26.04.30
通報報奨金制度は社会に何をもたらすのか?

ネットニュースの内側にいるプロフェッショナルがニュースを読み解きます。
コメンテーターは、情報社会学がご専門の学習院大学非常勤講師 塚越健司さんです。
今朝のテーマはこちら!
通報報奨金制度は社会に何をもたらすのか?
吉田:茨城県は、5月11日から不法就労の外国人を雇う事業者の情報を市民から募り、摘発につながれば、1万円の報奨金が支払われる「不法就労 通報報奨金制度」を始めると発表しました。
ユージ:塚越さん、まずは茨城県の「通報報奨金制度」について教えてください。
塚越さん:茨城県がはじめるのは、外国人を不法就労させている事業者の通報を受け付けるもので、摘発・逮捕につながった場合に報奨金1万円が支払われるというものです。通報者は実名で身分証明書の提出も必要で、匿名の通報は受け付けません。また、通報対象はあくまで「事業者=会社」になっていて、あとで説明しますが外国人を名指しで通報するというものではないことには注意が必要です。
吉田:なぜ、茨城県は、この制度を始めるのでしょうか?
塚越さん:まず前提として、去年不法就労で摘発された外国人はおよそ1万3500人いるんですが、茨城県は農業分野で摘発者が多く、4年連続で全国最多となっています。そこで茨城県の大井川知事は「抜本的な対策が必要」として、今回、都道府県レベルでは前例のない取り組みに着手したということです。ただし知事は、通報があっても県が不法就労かどうか確認してから警察に連絡することや、まじめに働く外国人を不安にさせることは絶対にあってはならないと強調されています。実際、単に「ゴミ出しのルールが守られていない」「外国人が多くいる」といった通報は対象にならないなど、バイアスのかかった通報を防ぐという仕組みもあります。
ユージ:なんでもかんでも取り締まるわけじゃなくて一応ちゃんとチェックをした上なので大丈夫ですよということですね。制度が導入されたら、どんな効果が見込めるでしょうか?
塚越さん:まず「抑止効果」です。報奨金制度があると知るだけで、違法な雇用をしている事業者が是正する可能性があります。その結果として、ブローカーや悪質な雇用主による搾取的な環境が減る可能性があるかなというところです。
吉田:発表から、批判的な意見も出ているようですね。
塚越さん:そうなんです。この問題は、かなり複雑なんですよ。というのも、そもそも不法就労が生まれる背景として、外国人の方が日本に来る時の「技能実習制度」の問題がずっと指摘されていました。この制度は、入った職場の経営者や条件が合わなくても、技能実習でやってきた外国人には転職・転籍の自由がなく、問題のある職場から逃げると在留資格を失い、気づいたら不法就労となるケースがあるということなんですね。「だったら国に帰ればいいじゃないか」、という意見もあると思いますが、そうした人は母国から日本に来る際に、ブローカーに多額の借金をしていて、日本で稼がないといけないという背景もあります。この「ブローカー問題」も構造的にいろんな問題があって、簡単に解決できません。なので犯罪とか不法就労は絶対にいけないんですが、外国の方の不法就労にはこうした背景があるということを忘れてはいけないと思います。そういう意味でいうと、不法就労かどうかは見た目ではわからないので、どうしても偏見が入りやすく、正規で働いている外国人労働者の方も不安を感じることになります。なので通報制度をつくるなら、それ以上に適正な外国人労働者の受入体制を整える必要があると思います。
ユージ:塚越さんは、今回の制度どう見てますか?
塚越さん:「技能実習制度」は、安い労働力を外国から得ようとするという側面があり、批判も多く廃止が決まっています。来年からは「育成就労」という制度になります。この制度にも構造的な問題が指摘されていますが、一定の条件があれば職を変える=転籍ができるなど、外国人労働者の扱いは良くなる点もあります。一方、社会的には外国人に対する忌避感が出てきているのも事実です。こうした状況では感情的になるべきではないのですが、人の感情はなかなか難しい。だからこそ政策が重要になるのですが、今回の通報制度が忌避感情を煽ることにならないかという懸念があります。一方、特に地方では外国人労働者なしには回らない現場が多数あります。都内ではコンビニの店員さんなどが目立ちますが、実際は地方の工場や農業など、目立たないところで日本の産業を下支えしてもらっているので、いわゆる「外国人との共生」は好きとか嫌とか理想とか思想ではなくもう「現実」になっているんです。なので、不法就労を摘発することは重要ではあるんですけど、では「なんでそうなってしまったのか」ということですよね。本当に悪いことをしようとして来てる人っていないことはないと思うんですけど構造的な問題があるということを理解した上で、今後は賃金などの待遇も含めてどうやって外国人労働者とどう向き合うかを考えないと。人口減少して、外国人いらないっていうなら、それはそれでそういう議論をするべきなんですね。
ユージ:今は人手を求めている時代ですから。外国の方でも戦力になってくれたら嬉しいときが沢山ありますよね。
塚越さん:構造的にみてもらえると、この問題をよく考えられるんじゃないかなと思います。