24.09.03
文化庁で話し合いが始まった、マンガやアニメなどの“国際的な振興拠点”
ネットニュースの内側にいるプロフェッショナルが、注目のニュースを読み解きます。
今日はダイヤモンド・ライフ副編集長の神庭亮介さんにお話を伺いました。神庭さんが注目した話題はこちらです。
【文化庁で話し合いが始まった、マンガやアニメなどの“国際的な振興拠点”】
吉田:マンガやアニメ、特撮、ゲームなどの「国際的な振興拠点」の整備について議論する文化庁の検討会の初会合が先週、開かれました。神庭さん、この「国際的な振興拠点」というのは、何でしょうか?
神庭さん:政府は、6月に閣議決定した骨太の方針のなかで、「(仮称)メディア芸術ナショナルセンター」の整備を進める方針を示しました。このセンターで何をやるのか?6月に策定した「新たなクールジャパン戦略」によると、マンガやアニメ、特撮、ゲームの作品や原画・セル画などの「中間生成物」に関して「収集・保存して、デジタル化する」「調査研究する」「人材育成をする」「国内外に情報発信する」「展示・利活用する」といったことをやりたいようです。検討会の委員には、アニメ監督の庵野秀明さんや里中満智子さんらも名を連ねています。センターの役割について議論して、9月中を目処に意見を取りまとめるということです。
吉田:どうしてそういう拠点が必要だという考えになったのでしょうか?
神庭さん:2022年の日本のマンガの市場規模は、約7,500億円です。アニメは約3,800億円、ゲームは約2兆3,300億円です。いずれも5年前から急成長しています。にもかかわらず、マンガの原画やアニメのセル画など作品制作の途中で生まれる「中間生成物」の管理が進んでいるとは言い難い状況です。ジャーナリストの数土直志さんがITmediaで執筆した記事によると、2018年に手塚治虫の『鉄腕アトム』の原画がフランスで3,500万円もの高値で落札されました。翌年には、香港のオークションで『ドラゴンボール』のセル画が1枚約143万円、『風の谷のナウシカ』のポスター原画が約1,500万円で落札されたということです。
ユージ:高額ですね。ある種、日本の作品がこれだけ評価されているので嬉しいですね。たぶん日本の元“中の人”や、コレクターから流出したのでしょうね。
神庭さん:その可能性がありますね。明治期に日本の浮世絵や古美術品が海外に大量流出しましたが、それと同じことが21世紀の日本でも起きています。原画やセル画などは、文化的に非常に貴重な財産であり、散逸したり廃棄されたりする前に国をあげて守らないといけません。メディア芸術ナショナルセンター構想の背景にもそういった危機感があります。
ユージ:実際、国内における原画やセル画の管理は、いい加減だったりするところもありますか?
神庭さん:結構、心配なところがあって文化庁の調査によると、漫画原画の場合、9割超が漫画家の自宅や仕事場で保管されています。ただ、そのままで安泰というわけではなく「自分で保管を続ける」という人は45.9%にとどまります。「将来的に預け先があるなら預けたい」「寄贈・寄託したい」「廃棄したい」などの回答が合わせて半数を超えており、10年後~20年後はどうなるかわからない。デジタル化して不要になったから、場所をとって大変だからという理由で、漫画家本人が原画を売ったり、廃棄したりするケースも普通にあります。アニメの原画・セル画の場合も同様で製作会社や制作請負会社、スタジオなどは「預け先があるなら預けたい」「寄贈・寄託したい」「廃棄予定」といった回答が6割を占めています。となると、民間任せの取り組みには限界があり、公的な機関の関与が不可欠ではないかと思います。
吉田:漫画、アニメファンからしますと、逆に、そういった拠点となるセンターが、これまでなかったのが不思議と思うかもしれません。昔から日本の漫画・アニメは海外でも高く評価されいますね。
神庭さん:そうですね。実は2009年の麻生政権で1度、同じような構想が浮上し、117億円かけて「国立メディア芸術総合センター」というものを作ろうとしたのですが、「巨大国営マンガ喫茶だ」と当時の民主党から猛批判を受けました。さらに身内のはずの自民党内でも先ほどの河野太郎さんをはじめ、「無駄遣い撲滅プロジェクトチーム」から予算凍結を求める声が出て、政権交代を経て計画が頓挫しました。その後、超党派の議員連盟ができて、「やっぱり法改正しようよ」という議論もあったのですが、やっと入口に立ったのが今です。この15年余り、政治の荒波に翻弄されてきたプロジェクトであることは間違いありません。
ユージ:神庭さんは今回のナショナルセンターについて、どう見ていますか?
神庭さん:100年、200年先の未来を見据えるなら、マンガの原画や初版本、セル画といったものが国の重要文化財や国宝に指定されても全然おかしくありません。そういう未来のために、中間生成物も含めてしっかり守っていくことは非常に重要だと思います。大事なのは中身です。とにかくでかいハコモノを作ろう、文化庁職員の天下り先を作ろうみたいな、変な方向に議論が流れないように注視していく必要があります。課題の1つは人材育成。マンガの原画や色紙などは、偽物も大量に出回っています。他の美術作品のように真贋鑑定できる人材が豊富にいるわけでもありません。まんだらけの店員さんを国家公務員として雇うのは難しいと思いますが、ノウハウは教えてもらった方がいいかもしれません。もう1つは立地です。2009年の計画ではお台場が有力視されていましたが、今回はどこに建てるのか。インバウンド的にも非常に有力なので場所の選定も慎重に進めて欲しいなと思います。
そして、今日の #ユジコメ はこちら。
#リポビタンD TREND NET #ユジコメ ①
— TOKYOFM/JFN『ONE MORNING』 (@ONEMORNING_1) September 3, 2024
今朝は文化庁で話し合いが始まった「漫画やアニメなどの“国際的な振興拠点”」を取り上げました。今年閣議決定した骨太の方針で整備を進める方針が示されており、漫画、アニメ、特撮などの作品や、原画・セル画などの収集、保存、デジタル化等を行う拠点です。
#ユジコメ ②
— TOKYOFM/JFN『ONE MORNING』 (@ONEMORNING_1) September 3, 2024
僕自身はこの取り組みを非常に高く評価しています。美術館の展示のように残すべき世界に誇れる作品が多く、単なるコレクターアイテムとして売買するだけでなく、記録物として国がしっかり管理していくのが望ましいと思います。 #ワンモ
#ユジコメ ③
— TOKYOFM/JFN『ONE MORNING』 (@ONEMORNING_1) September 3, 2024
漫画、アニメ、ゲームの市場は急成長しており、外国人からも非常に高い評価があります。また振興拠点となる施設はインバウンドの集客も見込めることから、普段混み合うような場所に作らず、地方部の新たな観光拠点の役割を目指す方向もよいのではないでしょうか。 #ワンモ