますよね。あれが原型なんです。西洋にはない風景じゃないかなと僕は思います」

門井「前島密は決してヒーローではない、ということですね。ヒーローどころか人生を迷いまくっている、自分探しをして自分が見つからない人なんです、30歳過ぎるまで。これは今の我々の感覚で言うと40、50まで自分探しをしている、という人なんですね。最後には郵便制度と出会うわけなんですけど、やっぱりそこまでの人生は必ずしもかっこいいとは言えないと僕は思うし、でもかっこ悪くてもこの人はあきらめなかった。どこかにあるはずの自分の仕事を追い求めて、追い求めて。幕府がなくなっても尚、追い求めてようやく見つかった。この非常にいい意味でのあきらめの悪さ。これは現代の我々がどんな仕事に就いてもすごく大切というか、励みになる人生じゃないかなと思います」
小山「前島密にとって手紙って何だったんですかね」

宇賀「この番組はお手紙をテーマにお送りしているのですが、今日は『今、想いを伝えたい人』に宛てたお手紙を書いてきてくださっているんですよね。どなたに宛てたお手紙ですか?」
門井「前島密にならって、私も自分の母に書いてきました」

宇賀「今日の放送を聞いて、門井さんにお手紙を書きたい、と思ってくださった方は、ぜひ番組にお寄せください。責任をもってご本人にお渡しします。
【〒102-8080 TOKYO FM SUNDAY’S POST 門井慶喜さん宛】にお願いします。
そして、お手紙をくださった方の中から抽選で、門井さんのサイン入りの『ゆうびんの父』をリスナー3名様にプレゼントします。応募期間は1ヶ月とさせていただきます。たくさんのお手紙、お待ちしています!」

郵便局のネットショップ

皆さんからのお手紙、お待ちしています

引き続き、皆さんからのお手紙、お待ちしています。日常のささやかな出来事、薫堂さんと宇賀さんに伝えたいこと、大切にしたい人や場所のことなど、何でもOKです。宛先は、【郵便番号102-8080 TOKYO FM SUNDAY’S POST】までお願いします。
今週の後クレ

「私は31歳なのですが、大人になるにつれて、知人の結婚や出産を、年賀状で知ることが増えました。学生時代はあまり年賀状を出すことがなかったのですが、知らせたいことが増えると年賀状を介して年に1回でも通じ合えるのはとてもよいことだと思います。知人からの年賀状を見て『こんな可愛い人と結婚したんだ』とか『こんな可愛い子が生まれてたんだ』と思ったことがありました。」
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