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今、知っておくべき注目のトレンドを、ネットメディアを発信する内側の人物、現代の情報のプロフェッショナルたちが日替わりで解説します。

25.04.22

備蓄米の放出。その効果

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ネットニュースの内側にいるプロフェッショナルが、注目のニュースを読み解きます。
今日は、ダイヤモンド・ライフ編集長の神庭亮介さんにお話を伺いました。
神庭さんが注目した話題はこちらです。


「備蓄米の放出。その効果」

吉田:農林水産省は先週、3月中旬に放出を始めた備蓄米の流通状況を発表しました。このうち、3月末までにスーパーなどの小売店に届いたのは、全体のわずか0.3%ほどにとどまることが分かりました。神庭さん、うまく届いていないような状況ですが、まずは今回のニュースについて詳しく教えて下さい。


神庭さん:報道によると、3月10日から12日に備蓄米の初回の入札が行われました。落札されたおよそ14万トンのうち、3月30日までに農水省から集荷業者に渡ったのが3%弱の4,071トン。そこからスーパーなど小売店に届いたのが426トン。全体のたった0.3%しか店頭に届いていませんでした。何でこんなに滞っているのか?というと、「初動のためトラックの手配や精米などの作業の調整に時間がかかった」という農水省の声を朝日新聞が報じています。備蓄米の倉庫は東北に多く、九州や離島など、遠隔地に届くのが遅れている可能性もあります。


ユージ:もともと備蓄米の放出は、コメの値段を下げるためだったと思いますが、今のところ効果が感じられないですね。


神庭さん:そうですね。今のところは全然で、4月7日から13日までの1週間に販売されたコメ、5キロの価格は平均で4,217円。15週連続で値上がりしています。大阪や沖縄では、5キロ6,000円を超えている店もあるという報道が出ています。JAなどの集荷業者が卸売業者におろす玄米の価格は、3月は2月に比べて2%ほど下がり、卸値の下落は8カ月ぶりです。小売店にもっと備蓄米が並び始めると、店頭価格も多少は下がってくるかもしれません。一方で、これから秋に新米が出回るまでは、在庫が薄い時期になります。消費者側の不足感が根強いですから、備蓄米が流通しても焼け石に水だという意見もあります。売る側も買う側も一般のコメと備蓄米を別物として捉えているので、コメ全体の価格は、なかなか下がらないとみる専門家もいます。


吉田:そんな中、コメと言えば、アメリカのトランプ大統領との関税交渉ですよね。こちら焦点になりそうですか?


神庭さん:当然、なると思います。アメリカ側は「日本がアメリカ産のコメに700%の関税をかけている」と主張しています。これはイチャモンで、実際には227%ほどだと専門家は試算していますが、それでも関税率が高いことは確かです。読売新聞によると、先週の日米の関税に関する協議で、ベッセント財務長官がコメの輸出に強い関心を持っていることが明らかになりました。日本側の交渉カードとして、コメや大豆の輸入を拡大する案も浮上しているということです。


ユージ:そうなると、もし日本側がある程度、譲歩してコメの関税を下げた場合、メリットとデメリット、それぞれどのような影響が考えられますか?


神庭さん:最大のメリットは、コメの価格が下がることです。これは消費者としては助かります。FNNによれば、カリフォルニア米のカルローズは5キロで3,000円ほどですが、このうち関税が1,705円ほどを占めます。仮に関税がゼロになったら1,295円ですから激安ですよね。低所得者ほど生活費に占める食費、コメ代の比率が高いので、その負担を減らせるのは大きいです。インフレ対策として即効性があります。コメと自動車と、どっちが大事なんだという議論は当然あると思いますが、あえてコメで譲歩することで自動車の関税を少しでも下げさせることを狙うということ。そういう交渉カードの1つにはなると思います。うまくいけば、国内の米不足・インフレ問題とトランプ関税をいっぺんに解決できるかもしれません。


吉田:一方、デメリットはどんなことが考えられますか?


神庭さん:5キロ1,300円みたいな激安価格でカリフォルニア米を売られたら、国内の米農家はたまったもんじゃない。太刀打ちできないですよね。米農家は零細・赤字のところが多く、高齢化も進んでいます。価格競争に耐えられず、廃業・離農する農家が続出するのではないでしょうか。食料安全保障の点で大きなリスクですし、耕作放棄地が増えて里山が荒れ果てれば、国土保全の観点からも問題かなと思います。


ユージ:一長一短という感じがしますが、日本として出来る対策、どんな対策が必要でしょうか?


神庭さん:トランプさんの外圧をテコにして、農政改革を進めるのも1つの選択肢だと思います。政府は2018年に減反政策を廃止しましたが、コメ以外に転作した農家に補助金を出すなど、いまだにコメの生産調整に繋がる政策を続けています。コメの需給をタイトにすることで、価格を維持して農家を守る狙いですが、それだとちょっとしたことでコメ不足になってしまいます。本当に守るべきは「コメの価格」ではなく「農家の生活」のはず。でしたら、関税を下げつつ、EUのように農家への直接支払いという形で所得補償する手もあるのかなと思います。


吉田:先ほどもお話に出ましたが、心配なのが食料安全保障、こちら大丈夫でしょうか?


神庭さん:現状コメの自給率は、ほぼ100%なのに、それでもコメ不足やコメの高騰が実際に起きています。ということは、食料安全保障としても、今の仕組み、実はあまりうまくいっていません。例えば、日本単体の自給率にこだわらず、アメリカやオーストラリアなど同盟国・準同盟国も含めた「同盟国自給率」で考えて有事に備えるのもアリかなと思っています。カリフォルニア米を備蓄しておいて、需給が逼迫した時は日本のコメから順番にどんどん市場に放出していく、みたいなやり方もアリかなと思います。もちろん、トランプさんの暴走ぶりを見て「アメリカは同盟国として本当に信頼できるのか?」という声は当然出てくると思いますが、その辺りも含めてタブーなく議論したらいいと思います。参院選までにコメの課題を解決しないと与党に対してもかなり逆風になってしまいます。


そして、今日の #ユジコメ はこちら。





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