26.06.18
ホルムズ海峡封鎖解除の方向と私たちの生活への影響

ネットニュースの内側にいるプロフェッショナルがニュースを読み解きます。
コメンテーターは情報社会学がご専門の、学習院大学・非常勤講師 塚越健司さんです。
塚越さんに取り上げていただく話題はこちら!
「ホルムズ海峡封鎖解除の方向と私たちの生活への影響」
吉田:アメリカのブルームバーグ通信は6月16日、アメリカとイランが6月19日に正式署名する戦闘終結の覚書について、イランが事実上封鎖するホルムズ海峡の船舶の通航を署名から30日以内に戦闘開始前の水準へと再開させることが明記されていると報じました。ホルムズ海峡の封鎖が解除されると、私たちの生活は、どうなっていくのか。塚越さんと考えます。
ユージ:塚越さん、アメリカとイランが戦闘終結に向けた覚書に正式署名したと報じられました。ホルムズ海峡の封鎖も解除される方向になっているんですね。
塚越さん:これまでの流れをおさらいしましょう。まず、トランプ大統領が現地時間6月14日にSNSで、イランとの戦闘終結で合意したと発表しましたが…
ユージ:そこまではトランプ大統領側からの発信でしたからね。
塚越さん:これまで何度も同じような発言を繰り返してきたので、みなさんもまたかと思っていたと思うんですけれども、今回に関してはイラン、そして仲介国のパキスタンの関係筋からも協議の進展が報じられたこともあり、一気に注目が集まりました。市場もすぐに反応して、原油価格が下がったり、日経平均株価も上昇しましたよね。これに関連して、経済同友会の山口代表幹事も今週月曜の記者会見で、原油やナフサの円滑な調達ができることを期待する、といったことをお話しされてます。なので期待はされているのですが、一方で、すぐ戦闘前の状態に戻るかというと、課題も多いです。例えばイスラエルがヒズボラやレバノンに対して攻撃をして、今回の停戦内容に違反してしまう可能性もあります。あとは、60日間の停戦期間の中でも交渉が進展しないと、トランプ大統領は、最終的にうまくいかないなら再爆撃するかもしれないと牽制していることもあって、まだ先行きが不透明なところはあるのかなと思います。一方で、イランもペルシャ湾岸諸国の石油や天然ガスの施設を攻撃しています。特に3月には、カタールにある世界最大級の天然ガス施設の一部が攻撃を受けまして、カタールの輸出能力の17%ほどが失われています。一部分ではあっても、その復旧には数年かかるケースもあるということで、エネルギーの価格とか流通がすぐに回復するわけじゃない。つまり、我々の生活が元に戻るかというと、難しいところもあるということですね。
吉田:そんな中、ホルムズ海峡の封鎖が解除されると、私たちの生活にどう影響していくと考えられますか?
塚越さん:懸念はいろいろとありますが、それでも現状よりは一歩進んだのかなというところ。まず、原油価格は戦闘のピークより下がりました。今後は、今もペルシャ湾に残る日本や世界中の船が実際にホルムズ海峡を通れるようになれば、多少なりとも市場に安心感が広がります。タンカーの通航が段階的にでも再開すれば、物理的な供給不足が一部解消します。一方、プラスの影響が出るには時間がかかります。例えば、ペルシャ湾のタンカーが日本に来るにも数週間かかりますので、そこから効果が現れるのには数ヶ月かかります。なので、数週間程度では元の生活に戻ることは難しいところです。次にナフサについてですが、これは日本でも強く懸念されて政府も様々な調達先を探しましたよね。ナフサは調達経路に安心感が出れば、在庫を気にしていた企業もナフサの出荷制限をもう少し緩めやすくなるのかなと思います。そうなると、不足が指摘されているペンキなどを含め、少し状況が良くなっていって、例えば住宅建設とかも少しずつ元に戻っていくのかなというところなんですが、できるようになったとしても価格は下がらずにしばらくは高止まりなのではないかという予測もあります。あとは、食品や電気、ガスといったエネルギーですけれども、これも大きくいって落ち着くのは数ヶ月かかるでしょう。さらに言うとこれも戦闘前に戻るというよりは、価格はある程度高止まりになるとみられます。電気などで補助は多少ありますが、それ以外に関してはちょっと高止まりになると思います。なぜなら、値上げの要因は円安や人手不足など戦争だけではありませんので、追加の値上げが遅くなるだけで、価格が下がるとは基本的に考えづらいところです。
ユージ:今回のホルムズ海峡の封鎖で、日本にどんな課題が見えてきたでしょうか?
塚越さん:生活者目線でいうと、物価を筆頭に、まだまだ先行きは不透明ということですね。実際、60日の停戦期間ですから、完全に終わったわけではないので、なかなか難しい面もあります。そうなると、海外の動向、特にトランプ大統領にかき乱されていくのかなと思います。その上で私が思うのは、今回の件をきっかけに、ナフサなども含めて色々な調達先を探していくことや、あとは省エネなど、産業の体制そのものを変えるのは結構重要なのかなと思います。コロナの影響でオンラインワークが普及したように、新しい産業構造に変えていくということですよね。政府が続けているガソリンなどの補助についても、一時的な対応としては良いのですが、その間にそもそもの産業を変えていく。発電のやり方にしても、再生可能エネルギーには様々な課題がありますが、少し増やしていくなど、全体の構造を今のうちから考える必要があるのかなと思います。