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25.02.04

埼玉県八潮市の道路陥没事故から見えてくる日本のインフラの課題

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ネットニュースの内側にいるプロフェッショナルが、注目のニュースを読み解きます。
今日は、ダイヤモンド・ライフ副編集長の神庭亮介さんにお話を伺いました。
神庭さんが注目した話題はこちらです。


「埼玉県八潮市の道路陥没事故から見えてくる日本のインフラの課題」

吉田:埼玉県八潮市で、県道が陥没しトラックが転落した事故で地元消防などは昨日も運転手とみられる男性の救助活動を続けました。陥没の原因は下水管の破損とみられており、水道や道路などインフラの老朽化を危惧する声が上がっています。神庭さん、改めて事故の経緯を教えて下さい。


神庭さん:報道によると、事故が起きたのは1月28日。埼玉県八潮市の県道交差点が陥没し、4tトラックが転落しました。当初、穴の大きさは直径10m、深さ10mほどで、運転手の方とも会話ができていたが、その日の午後を最後にやりとりが途絶えてしまいました。クレーンでの引き上げ作業も中々うまくいかず、救助のさなかにもう1つ穴が空くなど2次被害も懸念される事態になりました。30日には2つの穴がくっついて、直径40m、深さ15mほどの大穴に広がっています。共同通信によれば、一時は周辺の180人が避難。地中の通信ケーブルが損傷し、インターネット回線が使えなくなるエリアも出ました。固定電話の復旧には、なお時間がかかる見通しだということです。下水道管の破損で水が穴に流れ込んでおり、埼玉県が周辺12市町の120万世帯に下水道の利用自粛を求めるなど影響が広がっています。


ユージ:これは驚きましたし、怖いな。事故原因とみられている下水管、かなり老朽化していたのでしょうか?


神庭さん:この下水管が使われ始めたのが1983年。私と同い年なので、あちこちガタがきていてもおかしくはありませんが、下水管の耐用年数は50年と言われているので、本来ならまだあと7年は余裕があるはずなんです。2021年度の調査でも「すぐさま補修工事が必要な状況ではない」、と判定されていました。一応セーフであるはずの下水管が破裂して、陥没事故が起きてしまったとすると、日本全国どこに地雷が埋まっているか分からない状況です。事故を受け、政府も全国の下水道管理者に緊急点検を要請しています。


吉田:道路や水道など、日本のインフラの現状はどうなっているのでしょうか?


神庭さん:日本のインフラは高度経済成長期に集中的に整備されたので、これから20年で寿命を迎えるものも増えそうです。国土交通省のデータによると、2040年までに建設から50年以上経つインフラの割合は「道路橋…約75%」、「トンネル…約53%」、「水道管路…約41%」、「下水道管…約35%」と老朽化対策が急務になっています。一方で、維持管理にかかる費用は大きく膨らむ見通しで、メンテに当たる人も全然足りていません。インフレと人手不足のダブルパンチです。トラブルが起きてから対応する「事後保全」だと費用も膨らみがちです。不具合が起きる前に修繕する「予防保全」を進めていくことが大切かなと思います。


ユージ:男性の安否が気がかりですが、今回の陥没事故から見えてくる課題、色々ありそうですね。


神庭さん:インフラ老朽化は、まさに「今そこにある危機」です。何とかしなければいけないのは皆分かっているけど、先延ばし、先延ばしにしてきました。自民党の小泉政権は2000年代に無駄な公共事業をガンガン削減しました。その後の民主党政権も「コンクリートから人へ」というキャッチフレーズを掲げました。そういう分かりやすい主張は受けるし、実際ムダな公共事業も多かったのだろうなと思います。一方で、本来ならもっと早くに手をつけるべきだったインフラのメンテナンス、更新という課題が先送りされてしまった側面もあったのかなと思います。インフラが人々の生活を支えていると考えれば、「コンクリートもまた“人”」です。「公共事業だから悪」ではなくて、必要なコンクリートと不要なコンクリートがあるだけです。


吉田:日本のインフラは課題だらけだと感じますが、これからどうなってしまうのでしょうか?


神庭さん:「お金がない」「人がいない」で騙し騙し様子見でやっていくことの限界が、今回のことも含めて徐々に露呈してきています。インフラ更新も優先順位をつけて取り組んでいかないと保たないかなと思っています。少子高齢化や過疎化が深刻化していますから日本全国、網の目のようにインフラをくまなく維持するのは今後、難しくなっていくんじゃないかなと思います。イケイケドンドン時代の日本改造計画とは真逆の、「インフラ終い」「インフラの終活」も見据えた日本縮小計画が必要だと思います。


ユージ:なかなか、道路もそうですしビルも沢山あるわけですから厳しい時代になっていきそうですね。


神庭さん:将来的に山間部や人里離れたエリアでは、電気ガス水道の料金がドンドン上がっていくかもしれません。2020年の少し古いデータですが、北海道夕張市の水道料金は6,966円で最も安い兵庫県赤穂市の896円と比べると実に7.7倍の格差が現状であります。一般社団法人「水の安全保障戦略機構」と会計監査などを手がける「EY Japan」の試算では、2046年度までに全国の水道料金は平均48%上昇して、エリアごとの格差も20.4倍に広がるとみられています。そうなると、ほとんど別の国になります。インフラ料金が高騰しても、住める余裕のある人達はそこに住み続けますが、そうでない人は人口が多い中心部に移るしかなくなります。真綿で首を絞めるように、じわじわと事態が悪化していく。そういうシナリオも想定しておかないといけないなと思います。


ユージ:この話の通りでいくと、都市集中が今よりも加速する可能性があるということですか?


神庭さん:そうじゃないと、成り立たなくなるということですね。


そして、今日の #ユジコメ はこちら。





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