26.02.25
高市総理「裁量労働制」の見直し表明…その課題は?

ネットニュースの内側にいるプロフェッショナルがニュースを読み解きます。
引き続きコメンテーターは、情報社会学がご専門の学習院大学・非常勤講師、塚越健司さんです。
今朝、取り上げるテーマはこちら!
『高市総理「裁量労働制」の見直し表明…その課題は?』
吉田:高市総理は2月20日の施政方針演説で「裁量労働制」の見直しを表明しました。塚越さん、この「裁量労働制」について詳しく教えて下さい。
塚越さん:最近聞く機会が増えた裁量労働制ですが、こちらは1988年から始まった制度です。簡単に言えば、企業と労働者で最初に働く時間。つまり「みなし労働時間」を決めて、それ以上働いても働かなくても決めた時間分の賃金を払うというものです。例えば、みなし労働時間を8時間とした場合、実際の労働時間が6時間でも10時間でも8時間分の賃金になります。ただし、これは全ての業務に適用できるものではなく、厚労省が定めた職種です。例えば記者や大学教員、システムコンサルタントや証券アナリストといった20の職種と、企業の本社での企画や調査、分析といった業務に限られています。裁量労働制を導入するには、みなし労働時間を労使で決めて、実際に働く労働者にも同意を得る必要があるなどハードルは高いです。なので、全労働者の中でこの制度を適用されている人は全体の1%からどんなに多くて2%程度です。いわゆる「ホワイトカラー」に限れば当然多くなりますが、それでも全体数は少ないです。
吉田:この「裁量労働制」。どのようなメリット・デメリットがそれぞれあるのでしょうか?
塚越さん:まずメリットですが、厚労省が2019年に行った調査によると、出勤や退勤などがある程度自分で決められて柔軟に働けるので、ワークライフバランスが確保できるといった回答や、メリハリのある仕事ができるといった回答がありました。企業としても、深夜や休日労働以外では残業代が発生せず、また給料が出る時間が決まっているので、短い時間で成果を出そうと無駄な働きをしない。つまり「生産性が向上する」といったメリットがあります。一方でデメリットですが、やはり実際に働いている時間の把握が甘くなりがちで、長時間労働をしがちになるという懸念があります。また、仕事が終わらないとみなし労働時間を超えて働かなければならないので「定額働かせ放題」という批判もあり、労働者の健康管理が重要になります。実際、先程の厚労省の調査でも、1週間の実労働時間が60時間以上の人が対象者のおよそ1割いたということです。これを1ヶ月に換算すると、過労死の恐れのある長時間労働となります。実際、2024年度は裁量労働制が適用されている労働者の労災認定が8件ありました。また、1日の平均みなし労働時間と平均実労働時間を比べると、やはり実労働時間の方が多いという結果も出ています。つまり、結構働いてしまっているということになります。加えて、実際は仕事に裁量がそれほど与えられていないのに、裁量労働制が適用されて、会社が多くの業務を与えている場合などは、裁判で裁量制が無効と判断されるケースもあるということです。こうしてみると、メリットがありますがデメリットもあると思います。
ユージ:何故、高市総理は今、「裁量労働制」の見直しを表明したのでしょうか?
塚越さん:まず、人口減少の中で経済成長を進めるという大きな課題があるので、1人1人の生産性を高めたり、特に成長分野の成果が重要になってきます。また、クリエイティブ職などは「裁量労働制で柔軟な働き方をした方が、付加価値の高い仕事に繋がる」といった声もあります。さらに経済界も、裁量労働制の手続き緩和や対象業務の拡大を求めているので、高市総理もこうした動きに対応しているものとみられます。例えば、経団連は従業員の過半数で構成されている労働組合のある企業に限定して労使合意すれば、営業やコンサルタントなどの業務も対象に拡大する仕組みをつくることを求めています。一方、労働組合は長時間労働を懸念して反発しています。働かせ放題になってはいけないということです。いずれにせよ、政府は高市総理が立ち上げた日本成長戦略会議や労働に関する審議会などで議論を続け、夏までに一定の方向を示す方針です。
ユージ:「裁量労働制」の見直し。塚越さんは、どうご覧になっていますか?
塚越さん:柔軟に働けるとか、いろいろ良い面はあると思いますが、とうしても日本は仕事を短く終えるよりも、時間が余ったらもっと仕事をしてしまう人が多いです。労働文化として「No」がなかなか言えないところがあります。企業風土もあると思うので。昨今は、裁量労働制を社員が1度同意しても撤回できる仕組みが求められているので、いずれにしても労働者ファーストの仕組みが重要だと思います。一方、現在もフルフレックスタイム制とか、裁量労働制じゃなくても割といろんな似たようなシステムがあります。高市総理も「リモートワークを勧めよう」と言っているところもありますので、それ以外のいろんな方向の組み合わせを考える必要もあると思います。あとは、時間が短くて成果が出た場合はもうちょっと賃金をアップする仕組みをつくっていくのも大事だと思います。現状では、全体で適用している人は少ないですが、適用する人を拡大する可能性もありますし、いろんな人に関わってくると思うので、賃金アップとかその辺りの議論をして欲しいと思います。