25.05.19
年金制度改革法案、なぜ低年金問題対策は先送りに?
ネットニュースの内側にいるプロフェッショナルが、注目のニュースを読み解きます。
今日は、ダイヤモンド・ライフ編集長の神庭亮介さんにお話を伺いました。
神庭さんが注目した話題はこちらです。
「年金制度改革法案、なぜ低年金問題対策は先送りに?」
吉田:政府は16日、年金制度改革法案を閣議決定しました。パート従業員の「106万円の壁」撤廃が盛り込まれた一方、懸案になっていた基礎年金の底上げによる低年金対策は見送られました。そこで今朝は、年金改革法案の課題や先送りの理由について、神庭さんに解説してもらいます。
神庭さん:まず年金改革法案の内容ですが、1つ目は「106万円の壁」の撤廃です。パート従業員らが厚生年金に加入するための条件から「年収106万円以上」という賃金要件をなくして、「従業員51人以上」という企業規模の要件も段階的に撤廃していきます。働き控えを減らして、厚生年金に入れる人を拡大することが狙いです。2つ目は、高所得者の保険料引き上げです。ボーナスを除く給与収入が年798万円以上ある会社員の保険料を段階的に引き上げます。最大で月9,000円、年間にすると11万円弱の負担増です。年収798万円というのがボーナス抜きとはいえ、「高所得」と言えるかはちょっと疑問が残るところです。3つ目が、「在職老齢年金」の見直しです。高齢者が働きながら年金を受給する際に、一定以上の収入があると年金が減額・停止されます。その支給停止の基準額を今の月50万円から62万円に引き上げます。他にも、iDeCo加入年齢を「65歳未満」から「70歳未満」に引き上げる。遺族厚生年金の支給条件を男女で揃えるといった改革が盛り込まれています。一方で、最大の注目点だった基礎年金の底上げについては法案から削除されました。
ユージ:そもそも、基礎年金とは何でしょうか?
神庭さん:年金は3階建てになっていて、1階が「基礎年金」。自営業者や主婦・学生も含めて、日本に住む20歳以上60歳未満の全ての人が入るもので「国民年金」ともいいます。そして、2階が会社員や公務員が加入する「厚生年金」です。報酬によって増減します。さらに、その上の3階に私的年金であるiDeCoや企業年金がきます。昨年7月に発表された年金財政の検証結果によると、今後30年ほど0%前後の経済成長が続くと仮定した場合、2階の厚生年金は比較的余裕があるものの、1階の基礎年金は2057年度までに現在の水準から3割ほど低下してしまう見通しになりました。
吉田:ピンチの基礎年金ですが、なぜ底上げが見送られたのでしょうか?
神庭さん:厚生労働省は2階の厚生年金の積立金からお金を流用して、1階の基礎年金を底上げすることを目論んでいたが、ネット上で批判が殺到しました。Xでは「厚生年金の横流しは横領」「人が貯めたお金勝手に使うとか、泥棒じゃん」「サラリーマンをATMだと思っているのか」といった怒りの声が続出しました。さらに厚生年金基金とは別に、最大2.6兆円の国庫負担を確保する必要もあることが判明しました。これが大体、消費税1%分に当たることから、「将来の消費税アップに繋がるのでは?」という観測も広がりました。参院選が近づくなか、自民党内でもこれでは選挙を戦えないという声が広がり、法案から基礎年金の底上げ案は削除されて、先送りとなりました。
ユージ:目減りしていく基礎年金、このまま放置しているとどうなるのでしょうか?
神庭さん:保険料を払った人に支給するという枠組みでやっている限り、「年金制度」が破綻することはありません。ただ、保険料を払ってこなかった無年金や低年金の人が増えると、生活保護財政が逼迫する恐れがあります。めぐりめぐって税金が投入されるということです。氷河期世代は40代から50代まで幅広いですが、5年10年もすると氷河期世代の大量退職が始まります。氷河期世代は雇用が不安定で無年金や低年金に陥る人も多いとみられています。このままだと生活保護財政がパンクするかもしれません。新卒で社会に見捨てられた人たちが、老後の年金でも見捨てられたら絶望は深いですよね。「無敵の老人」が大勢出現するような事態になれば、社会も不安定化してしまう恐れがあります。
ユージ:年金改革、神庭さんはどう考えますか?
神庭さん:低年金・無年金対策のことを考えると、待ったなしですが、厚生年金から基礎年金に流用するというのは「目的外使用」ですから、あり得ないと僕は思います。政府にとって「便利な財布」である社会保険料のサイレント増税で、だましだましで社会保障を回してきた歪みが今になって出てきています。現役世代は、もう限界です。保険というのは本来、加入者のためのものであって、加入者以外へ再分配をするなら「税」で賄うべきです。具体的には、基礎年金の部分を最低保障年金化して100%税財源化します。そして、その税は現役世代だけでなく、余裕のある高齢者の方も含めて、幅広い世代に負担してもらうことが大前提になるのかなと思います。基礎年金は、未納や全額免除・猶予で保険料を払っていない人が半分もいます。こういう不平等を放置するくらいであれば、完全に税負担化して国税庁がしっかり徴収する方がマシなのではないかなと思います。英語で「エレファント・イン・ザ・ルーム」という慣用句があります。部屋の中に大きな象がいるんだけど、誰も触れない状況。年金問題は、まさに象です。政治は有権者の反発が怖くて、下手に触れません。ですが、年金は国家百年の計ですから、目先の選挙対策で有権者に気持ちのいい話ばかりするのではなくて、耳の痛い話も含めて与野党で真摯な議論を尽くしていただきたいなと思います。
そして、今日の #ユジコメ はこちら。
#リポビタンD TREND NET #ユジコメ ①
— TOKYOFM/JFN『ONE MORNING』 (@ONEMORNING_1) May 19, 2025
テーマは「年金制度改革法案、なぜ低年金問題対策は先送りに?」
政府は16日、年金制度改革法案を閣議決定しました。
パート従業員の「106万円の壁」撤廃が盛り込まれた一方、
懸案になっていた基礎年金の底上げによる低年金対策は見送られました。#ワンモ
#ユジコメ ②
— TOKYOFM/JFN『ONE MORNING』 (@ONEMORNING_1) May 19, 2025
低年金対策については、見送って良かったのかという懸念点があります。
今の氷河期世代の方々の大量退職が5年10年すると始まり、
雇用が不安定で無年金や低年金に陥る人も多くなります。
このままだと生活保護財政がパンクするかもしれないからこそ、…
#ユジコメ ③
— TOKYOFM/JFN『ONE MORNING』 (@ONEMORNING_1) May 19, 2025
選挙の対策という部分はあるとは思いますが、ここで決まることが先延ばしされて、今の現役世代に影響が及ぶ前に、与野党内で真摯な議論をしてほしいと思います。#ワンモ