26.05.11
主婦年金の縮小と健康保険の見直し案の背景

ネットニュースの内側にいるプロフェッショナルがニュースを読み解きます。
コメンテーターはダイヤモンド・ライフ編集長の神庭亮介さんです。
今朝、取り上げるテーマはこちら!
【主婦年金の縮小と健康保険の見直し案の背景】
吉田:自民党と日本維新の会は、公的年金の「第3号被保険者制度」いわゆる主婦年金の対象者を縮小する方向で一致しました。また財務省は、専業主婦が保険料を払わなくても給付を受けられる「被扶養者制度」についても見直すことを求めています。そこで今朝は、主婦の社会保障の縮小案が相次いで提起された背景について、神庭さんに解説してもらいます。神庭さん、まずは、そもそも「主婦年金」とはどんなものなのか?というところから、教えて下さい。
神庭さん:年金は3階建てになっていて、1階が20歳以上60歳未満の全ての人が入る「基礎年金」。2階がサラリーマンが入る「厚生年金」。そして3階が iDeCoや企業年金などの「私的年金」という建付けになっていて、今回の主婦(主夫)年金は1階の基礎年金についての話です。基礎年金の被保険者は約6700万人で、3つの種別に分けられます。内訳を見ると、農業・自営業・学生などの「1号」が1300万人超、会社員や公務員など「2号」は4700万人超。そして、サラリーマンである2号に扶養されている配偶者の方々のうち、年収130万円未満の方が641万人いて「3号被保険者」と呼ばれています。3号は保険料を自己負担する必要がなく、年金制度全体で支える形になっています。これが主婦年金の仕組みです。
ユージ:その主婦年金の縮小が検討されている理由は何でしょうか?
神庭さん:もちろん年金財政の問題もありますし、パート主婦の方が年収130万円を超えないように働き控えをしてしまう「年収の壁」の問題があります。所得税をめぐる「103万円の壁」は見直しが進んだ一方、年金など社会保険の「130万円の壁」が残されたままで、労働意欲を阻害しています。もう1つが他の加入者からの「不公平だ」という声です。不公平にもざっくり3種類くらいあって、1つ目は夫が1号の自営業で妻が専業主婦というケースです。この場合、妻も1号として保険料を支払う必要があります。2つ目はシングルマザー、シングルファザー家庭です。生活が苦しくても、自分たちで保険料を払わないといけないです。3つ目が年収制限を上回る共働き家庭です。こちらも夫婦それぞれ保険料を払っています。3パターン共通して「なぜ自分たちは払っているのに、サラリーマンの専業主婦のかたは払わなくていいんですか?」という不満が出てきちゃうということなんですよね。
吉田:健康保険の被扶養者制度の見直しについても教えて下さい。
神庭さん:こちらも主婦年金と同じ構図です。日本の公的保険は会社員・公務員の健康保険と、自営業・フリーランスの国民健康保険に分かれます。サラリーマンの健康保険は会社と本人が負担を折半する仕組みです。本人だけでなく配偶者や子どもなど収入が少ない家族も「被扶養者」として保険に入ることができます。毎日新聞によれば、中小企業の社員が入る協会けんぽや、大企業向けの健康保険組合、公務員らの共済組合の加入者は合計7736万人です。このうち収入が一定以下の配偶者など被扶養者は、2970万人と4割ほどを占める状態です。
ユージ:かなりの数ですね。
神庭さん:そうなんです。ところが、財務省は4月28日の財政制度等審議会の分科会で「核家族化や共働き世代の増加も背景に、社会保険制度の個人単位化が求められる」と指摘しました。年金の3号被保険者制度だけでなく、医療保険の被扶養者のあり方も見直しを検討すべきだとぶち上げました。具体的な見直しの方向性は不明ですが、毎日は政府関係者の声として「扶養する人の分の保険料を多く払ってもらう」という案を紹介しています。さすがに未成年の子どもにまで追加負担を求めるようなことはないと信じたいですが、年金の見直しと合わせて専業主婦家庭の負担増になる可能性も出てきています。
ユージ:主婦の社会保障をめぐる相次ぐ見直し案、神庭さんはどう考えていらっしゃいますか?
神庭さん:サラリーマンと専業主婦を前提にした社会保障制度が時代に合わなくなっているのかな、と思います。1980年から2025年にかけて、専業主婦世帯は1114万世帯から476万世帯まで減少しました。一方で共働き世帯は614万世帯から1333万世帯へ2倍以上に増えています。本来、法制度が家族の形にまで踏み込むのはNGです。ですが、現状は政府が「専業主婦の方が有利ですよ」「あまり働きすぎないように年収はほどほどにしておきましょう」と特定の生き方を誘導するような仕組みになってしまっています。その意味で、主婦であれ共働きであれフラットな制度にするという見直しの方向性は正しいと思います。ただ注意点もあります。
ユージ:何でしょうか?
神庭さん:かつては専業主婦家庭が一般的で、仕事を辞めて家庭に入る方が大勢いました。主婦の方々の家事・育児への大変な努力があって、今の日本社会があるわけです。そのことへの感謝とリスペクトを忘れてはいけない、と思います。この問題をめぐってSNSではトゲトゲしてギスギスした言葉が飛び交っています。共働き家庭と専業主婦家庭を分断するような言い方は、たとえ正論でも嫌だなと思います。病気や介護などで「働きたくても働けない」という人への配慮も必要です。50代の主婦の方に「今から保険料を払え」というのは酷な話なので、制度の移行にあたって混乱が起きないような設計をお願いしたいと思います。