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今、知っておくべき注目のトレンドを、ネットメディアを発信する内側の人物、現代の情報のプロフェッショナルたちが日替わりで解説します。

25.05.06

改正公職選挙法について

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ネットニュースの内側にいるプロフェッショナルがニュースを読み解きます。

ダイヤモンド・ライフ編集長の神庭亮介さんにお話を伺います。
神庭さんに取り上げていただく話題はこちら!


『改正公職選挙法について』

吉田:選挙ポスターの品位の保持を求める『改正公職選挙法』が今月2日、施行されました。6月の東京都議選や夏の参院選にも適用されます。一方、“SNS上の誤情報の拡散”や、いわゆる“二馬力選挙”などの対応は間に合わない見通しです。神庭さん、公職選挙法が改正された背景を改めて教えて下さい。


神庭さん:昨年7月の東京都知事選では、NHKから国民を守る党(N国)が選挙ポスターの掲示枠を事実上販売したことで、選挙と無関係なポスターが大量に貼られ、掲示板がジャックされてしまいました。猫や犬の写真ならまだしも、なかには風俗店のポスターなどもありました。そして、N国とはまた別に、ほぼ全裸の女性のポスターを貼り出して、警察から警告を受けた候補者も出まして、選挙管理委員会には「子どもに見せられない」といった苦情が殺到したそうです。自民党、公明党、立憲民主党、国民民主党、日本維新の会など与野党7党が公職選挙法の改正案を共同提出しまして、れいわ新選組とN国は反対したんですけれども、3月に成立したというのが背景です。


ユージ:具体的にどのように変わったのでしょうか?


神庭さん:大きく3点あります。1つ目は、ポスターを使用する候補者の氏名を見やすいように記載しなければならない。2つ目は、他の政党や政治団体の名誉を傷つける、善良な風俗を害する、特定の商品の広告・宣伝をするなど、品位を損なう内容をポスターに記載してはいけない。3つ目は、ポスターで商品の広告や営業の宣伝などをした場合、100万円以下の罰金に処される。ということです。私自身は、そもそも選挙ポスターも選挙カーも候補者名をアピールするだけで肝心の政策がわからないのでいらないと思っていますけれども、実際問題すぐになくすのは難しいと思います。なので、続ける以上は、おかしなことにならないような歯止めが必要で、今回の法改正が一定の抑止力にはなるのではないかと思います。


吉田:今回は間に合わなかったようですが、“SNSでの誤情報の拡散”なども懸念されていますね。


神庭さん:そうなんですよね。選挙期間中に誤情報が広まって、それをもとに有権者が投票すると、選挙結果まで左右してしまうので非常に重大な問題です。それ以外に、自分自身の当選を目的としないで他の候補者の応援のために立候補して活動する“二馬力選挙”も問題視されています。こういった事態も念頭に改正公選法の附則には、ネット上の選挙情報のあり方や、候補者の公平性についても引き続き検討し、必要な措置を講じることが明記されました。ただ、6月の都議選や夏の参院選にはどうも間に合いそうもない情勢なんですよね。


ユージ:SNSなどのほうが影響力が強く、対策も重要だと思いますが、どうして対策が進まないのでしょうか?


神庭さん:表現の自由との兼ね合いもあって、セーフ/アウトの線引きが非常に難しい。加えて言うと、各党の利害もあると思います。自民党は選挙中の誤情報を即削除する仕組みが必要だと訴えていて、立憲民主党は第三者によるファクトチェックなどを提唱しています。維新も規制に前向きです。一方で、SNSや動画を上手に使って支持を伸ばした国民民主党は規制に慎重です。玉木さんは「選挙は言論の自由市場に委ねるもの。何がいいか悪いかを国家が決めることになるのは気持ち悪い」と話しているんですね。ポスター規制に比べると、具体的な制度設計の部分で政党間の温度差が大きいです。もう1つ焦点になりそうなのが、収益を目的にした『切り抜き動画』の扱いなんです。


ユージ:あぁ、ありますね『切り抜き動画』ね。というと、どういうことでしょうか?


神庭さん:政治系の切り抜き動画はここ数年で急増していまして、NHKの調査によると、332のチャンネルで切り抜き動画や関連動画も合わせた総再生数が35億回超に達しまして、再生数1億超えのチャンネルも5つあったそうなんですよね。まじめにやっている人もいますが、とにかくクリックさせるために、過激な編集やミスリードな発信をしている投稿者も少なくないありません。背景にあるのが「アテンション・エコノミー」。なかには年収3000万円を稼ぎ出す切り抜き職人もいると報じられています。朝日新聞によると、自民党内には選挙動画の収益停止を求める声もあるそうなんですけど、実現のハードルは高くて、期間をどこで区切るのか?とか、選挙動画と日頃の政治活動上の動画をどう分けるのか?あとは、政治的な信念を持って拡散している場合、収益を絶っても効果は薄いのではないか?などなど色々課題があるんですよね。もう一つ言うと、「既存メディアは選挙報道で広告収入を得ているのに、SNSや動画だけ規制するのは不公平だ!」という批判も当然出てくるはずなので、そこに応えられるだけの議論を積み上げていく必要があると思います。


吉田:都議選や参院選が近づいています。SNSや動画の情報と我々はどう向き合うべきでしょうか?


神庭さん:テレビとか新聞をはじめ、「メディアの情報が正しいとは限らない」という意味でのメディア・リテラシーはだいぶ浸透してきたと思います。一方で、「じゃあ、SNSや動画の情報が全部正しいか?」と言えば、決してそんなことはないですよね。メディアを疑い、批判的に見るのと同じテンションでネット情報も疑い、吟味し、比較検証して欲しいと思います。食べ物の栄養バランスに気を配るのと同じように、政治情報についてもバランス良く摂取して欲しいです。あとは切り抜き動画だけでなく、長尺の元動画も見て、文脈が歪められていないかをチェックしていただけたらいいなと思います。



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