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25.10.07

東京・町田市で起きた女性殺害事件から考える「誰でもよかった」犯罪の背景と対策

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ネットニュースの内側にいるプロフェッショナルが、注目のニュースを読み解きます。
今日は、ダイヤモンド・ライフ編集長の神庭亮介さんにお話を伺いました。
神庭さんが注目した話題はこちらです。


【東京・町田市で起きた女性殺害事件から考える「誰でもよかった」犯罪の背景と対策】

吉田:9月30日、東京都町田市のマンションで76歳の女性が刺されて死亡する事件が起きました。警視庁は殺人未遂容疑で自称派遣社員の40歳の男を逮捕。男は「誰でもいいから殺そうと思った」などと供述しているということです。


ユージ:神庭さん、今回の事件で容疑者は、具体的にはどんな供述をしているんですか?


神庭さん:複数の報道によると「今の生活が嫌になった。誰でもいいから殺そうと思った」「行政の窓口で自分だけ冷たい対応をされた」「自分だけ宅配物が届かないなど絶望感があふれてきた」「周りの人に嫌われているのではないかと思った。感情が爆発した」といったことを供述しているということです。「誰でもいい」「自分だけ」「絶望」「感情が爆発」といった言葉がキーワードかなと思います。一方で、話している内容から矛盾も感じます。


吉田:矛盾というのは、どういった部分でしょうか?


神庭さん:容疑者は「襲いやすそうな人を探して、目的もなく歩いていた」とも話しています。「誰でもいい」と言いながら、実際は襲いやすい人をターゲットにしていました。襲いやすい人というのは、女性、高齢者、子どものことだと思います。こういった「誰でもよかった」系の事件で、屈強な男性に襲いかかったケースはあまり聞かないです。2004年に相撲部屋の親方(元力士)に殴りかかって逆に取り押さえられたという事件があって、男は「むしゃくしゃしていたのでやった。誰でも良かった」と語っています。本当にこれくらいしか思いつきません。


ユージ:確かに、あまりそういうケースは聞かないですよね。


神庭さん:そうですよね。もちろん、相手が誰であれ許されることではないですが、自分より弱い人、襲いやすい人をつけ狙うというのは、より卑劣で悪質だなと思います。被害女性はスーパーからの買い物帰りでした。容疑者は「両手が荷物でふさがっていたので抵抗されないと思った」とまで言っているということです。女性は人工股関節を入れていて、歩くのがゆっくりだったという報道もあり、それで狙われた可能性もある。10カ所以上も刺されており、非常に強い殺意を感じます。


吉田:突然、肉親を失って、被害者の遺族は本当にいま辛い状況ですよね。


神庭さん:本当にそうだと思います。被害女性の娘さんは母親の「助けて」という叫び声を聞いてマンションの部屋から現場に駆けつけ、容疑者が包丁を振りかざす姿まで目撃してしまっています。時事通信の取材に対して、娘さんは「自分が犯人と格闘すれば、母は助かったのだろうか」と自分を責めて、「痛かっただろう。なぜ母だったのか」と語っています。本当に気の毒だと思います。記事によれば、女性は長年、保育園の清掃などの仕事をしており「温厚で働き者」だった。当日は麻婆豆腐をつくるためにスーパーへ行き、帰宅の際に事件に巻き込まれてしまったということです。容疑者が「誰でもいい」と考えた相手は、家族にとってはかけがえのない存在であって、夕食に麻婆豆腐を食べるささやかな幸せ、ささやかな日常を一瞬にして奪ってしまったということを忘れてはいけないと思います。


ユージ:こういった「誰でもよかった」犯罪が起こる背景には何があるのでしょうか?


神庭さん:今回の事件の動機については分かっていない部分も多いので、ここからは一般論として話したいと思います。「誰でもよかった」犯罪と、いわゆる「無敵の人」による犯罪は重なり合う部分があるのかなと思います。お金がない、人間関係が希薄で孤立している、自分の境遇に不満がある、社会に何らかの恨みを抱いているといった状況で、失業や失恋、家族との不和などが重なって爆発するケースですね。京王線の車内で乗客を刺して放火した「ジョーカー事件」がありましたが、被告は「死刑になりたいと考えた」と話しています。他人を巻き添えにした無差別殺傷事件の中には「拡大自殺」「間接自殺」を企図したケースも多数含まれているとみられます。


吉田:こういった「誰でもよかった」犯罪は、どうしたら減らせるのでしょうか?


神庭さん:ジョーカー事件や京アニ事件のような放火は、手段に比べて結果が重大なので「弱者の犯罪」と言われます。法務省の資料によれば、無差別殺傷犯には放火の前科を持つ者が比較的多く、同様に「弱者型」の傾向があると言われています。これは「加害者側」が弱者という意味です。大前提、どんなに困難な状況であっても、真っ当に生きている人が大多数なわけで、犯罪者に同情してお涙頂戴ストーリーにするのは、僕は間違っていると思います。ただ、そこを踏まえたうえで、凶行に走ってしまう「無敵の人」をどう減らすか?という話ですが、無敵の人が無敵なのは、失うものがないからですよね。であれば、失ったら困るもの、守るべきものをつくるしかありません。それは安心感の得られる居場所だったり、友人・知人・家族だったりするのかもしれません。インベカヲリ★さんの『「死刑になりたくて、他人を殺しました」無差別殺傷犯の論理』という本には、自殺を考えている人に対して「いのちの電話」があるように、潜在的な加害者に対しても相談窓口があったら一定の抑止力になるのではないか、という話が出てきます。ちょっと遠回りなようですが、支援が必要な人、孤立している人をスムーズに福祉や医療に繋げることが、治安を改善していく無敵な人を減らしていくのが1つの手だてにもなるのかなと思います。


ユージ:そういう抑止できるような相談窓口もそうですが、本人が「悩んでいる」と相談してくれればいいケースであって、そうならずに無敵な人になるのが1番怖いです。気付けるシステムっていうのが、何かできるといいなと思います。


神庭さん:抱え込んで、孤立して暴発するのが1番怖いですよね。


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