26.06.23
日本でも広がる?転職しない『ビッグステイ』とは?

ネットニュースの内側にいるプロフェッショナルがニュースを読み解きます。
ダイヤモンド・ライフ編集長の神庭亮介さんにお話を伺います。
神庭さんに取り上げていただく話題はこちら!
『日本でも広がる?転職しない「ビッグステイ」とは?』
吉田:転職せずに今の職場にとどまり続ける『ビッグステイ』という言葉が注目を集めています。元々はアメリカで生まれた言葉ですが日本でも転職控えは広がるのでしょうか。神庭さんに解説してもらいます。
ユージ:改めて、『ビッグステイ』について教えて下さい。
神庭さん:転々と職を変えるのではなく、今の職場にとどまってキャリアを積んでいくことです。アメリカの調査機関が2023年に提唱しました。給与アップが転職の目的の一つだと思いますが、今の会社に残ってもそれなりの賃上げが期待できるなら、踏みとどまろうかなという人が多くなりますよね。日経新聞によると、アメリカのアトランタ連銀のデータで、3月の賃金上昇率は転職者が4.4%、継続勤務者が3.8%で0.6ポイント差でした。これが3〜4年前には約2ポイントの差がありましたが、転職で得られる賃金の伸びが鈍化しているということなんですね。
吉田:アメリカでビッグステイが広がった背景には何があるんですか?
神庭さん:少し時間を巻き戻すと、コロナ禍でリモートワークが普及して人生を改めて見つめ直す人が増えた結果、アメリカは1カ月に400万人以上が仕事を辞める『大退職時代』に突入しました。その後に広がったのが『静かな退職』で、実際に会社は辞めないんだけど、「必要最小限の仕事しかしません」、「残業もしないし、出世レースなんて興味ないです」という消極的なスタイルですね。
ユージ:たしかに『静かな退職』、ありましたね。
神庭さん:ところがここにきて、Google、Amazon、Microsoftなど大手IT企業が軒並み大規模レイオフに乗り出し、風向きが変わってきました。転職市場が冷え込んで求人が減ると、「今辞めても次がないかもしれない。怖いし今の会社にとどまって様子を見よう」となります。『大退職時代』から『静かな退職』を経て、『ビッグステイ』へということで、それぞれ別々の流行語と考えるよりは、この間の目まぐるしい雇用環境の変化を表す、ひとつながりの現象と捉えられると思います。
吉田:そんなビッグステイ、日本でも定着するんでしょうか?
神庭さん:マイナビが企業の採用担当者に「日本にもビッグステイが到来するか?」と聞いたところ、84.8%が「来ると思う」と回答し、「3年以内に来ると思う」が52%を占めました。理由としては「日本独自の雇用慣行・人手不足・働き方改革が主因になり得る」、「同じ会社に長く勤めたほうが退職金も含めて多く稼げるから」、「企業が離職率を下げる目的で、社員に対し給与を上げていく可能性がある」といった回答が寄せられたということなんですよね。
ユージ:でも、日本は人手不足だったり、新卒も転職する際には売り手市場とよく耳にしますよね?
神庭さん:そうなんですよね。ずっと売り手市場と言われてきましたが、ただここへきて変化の兆しも見えてきていまして、マイナビの調査では、新卒採用の予定数を「増やす」と答えた企業は、2025年卒が32%、26年が29.4%、27年が23%と右肩下がりで落ちているんですね。
ユージ:すごいペースで落ちていますね…。
神庭さん:産経や日経によると、クボタ、パナソニックホールディングス、ダイキン工業、ENEOS、JR東海、九州電力などが採用を絞る方向だということなんですね。すべての企業に当てはまるわけではないですが、背景の一つに『ギュられる』というキーワードがあるのではないかとみています。
ユージ:『ギュられる』?どういうことですか??
神庭さん:ネットスラングで、「AIに取って代わられてしまうこと」を意味します。AIが人間の知能を超えることを技術的特異点、「シンギュラリティー」と言います。そこから転じて、AIに仕事を奪われることを「ギュられる」というようになったということです。
ユージ:そこの「ギュ」ね!結構、ギュられてる職種多くなってきてますよね?
神庭さん:だんだん増えてきてますよね。ミュトスのようなAIの進化を目の当たりにすると、ホワイトカラーの仕事の中でも、リサーチや資料作成といった、従来なら若手が任されていたような業務は数年以内にギュられてなくなっちゃう可能性も出てきます。そうすると、いつギュられてもおかしくないという恐怖が高まってきて、それなら転職するより今の会社にしがみつこう、ビッグステイしておこうという風潮が広がっていく可能性はあるのかなと思いますね。
吉田:ビッグステイ、神庭さんはどう見ていますか?
神庭さん:日本はアメリカに比べて雇用の流動性が低いですし、そもそもがビッグステイ型社会だったわけですよね。だから、アメリカで大退職時代からビッグステイへの揺り戻しが起きているのは理解できますが、日本ではむしろ、もう少しショートステイに寄せて、転職市場を活発化させたほうがいいのではないかなという気がします。もう一つ気になる動きとして、今年の春の国家公務員総合職(キャリア官僚)の試験の合格者を見ると、東大は291人と前年の春から120人も増えたんですね。日経によると、5年ぶりの増加だということです。霞が関の働き方がブラックだと何年か前から言われ、東大生が離れ、そのあと、コンサルが人気の就職先になったのがこの何年かの話だったんですけれど、ここへきてコンサルもAIにギュられるんじゃないか?と不安を抱く人が出てきていると…。安全志向の高まりなのか、東大生のキャリア官僚への回帰が起こっているようなんですよね。公務員はある意味、究極のビッグステイなわけじゃないですか。賢い人たちが国の舵取りを担ってくれるのは心強いですが、個人的にちょっと気になることもあります。学習院大の宮川努教授は「東大で人気の職業は10年か20年のうちに没落産業になる」と言っているんですね…。ってことは、じゃあ国家公務員が人気になるとどうなってしまうのか?ちょっと怖さもありますよね。