26.05.12
Xに実装された「自動翻訳」機能でやってくるのは天国か地獄か?

ネットニュースの内側にいるプロフェッショナルがニュースを読み解きます。
コメンテーターはダイヤモンド・ライフ編集長の神庭亮介さんです。
今朝、取り上げるテーマはこちら!
【Xに実装された『自動翻訳』機能でやってくるのは天国か地獄か?】
吉田:Xの自動翻訳機能が今年3月末に実装され、国境を越えたコミュニケーションが活発化しています。言葉の壁が取り払われたことで、どんなメリット、デメリットが予想されるのか、神庭さんに読み解いてもらいます。
ユージ:使っている方は何となくわかると思うんですけど、Xの自動翻訳はかなり浸透してきましたね。
神庭さん:だいぶ広がってきたなと思います。もともとは「翻訳を表示」というボタンを押さないと訳してくれない仕様でしたが、最初から自国言語で表示されるようになりました。英語や韓国語も日本語の投稿と同じように表示される。この一手間が結構大きいんですよね。Xのプロダクト責任者は3月30日に「歴史上最大の文化交流がまさに今、登場した」と高らかに宣言し、イーロン・マスク氏も「これは長年の目標でした」とXに投稿しました。
吉田:そんな自動翻訳機能、まずはプラス面から教えてください。
神庭さん:国や言語の壁を越えて文化交流が促進されるのが一番のメリットかなと思います。アメリカ人が豪快なバーベキューの様子やでっかいお肉の写真を次々に投稿して、それに対して日本人が「おいしそう」「アメリカのバーベキューの写真見ながら白米を食べたい」とコメントを寄せて、お返しとばかりに卵かけご飯やラーメンの写真をアップするなど、ほっこりするようなやりとりがあちこちで見られました。「ITmedia ビジネスオンライン」によれば、X効果なのか横浜のテキサスバーベキュー店では週末の客足が2倍くらいに増えるくらい、実体経済にもポジティブな影響が出ているようです。
ユージ:思ったより早くこの言語の壁っていうのがなくなるかもしれないですね。他にはどんな影響が出ていますか?
神庭さん:私も全然知りませんでしたが、アメリカの南部ではコーラにピーナッツを入れて飲む「ピーナッツコーラ」というものがあるらしいです。「Farmer’s Coke」(農夫のコーラ)とも呼ばれ、農作業の合間にさっとエネルギー補給できるので人気があったといいます。これがXで存在が知れ渡るや日本でも試しにやってみる人が急増し、バーボンやクレイジーソルト、ハチミツなどを足して魔改造する人まで現れて、本家のアメリカ勢と思しき人たちからも「クレイジーな日本発イノベーション」「あなたはアメリカの精神を体現している」みたいな、称賛の声が上がるという場面もありました。
吉田:今のところいい話ばかりですけれども、どうして自動翻訳で「地獄」が来るかもしれないのでしょうか?
神庭さん:懸念される地獄は大きく2つございまして、1つ目が「グローバル炎上地獄」なんですね。国内だけでも炎上騒動って手に負えないですけれども、世界規模に拡大してしまうリスクがあります。国ごとに文化や宗教観も違えば、法律やマナーも異なります。日本では何の問題もない表現が、悪気なくどこかの国の人たちの地雷を踏んでしまうかもしれません。SNSはただでさえ「出会い頭の衝突事故」みたいなことが起きやすくて、本来、出会わなくて良かった人たち同士が、自動翻訳によって不幸な出会いをしてしまうことが想定されます。
ユージ:確かに。それはありそうですね。
神庭さん:もちろん自動翻訳はうまく使えば、日本企業が海外マーケットにアピールする武器になります。その反面、失敗やアラもバレやすくなる、見つかりやすくなっちゃうってことですね。いままでは日本の1億人だけを考えていれば良かったですが、今後は全世界の数十億人を意識しないといけないですから、そう考えると炎上リスクは10倍以上になるんじゃないかなと思います。商品やサービスのネーミング1つとっても、どこかの国でおかしな言葉になってないか念入りにリサーチした方がいいでしょうし、よく日本語や漢字のタトゥーを入れている外国人の方で「なんでその言葉入れちゃった」というパターンがありますが、その逆バージョンが起こりかねないですよね。
吉田:他にはどんなリスクがありますか?
神庭さん:一番懸念しているのが日本発のアニメや漫画への影響です。日本のアニメ、漫画がここまで発達したのは表現の自由によるところがすごく大きいんですよね。暴力や性に関しても比較的おおらかで、多少過激なものも含めて自由な表現が許されてきました。今はXでもテキストしか翻訳できないですけど、そのうち画像内の文字とかも簡単に訳せるようになると思うので、そこでXでワンシーンだけ切り取られて、「差別じゃないか」「文化の盗用だ」など、作者の意図とかけ離れた誤解が広がらないか心配です。
ユージ:自動翻訳が招く2つ目の地獄は何ですか?
神庭さん:2つ目は「フェイク拡散地獄」です。先ほどのバーベキュー投稿にしても、Xが英語のスラングをうまく翻訳できなくて「火を弱めた方がいいよ」という善意のアドバイスが「死ねよ」に翻訳されてしまいました。全然意味が違いすぎるでしょみたいな。これくらいなら笑い話ですが、Xの誤訳のせいでオバマ元大統領があたかも暴力を肯定したかのような投稿が拡散されてしまうようなケースもありました。仮に今後、翻訳性能が上がったとしても、海外発のデマや陰謀論が「正確な翻訳によって」広まるリスクは残ります。海外からの世論誘導工作もより容易になってしまうので、そこも怖いなと思いますよね。このXの自動翻訳機能を現代のバベルの塔だと言う人もいます。旧約聖書では、もともと人類は1つの言葉を話していましたが、神の怒りに触れたことで言語がバラバラになり、バベルの塔の建設も頓挫しちゃうんですね。言葉が一つになったことで、かえって分断が加速する皮肉な結果にならないといいなと思います。