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今、知っておくべき注目のトレンドを、ネットメディアを発信する内側の人物、現代の情報のプロフェッショナルたちが日替わりで解説します。

22.07.18

イーロン・マスク氏のTwitter買収撤回

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ネットニュースの内側にいるプロフェッショナルが、注目のニュースを読み解きます。
今日は「BuzzFeed Japan」編集長の神庭亮介さんにお話を伺いました。
神庭さんが注目した話題はこちらです。


【イーロン・マスク氏のTwitter買収撤回】

吉田:アメリカのTwitter社は、同社の買収を撤回したことについて実業家のイーロン・マスク氏をアメリカ・デラウェア州の裁判所へ提訴しました。裁判闘争にまで発展したこの問題、これからどうなるのでしょうか?神庭さんに解説してもらいます。


神庭さん:そもそもの問題の発火点は、イーロン・マスク氏が3月にTwitter株の9.2%を取得し、筆頭株主になったことでした。4月にそのことが明らかになり、大騒ぎになりました。Twitterは当初マスク氏に取締役への就任を打診しましたがマスク氏はこれを辞退。返す刀で、440億ドル(約6兆円)でTwitterを買収することを提案し、Twitter側も4月25日にこれを受け入れました。


ユージ:マスク氏の買収の狙い、いろいろ言われていましたよね。


神庭さん:Twitter上で表現の自由、言論の自由を実現することが大きな目的のひとつだと言われています。SNS上でのデマの拡散や差別、誹謗中傷といった問題を解決するため、Twitterも含めたプラットーフォーム各社はここ数年対応を加速させてきました。アメリカの連邦議会襲撃事件を受けて、当時大統領だったトランプ氏の投稿が暴力を煽る恐れがあるということで、Twitterはトランプ氏のアカウントを永久凍結しました。
マスク氏は5月、フィナンシャル・タイムズのインタビューでトランプ氏の永久凍結について「道徳的に間違い」「Twitterの信頼を損なう」などと訴えて、買収が完了したら凍結を解除する考えを示していました。こういったマスク氏の姿勢について、保守派や表現の自由を重視する人たちが支持する一方で、Twitterが無法地帯になることを懸念する声も出ていました。Twitterが「自由すぎる」ことが問題なのか、「不自由すぎる」ことが問題なのか、その人の立場によって、見え方が180度変わってくる問題だと思います。


ユージ:そんななか、なぜ買収を撤回したんでしょうか?


神庭さん:Twitterには実態のないボットと呼ばれるアカウントが無数にあります。そのボットについてTwitterは5%未満だと言っていますが、マスク氏側は20%だと主張しています。マスク氏側は、Twitterが正確な情報を提供しないことは買収契約に違反しているとして、今月に入って撤回を表明したんです。ただ、これは口実で、実際にはお金の問題なんじゃないかという声もあります。4月の買収合意では、マスク氏は1株あたり54.2ドルで買い取ることを約束していましたが、Twitterの最新の株価は36.29ドル。金利の引き下げや米国景気の後退懸念もあって、提案価格を30%以上も下回っているんです。つまり提案時点よりも、Twitter株が割高になってしまい、マスク氏側からするとアテが外れた格好なんですね。


吉田:今回、裁判闘争にまで発展したわけですが、これからどうなるんでしょうか?


神庭さん:Twitterがマスク氏を提訴しましたが、Twitterからすれば、こんな高値で株を買ってくれる人はいないので、できるだけ買ってもらいたい。だから約束通り買収しろ、と迫っているわけです。マスク氏を提訴しない場合、今度はTwitterが自社の株主から提訴される可能性もあります。正当な理由なく買収を撤回する場合、マスク氏は10億ドルの違約金を支払わなくてはいけないので、徹底抗戦することが予想されています。ボット問題を声高に訴えて、少しでも違約金のディスカウントを狙うのではないかという予想もあります。Twitterが有利という見方もありますが、買収提案以降、Twitter社内はガタガタで幹部を解雇したり、新規採用を停止したり、部署によってはリストラの話も出てきています。このうえ、裁判を通じてユーザーの何%がボットだみたいな話が飛び交うと、広告主離れが進む恐れもあるんですね。フィナンシャル・タイムズは「勝者なき法廷闘争」と報じています。


ユージ:神庭さんは、この両者の対立、どう見られていますか?


神庭さん:10年以上、Twitterを使ってる身からすると、やっぱり「俺たちのTwitter」という気持ちが少なからずあるので、それが「イーロン・マスクのTwitter」になってしまっていいのか?大丈夫か?という心配があるのは事実です。ただ、マスク氏自身、重度のツイッタラーということもあって、提案にも耳を傾けるべきものは少なくないなと思います。たとえば投稿の編集機能をつけてほしい、とか。全く正反対の内容に書き換えることが横行すると問題ですが、履歴を残したうえであれば、誤字脱字とかを修正できるようにすることは理にかなっていると思います。ボット発でデマが拡散されるということも実際過去に起こっているので、対策を進めること自体は必要だと思います。


ユージ:本当ですね。


神庭さん:トランプ氏の永久凍結に関しても、ほかに手段がなかったのか?という議論はあっていいと思います。トランプ氏は自前のSNSを立ち上げてそこで発信を続けていて、「見えなくなる」と「いなくなる」は全然違うことなので、Twitterから追い出したとしても、別の場所で主張を先鋭化させたり、誤情報を拡散させたりしていたら意味がないですよね。なので、マスク氏の提案をTwitterとしても是々非々で受け止めて、そのうえで10億ドルの違約金だけしっかりもらって、マスク氏を追い出すのが、Twitter的にはベストのシナリオかもしれません。


そして、今日の #ユジコメ はこちら。





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