25.05.22
最近よく聞く“無償化”から見えてくるもの
ネットニュースの内側にいるプロフェッショナルがニュースを読み解きます。
本日は、情報社会学がご専門の学習院大学・非常勤講師、塚越健司さんです。
今朝、取り上げるテーマはこちら!
「最近よく聞く“無償化”から見えてくるもの」
吉田:少子化対策の一環として、来年度を目処に出産費用の無償化を進める動きがあります。今年の4月からは、公立高校で所得制限なしの実質無償化も始まりました。そこで、塚越さんと最近よく聞く無償化について考えていきたいと思います。
ユージ:塚越さん、まず先週、話題になったのが、出産費用の無償化ですね。
塚越さん:そうなんです、来年度を目処に出産費用の無償化を進めるということで、厚生労働省は今後、無償化の範囲や方策を検討します。その前にまず知って欲しいのは、基本的に出産は「保険適用が効かない」という点です。出産は身体的に大きな負担を負います。大怪我になりますよね。健康保険は「治療目的の医療行為」が前提となっていて、帝王切開といった医療処置が必要な場合を除くと、保険の適応外です。個室の差額ベッド代や食事代、新生児管理保育料なども基本的に自己負担です。対象にもよりますが、出産に保険が効かないのは個人的に違和感があります。とはいえ、以前から出産に伴う補助はありまして、2023年からは出産一時金が増額されて「50万円」が支給されるようになっています。今回は、この一時金の増額だったり、妊婦負担なしの保険適用などで、実質無償化しようというものです。保険適用にした場合は、診療報酬として金額も全国一律になります。現在は地域によって出産費用が異なるので、保険適用となれば、地域間格差の是正になるといわれています。
吉田:無償化と聞くと、嬉しいことだと思いますが、もちろん課題もありますよね。
塚越さん:そうですね。リスナーの方も無償化のこと「いいじゃん」と感じる方がいると思いますが、保険適用にすると、自由診療で質を高めている医療機関(産婦人科クリニック)などは、自由度が効かなくなって収入が落ちる可能性があります。逆に、「保険で一定額出るなら」と、便乗して価格を上げる施設が出てくる可能性もあります。これは50万円に出産一時金が上がった時にも出てきた問題です。色々な価格差があります。あとは、とても重要な点としては、そもそも出産できる医療機関が減っている点です。子どもの出生数は少なくなっていますが、出産に関わる医療の質は下げられないので、医療機関は採算がとれなくなってきています。そこで分娩をやめたり、24時間体制の医療体制が組めなくなってくる可能性もあります。無償化で報酬が一律化されると、さらに経営が圧迫されるところも出てくる可能性があります。なので、無償化するにしても、診療報酬をどう設定するかがかなり難しいですし、財源問題もあります。
ユージ:先日始まった高校授業料の無償化も、賛成の声が多い中、課題もありましたね。
塚越さん:そうですね。無償化の対象は授業料のみなので、制服代だったり教材費、修学旅行費といった「隠れ教育費」は自己負担のままです。また、結局お金に余裕のある家庭は浮いた費用を塾に使うことで、教育格差が広がる可能性もあります。また社会的に大きく議論になったこととして、先行導入した大阪府では公立高校の定員割れが増加したということがありました。高校授業料無償化も、やはり以前から支援金制度があり、そこに上乗せという形になりました。当然、追加財源も必要になってくるわけで、いわゆる「費用対効果」があるのかどうかということです。絶えず、細かな調整が必要になりますし、「無償化」の言葉をそのまま鵜呑みにするのはどうかな?というところで、よく見る必要があります。
ユージ:塚越さんは、無償化政策が増える現状をどう思いますか?
塚越さん:一部では、給食の無償化や場合によっては公共交通機関の無償化など、いくつか自治体が行っています。例えば、教育や出産はあまり関係ないという方もいらっしゃると思います。そんな中で、どこまで「社会的なのか?やるべきなのか?」論点があります。教育や出産は、社会の土台を支援するという政策になっています。また、子育て支援と中間層対策のハイブリッドな形でもあると思います。もちろん、選挙も視野に人気取り政策という意見もあります。最近も、東京都が期間限定で水道無償化なんていう話もありました。選挙前だからという話もあります。無償化には、財源問題、公平性の問題などいろんな課題があるのも見てきた通りです。土台を支えるという点では、ある程度全体に関わってくる話かなと思います。一方で、これが本当に良い制度なのかどうかというのは「無償化」という言葉は聞こえがいいですが、いま話した通り出産に関しても結構細かくて、現場の話を聞くと難しかったり、高校授業料無償化も色々な問題があります。だとすると、その言葉だけでなくてみんなで全体を考えていく必要があります。あとは、財源の問題も大きいです。何でもお金がかかってくるので、費用対効果がどこまであるのかというのを我々が常に興味を持って関心を持つと、我々も議論していくことになるのかなと思います。
そして、今日の #ユジコメ はこちら。
#リポビタンD TREND NET #ユジコメ①
— TOKYOFM/JFN『ONE MORNING』 (@ONEMORNING_1) May 22, 2025
『最近よく聞く無償化から見えてくるもの』
少子化対策の一環として、出産費用や公立高校の授業料などを無償化する動きがあります。お金に困っている方だけでなく、将来子供が欲しいと思っている方にも安心感を与える上で重要な政策だと思いました。#ワンモ
#ユジコメ②
— TOKYOFM/JFN『ONE MORNING』 (@ONEMORNING_1) May 22, 2025
物価が上昇し給料が上がらない中で、国の政策や将来の不安を理由に出産を諦めてしまう事ほどもったいない事はないと思います。子育ての間口を広げるためにも、無償化の動きや支援する姿勢を見せることが、少子化対策となるのではないでしょうか。#ワンモ
#ユジコメ③
— TOKYOFM/JFN『ONE MORNING』 (@ONEMORNING_1) May 22, 2025
高齢化が進む現在、少子化対策にしっかりお金を使ってほしいですし、財源をどうするのかを考えるのが政府の仕事だと思います。
長期的に時間がかかるかもしれませんが、財源の問題や制度設計などの課題をクリアするために、今日から向き合ってほしいと思いました。#ワンモ