26.06.22
アメリカ・イラン合意、くすぶる火種

ネットニュースの内側にいるプロフェッショナルがニュースを読み解きます。
コメンテーターはダイヤモンド・ライフ編集長の神庭亮介さんです。
今朝、取り上げるテーマはこちら!
【アメリカ・イラン合意、くすぶる火種】
吉田:イランの軍事当局は6月20日、ホルムズ海峡を再封鎖すると発表しました。アメリカやイスラエルが「戦闘終結に向けた覚書に違反した」と主張しています。アメリカとイランは6月17日に覚書に署名したばかりですが、早くも暗雲が垂れ込めています。そこで今朝は、合意後もくすぶる「火種」について神庭さんに解説してもらいます。まずは、覚書の内容から教えて下さい。
神庭さん:全部で14項目ありますが、特に重要な箇所をかいつまんで紹介したいです。日経新聞によると、アメリカとイラン、同盟国は、レバノンを含む全ての戦線における軍事行動の即時かつ恒久的な終結を宣言する。アメリカとイランは60日以内に交渉を進めて最終合意を達成することに全力を尽くす。イランはペルシャ湾とオマーン湾の間(ホルムズ海峡)に限り、60日間は無料で商船の安全な航行に最善の努力を尽くす。アメリカは地域のパートナーと協力し、イランの復興および経済開発に向けて少なくとも3000億ドル(48兆円)規模の確実で相互に合意された計画を策定する。イランは核兵器を調達または開発しないことを再確認する。濃縮された核物質については、IAEAの監視下で現地で希釈することを最低限の手順とする。アメリカはこの覚書の履行に伴い、イランの凍結または制限されている資金や資産を完全に利用可能な状態にすることを約束する、といった内容が書かれています。
ユージ:注目ポイントは何でしょうか?
神庭さん:「レバノンを含む」全ての戦線で軍事行動を止めるとありますが、イスラエルは覚書の締結後もレバノンのヒズボラへの攻撃を続行しました。イラン側は覚書違反だと非難し、6月19日にスイスで予定されていたアメリカとイランの協議も延期になるなど、早くも交渉の行方が危ぶまれています。AFPによれば、アメリカのバンス副大統領はイスラエルに対して「目を覚まして現実を直視せよ」と強い言葉で釘を刺したが、依然としてイスラエルの存在が大きなリスクになっているという状況です。
吉田:覚書で懸念される点はどちらですか?
神庭さん:ホルムズ海峡の通航は「60日間無料」ということですが、その後はどうなるかは分かっていないです。イランは通航料ではなく「サービス料」を徴収する方針だと言われていて、覚書にもちゃっかり「サービス」という言葉が盛り込まれています。一体どんなサービスでもてなしてくれるのか分からないですが、実際にはみかじめ料のようなものなんじゃないかなと思います。日本テレビの富田徹国際部長は、過去に一部船舶がイラン側に通航料を支払って通過を許可された際の金額が目安になると指摘。「原油1バレルあたり約1ドル。大型タンカーなら、1隻あたり約3億円になる」と話しています。ガソリン価格全体からすると1〜2%の影響ですが、日本企業にとっても負担増となることは間違いないです。
ユージ:その他に日本への影響が心配される部分はありますか?
神庭さん:イランの復興や経済開発に使われるという48兆円を一体、誰がどんな形で用立てるのか。覚書には「アメリカが地域のパートナーと協力して」とあるりますが、トランプ政権は自分たちはお金を出さず、湾岸諸国に出させるようなことを言っています。万が一、請求書が日本に回ってきたりしたら最悪です。「地域のパートナー」という言葉を額面通りに受け取るなら、日本は含まれないはず。ただ、ロイター通信は関係筋の話としてこう報じています。《政府の資金や補助金を含まない純粋な民間投資基金になる。米国の他、湾岸アラブ諸国、アジア、南米、アフリカなどの企業が投資を確約。アジアでは日本、韓国、シンガポール、マレーシアの企業が確約した》本当に「投資」でリターンも期待できるならいいですが、 日本は関税交渉でも90兆円の対米投資を約束させられたばかりです。民間資金とはいえ、さらにカツアゲをされたらたまらないです。
ユージ:これから和平交渉が進んでいくが、どんな火種が残されていますか?
神庭さん:アメリカのプレゼンス低下による外交・安全保障のバランスの変化が心配です。今回の覚書は、アメリカにとって事実上の敗北に等しいです。アメリカ国内でも批判が殺到していて、AFP=時事によれば、トランプ政権寄りのFOXニュースですら「イラン側に『巨額の経済的利益』を与えただけだ」と批判しました。他のメディアでも「トランプ氏はイラン人に手玉に取られた」といった厳しい声が相次いでいます。日経新聞によると、アメリカはこの戦争でトマホークミサイルの3分の1を失い、在庫の回復には4年かかるということです。力の空白が生じることで、中国やロシアが勢いを増し、日本の周辺環境が悪化する恐れもあります。日本はアメリカとの同盟関係をしっかり維持しつつ、一蓮托生ではなく「自分の国は自分で守る」という体制を強化していく必要があります。桑田佳祐さんが2002年に出した『ROCK AND ROLL HERO』という曲に《援助金(かね)を出しても口出せぬ弱気な態度は世界No.1》という痛烈な歌詞がありますが、くれぐれも今の日本にはそういう風にはなってほしくないな、と強く思います。