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今、知っておくべき注目のトレンドを、ネットメディアを発信する内側の人物、現代の情報のプロフェッショナルたちが日替わりで解説します。

25.05.05

焦ったら負け!日米関税交渉の行方は?

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ネットニュースの内側にいるプロフェッショナルがニュースを読み解きます。
コメンテーター引き続き、ダイヤモンド・ライフ編集長の神庭亮介さんです。
今朝、取り上げるテーマはこちら!


「焦ったら負け!日米関税交渉の行方は?」

吉田:トランプ関税をめぐる日米の2回目の交渉が、日本時間の2日にアメリカのワシントンで開かれました。そこで今朝は、日米双方の狙いや今後の見通しについて、神庭さんに解説してもらいます。


ユージ:今回、130分と長時間の会談だったようですが、どんなことが話し合われたんですか?


神庭さん:詳細は明らかにされていないですが、前回4月の会談以上に踏み込んだ協議がされたようです。日本側は自動車・鉄鋼・アルミニウムへの25%の追加関税も含めて、全面的な関税の撤廃を主張しましたが、アメリカ側は車・鉄鋼・アルミは協議の対象外というスタンスで、日米間の溝が明らかになりました。少し整理すると、トランプ関税にはすべての国に一律で課す10%の相互関税と、そこにプラスして国ごとに課す上乗せの税率があります。日本の場合は14%で、現在は90日の凍結中です。さらに、自動車・鉄鋼など品目ごとにかけられる25%の関税もあります。この3つのうち、アメリカは「日本向けの上乗せ14%の部分だけを協議の対象にする」と言っていて、それに対して日本側は反発しています。


吉田:そういった溝があるなか、歩み寄りはできそうでしょうか?


神庭さん:歩み寄りに向けて、日本も少しずつカードを切り始めている状況です。読売新聞によると「日本側はトウモロコシや大豆の輸入拡大を提案した。トウモロコシは家畜用の飼料やバイオエタノールとして使うことを想定」。アメリカから中国への輸出が減る分、日本が代わりに買いますよというわけです。自動車に関しては、輸入車の安全審査を簡略化できる優遇措置を拡大するなど、非関税障壁の見直しを提案したということです。依然として隔たりは大きいものの、日米双方が「建設的な議論だった」と言っているので、一定の進展はあったと思います。


ユージ:今回の日本側の思惑、狙いについてはどう見ていますか?


神庭さん:日本としては、あくまでも貿易の問題として協議を進めたいと思います。「為替を円高に誘導しろ」とか「米軍の駐留経費を払え」みたいな話に飛び火すると面倒なことになります。赤沢経済再生大臣も、今回「為替と安全保障はまったく議論していない」と言っています。過去の言動からもトランプさんは為替や安保をディールの道具にしかねないので、予防線を張って関税交渉と切り離そうとしているのではないでしょうか。また、自動車や自動車部品、鉄鋼・アルミなどの品目別関税について、赤沢さんは「そこの部分がパッケージの中に入らないと合意ができない」と言い切っているので、日本にとってはそれが最終防衛ラインになるのかなと思います。


吉田:では、アメリカ側の狙いはなんでしょうか?


神庭さん:アメリカ側は、協議の対象を14%の上乗せ部分だけに絞り込むことで、一律10%の関税や自動車・鉄鋼・アルミの品目別関税は、ある種の「既成事実」として日本に呑ませようとしています。交渉第1号の日本で10%部分をディスカウントすると他国との交渉にも影響しかねないので、堅持したいのではないでしょうか。自動車・鉄鋼・アルミの品目別関税は、国内製造業の復活を掲げるトランプ政権にとっては重要です。ラストベルトの人々の熱い支持を受けて当選したトランプさんとしては、やすやすと譲歩できない部分かもしれません。


ユージ:関税交渉をめぐっては、加藤財務大臣が米国債に言及したことも話題になりましたよね?


神庭さん:日本は1.1兆ドル、実に163兆円もの米国債を保有しています。ダントツで世界一の保有国です。これは交渉カードとして使わない手はないと、番組でも何度かお話ししてきました。加藤財務大臣は5月2日、テレ東の番組で、「米国債を安易に売らない」と発言することは交渉カードにならないのかと聞かれて、「カードとしてはある」と答えました。具体的には「交渉のカードになるものはすべて盤上に置きながら議論するのは当然。それを切るのか切らないのかは、また別の判断だと思う」。慎重な言い回しですが、「加藤さんグッジョブ!よく言った」と思いました。


ユージ:そのカードを持っているのを1回見せるっていうのが大事ですよね。これは、そんなに重要な発言になるんですか?


神庭さん:重要だと思います。歴史を振り返ると、1997年に当時の橋本龍太郎総理がアメリカの大学で講演した際に、「実は、何回か米国債を大幅に売りたいという誘惑に駆られたことがある」と話したことがありました。これは「ここにFRBやニューヨーク連銀の関係者はいないでしょうね」という前フリがあったうえでのジョークでしたが、市場は本気と受け止め、株価も国債価格も急落しました。それ以来、日本の政治家が米国債について軽々に発言することはタブーとされてきました。そういう経緯も踏まえると、今回、遠慮がちな表現ではありますが、加藤さんの発言は評価できると思います。恐らくですけど「弱腰な外交をするなよ」という日本の国内世論のガス抜きの意味合いもあるのかもしれません。


ユージ:最後に、今後の交渉の見通しについて教えてください。


神庭さん:赤沢大臣は関税交渉について「ゆっくり急ぐ」と宣言しました。石破さんはこれを「名言」と評価して「我々の国益をきちんと主張する。そういうものを譲ってまで、早く妥結すればいいというものではない」と述べました。本当にその通りで、何より重要なのは日本の国益。焦る必要はないです。トランプさんはアメリカは優位な立場で、合意を急いでいないと主張していますが、これは強がりだと思います。就任100日の支持率は41%で歴代の大統領で最低です。来年の中間選挙に向けて支持率をなんとか回復させたいっていうのが本音だと思います。そのためには、最初の交渉相手である日本との協議を一刻も早く取りまとめたいと思っているはずです。焦っているのはアメリカで、時間は日本に味方しています。「ゆっくり急ぐ」「国益第一」で焦らずに交渉を進めてほしいですし、交渉カードも一気に切るんじゃなくて、小出し、小出しにした方がいいと思います。


そして、今日の #ユジコメ はこちら。



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