26.05.14
食糧法の改正案について

ネットニュースの内側にいるプロフェッショナルがニュースを読み解きます。
コメンテーターは情報社会学がご専門の、学習院大学・非常勤講師 塚越健司さんです。
塚越さんに取り上げていただく話題はこちら!
【食糧法の改正案について】
吉田:政府は先月、コメの「需要に応じた生産」を明記した食糧法改正案を閣議決定し、これから本格的にコメ政策の見直しに入ります。そこで今日は、新たな食糧法の改正案について塚越さんに伺います。
ユージ:塚越さん、まずお米の価格は、今どうなっていますか?
塚越さん:農林水産省の発表によりますと、4月27日から5月3日に全国およそ1,000店のスーパーで販売されたコメの平均価格は、5キロあたり税込みで3,796円と、2週連続の値下がりでして、去年の8月以来、久しぶりに3,800円を下回っています。コメ価格の今後については様々な予想がありますが、在庫が多いということなのでもう少し下落するという予想もありますね。
ユージ:そんな中、先日閣議決定した「食糧法の改正案」は、どんな内容でしょうか?
塚越さん:ポイントは主に3つあります。1つ目は、「コメの在庫の見える化」です。コメには在庫の報告義務があるのですが、これまでは出荷業者や販売業者だけでした。今回の改正では、コメの量が多いメーカー、例えばコンビニのおにぎりをつくるメーカーだったり、牛丼チェーンのような外食チェーンも国への報告が義務になります。要するに、これまで見えなかったところも国が把握できれば、「コメが本当に足りないのか」「どこで滞っているのか」がもう少しわかるようになるということです。2つ目は「民間備蓄制度の創設」です。これまでコメの備蓄は、政府が買い上げて倉庫に保管していましたが、これに一定規模以上の民間事業者も加わる制度をつくります。昨今、話題の石油のように、ある程度民間の備蓄もして不測の事態に備えましょう、ということですね。そして最後の3つ目ですが、法律から「生産調整」という言葉が消えます。生産調整とはその名の通り、コメを作りすぎないように量を抑える考え方で、事実上の減反政策の根拠でした。鈴木農水大臣は、「コメの需要を拡大して、それに応じた生産を推進する」と説明しています。輸出だけでなく、米粉や加工用など、新しいコメの需要をつくって、それにあわせて生産を増やしていくという発想ですね。ただし、生産調整という言葉は消えても、実際には需給調整の仕組み自体が完全になくなるわけではないことには注意が必要だと思います。
吉田:改正案、家計への影響はどうでしょうか?
塚越さん:基本的にはプラスに働くとみられます。まずは緊急時のリスクが減ります。今は石油問題が話題ですが、私たちはすでに「令和の米騒動」を体験していますよね。もう一度スーパーからコメが消えることがないように、国がコメの量を把握したり、場合によっては民間備蓄も利用することで、急激な価格高騰などが起きないようになるのは、国民にとってプラスになります。また、業務用や加工用のコメが増えるとなれば、外食産業などでも価格が幾分か抑えられると思います。ただし先ほどの民間備蓄については、業界から異論も出ています。簡単にいうと、まずコメが不足すると一気に在庫が減りますよね。そうなると備蓄分も売る必要があるのですが、基本的には政府の指示がないと売れないわけですよね。むしろ備蓄する分が流通できなくなってもっと困る可能性もあるということです。備蓄自体は重要ですけれども、去年は政府の備蓄米の放出に時間がかかりましたよね。だからこその民間備蓄なのですが、結局は政府判断にかなり影響されるので、政府が素早い対応をするということが、民間備蓄でもやっぱり重要かなと思いますね。
ユージ:「食糧法の改正案」、お米の安定供給につながるでしょうか?
塚越さん:コメ問題は何年も続いていますが、実は「目詰まり」という言葉は去年や一昨年からコメの流通の話でよく聞かれたんですよね。最近はナフサ関連で目詰まりと言われていますけれども、やはり政府がきちんと全体の流通や情報を把握できる必要があるんですよね。今回の改正でそこができるようになるといいですし、コメ不足と同時に「情報不足」を解消することが、コメの安定供給につながるのかなというところです。一方で、情報が増えたり生産調整という言葉がなくなっても、農家さんは高齢化や人手不足などで、そもそもコメを作る能力が低下していること、また、そもそも量が少なかったという問題もあると思います。なので、積極的に作るという段階になっても、根本的な問題は解消されていないので、むしろ今回の法改正によってやっと課題に取り組む入り口に立った、という言い方もできると思います。こうしてみると目詰まり解消で情報の透明化ができて状況が見えるようになっても、「そもそも足りないじゃん」ということがもっと浮き彫りになる可能性があります。そうなってくると、これから大きな企業が参入してお米をたくさん作るようにしていくのかなど、そういったことをもっと考えていく必要がありますよね。
ユージ:そうですよね。だから少なくとも、本来は作っているはずの量のものが届けきっていない問題はまず解消しないといけない。
塚越さん:目詰まりを解消するために見えやすくするのは大事ですね。