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今、知っておくべき注目のトレンドを、ネットメディアを発信する内側の人物、現代の情報のプロフェッショナルたちが日替わりで解説します。

22.03.24

ゼレンスキー大統領の国会演説

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ネットニュースの内側にいるプロフェッショナルが、注目のニュースを読み解きます。
引き続きコメンテーターは、BuzzFeed Japan News 編集長の神庭亮介さんです。
今朝、取り上げるテーマはこちら！


ゼレンスキー大統領の国会演説

ユージ：きのう行われた「ゼレンスキー大統領の国会演説」神庭さん、演説の内容を教えて下さい。


神庭さん：ウクライナのゼレンスキー大統領は演説で、「アジアで初めてロシアに圧力をかけ始めたのが日本です」と述べ、日本の援助や対ロシア制裁に感謝を表明。「制裁の継続をお願いします」と要望しました。印象に残ったフレーズを拾っていくと、「原発への攻撃」「ウクライナに対する『侵略の津波』を止めるためにロシアとの貿易禁止を導入し、各企業が撤退しなければならない」「避難した人たちが、ふるさとに戻れるようにしないといけない。日本の皆さんもきっとそういう気持ちがわかると思います」「サリンなど化学兵器を使った攻撃をロシアが準備している」などなど。東日本大震災や地下鉄サリン事件を想起させる、日本人が引っかかるようなワードを散りばめて、ウクライナの厳しい状況を伝えていました。


ユージ：個人的な感想をいうと、津波の表現を引き合いに出してきたりとか、原発に触れる、サリンなど日本にとって、とても悲しい出来事です。もちろん侮辱しているわけではないのは分かりますが、そこと比較して日本でもそういう事があった、こちらもそういう気持ちなんです、と日本の部分に触れつつ表現するのは心地よくなかったです。ウクライナの今の現状はみんな分かっていますし、日本からもたくさん寄付がいったりしているので、どうにか力になりたいんですけど、そこまで触れなくて良かったかな、というのが正直な印象です。神庭さんは率直にどういった印象を受けましたか？


神庭さん：意外に安全運転だったな、という印象です。というのも、事前の観測では、「核をちらつかせるロシアを批判するために、広島・長崎を持ち出すんじゃないか？」とか、「ウクライナも日本もロシアの隣国で領土を不法占拠されているという共通点があるので、北方領土について触れるのではないか」といった見方も出ていました。実際、プーチン大統領の側近も過去をちらつかせる発言をしていますから、そういう意味では、広島・長崎に言及してもおかしくなかったと思いますが、ロシア批判の文脈で広島・長崎に言及すると、結果としてアメリカを批判することにもなるので、もしかしたら配慮したのかもしれないです。


吉田：ゼレンスキー大統領は各国の議会でスピーチをしていて、演説が巧みだと話題になっています。人々を惹きつける理由はどこにあると思いますか？


神庭さん：アメリカ連邦議会では、真珠湾攻撃や9.11同時多発テロを「思い出してほしい」と呼びかけ、ウクライナ人も同じような目に遭っていると窮状を訴えました。正直、日本人としては、ここで真珠湾を出すのか…と複雑な思いもありますが、アメリカ人に何が刺さるか、ということを考えた上で真珠湾や9.11を盛り込んだのだろうと思います。さらに、アメリカ人なら知らない人はいない、キング牧師の有名なフレーズ「I have a dream（私には夢がある）」を引き合いに「I have a need（私には必要なものがある）」と話して、ウクライナ支援やロシアへの制裁強化を要請しました。


吉田：そんな裏事情があったんですね。


神庭さん：こんなふうに、ゼレンスキーさんは世界各国へ向けて「ご当地演説」を繰り広げて、人々の心を揺さぶり、共感を呼び起こしていきました。イギリスでは、「生きるべきか、死ぬべきか」というシェイクスピアの「ハムレット」の一節を引用し、ウクライナ人は「生きるべき」だと宣言したり、ドイツでは、ロシアがヨーロッパとの間に自由と束縛を隔てる“壁”を作っているとして「壁を壊しなさい」と訴えました。これは、東西冷戦のさなか、まだベルリンの壁があった頃、アメリカのレーガン大統領が、ソ連のゴルバチョフ書記長に言った有名なセリフを念頭に置いたものです。またイスラエルでは、ロシアのウクライナ侵攻をホロコースト（＝ユダヤ人大量虐殺）になぞらえて批判して、イスラエルが誇る高精度なミサイル防衛システム「アイアンドーム」の提供を求めたりもしました。


吉田：各国の歴史を踏まえてスピーチしているからこそ、反響も大きかったかもしれないですね。


神庭さん：一方で、ホロコーストは歴史上でも類を見ないような最悪の戦争犯罪なので、イスラエルの人たちの中にも、引き合いに出されることに複雑な感情を抱いている人もいるようです。なので日本でも、広島・長崎を持ち出せば、同じように複雑な思いを抱く被爆者の方たちが出てきた可能性もあり、あえて言及しなかったのは正解かもしれないですね。


ユージ：神庭さん、演説の場が「国会」だったことについて、反対意見もありましたよね？


神庭さん：国会でのオンラインの演説は前例がないなど、当初は難色を示す声もありました。朝日新聞は、閣僚経験者や自民党幹部の「日本企業はロシアから全部撤退しろと言うのでは」「何を言い出すか心配だ」といった声を紹介しています。立憲民主党の泉健太代表も、《「首脳会談・共同声明」が国会演説の前に絶対条件だ。演説内容もあくまで両国合意の範囲にすべき。》とツイートして批判を集め、後日「立憲民主党が反対している事実はない」と釈明しました。個人的には、「何がなんでもやるべきだ」とも「絶対やめるべきだ」とも思わなかったです。プラスの効果としては、ウクライナに寄り添ってロシアに抗議する強い姿勢を示せますし、一方で、ゼレンスキーさんが「日本も今すぐロシアの石油や天然ガスを禁輸してください」と言い出した場合、日本のエネルギー安全保障や国益にも大きくかかわってくる可能性があったので、どっちの選択肢を選んでもメリット、デメリットを勘案してコミコミで受け入れるということが大事だったんじゃないかなと思います。


そして、今日の #ユジコメ はこちら。



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