25.04.29
石破総理が公立高校の「単願制」の見直しを指示。その背景について

ネットニュースの内側にいるプロフェッショナルがニュースを読み解きます。
コメンテーター引き続き、ダイヤモンド・ライフ編集長の神庭亮介さんです。
今朝、取り上げるテーマはこちら!
「石破総理が公立高校の「単願制」の見直しを指示。その背景について」
吉田:石破総理は先週、高校入試で1つの公立高校しか受験できない「単願制」の見直しを検討するよう関係省庁に指示しました。神庭さん、どうして単願制を見直すことになったのでしょうか?
神庭さん:ほとんどの都道府県では、公立高校を受験する際、1つの学校しか受験できないです。高校受験で浪人するケースは非常に少ないので、公立が第一志望の場合、もしダメだったら私立に進むしかないです。そうすると、私立に行かせる余裕のない貧困家庭の子どもの場合、高校受験が事実上の一発勝負になります。失敗できないので自分の実力値よりも1レベルか2レベル下げて、安全校を受けざる得なかったです。それは問題だから是正した方がいいという声は前々から根強くありました。加えて今後、私立高校も含めて所得制限なしで授業料が無償化されることも影響しています。番組でも何度か問題提起しましたが、特に都市部で「どうせなら私立に行かせようかな」という親が増えて公立が弱体化してしまうことが懸念されていました。今回の見直しには、無償化による公立の地盤沈下を防ぐという狙いもあるとみられます。
ユージ:具体的にどんな風に見直される予定なんですか?
神庭さん:「DA方式」(受入保留アルゴリズム)という仕組みを活用した、デジタル併願制が検討されています。たとえば、生徒が第一志望から第五志望まで志望順位を提出します。試験の結果、第一志望に落ちたとしても、第二志望の合格点を上回っていれば、そこですくいあげてもらえます。細かな制度設計はこれからですが、合格点を超えた学校の中で、もっとも志望順位の高い学校に進学するといった形が想定されている。
ユージ:なるほど。何となく納得感はありますね?
神庭さん:そうですね。デジタル行財政改革会議に提出された東京大学大学院経済学研究科の野田俊也さんの資料によると、同じような仕組みはアメリカやイギリス、オランダなどで採用されているそうです。ニューヨーク市では、以前は期限までに合格をもらえない生徒が3割いたのが、2003年にDA方式を導入したところ、3%まで減少したということです。
吉田:多くの国で採用されているということは、それなりにメリットがあると思いますが、いかがでしょうか?
神庭さん:一番のメリットは、生徒が自分の心に正直に受けたい学校を受けられることです。「落ちたらどうしよう」「少しレベル下げた方がいいかな?」とか無用な心配をせず、目一杯チャレンジして受験できます。特に女子はリスクを回避して安全校を選びがちな傾向があると言われています。併願制ならそういった目に見えないジェンダーギャップもなくすことができます。加えて、受験生の学力層と学校の水準が適切にマッチングされるので、公平感もあります。また、全てオンラインで完結するので、紙での願書提出や合格通知などのやり取りが減って、学校側の手続き負担が軽減されることも期待できます。
吉田:一方でデメリットはありますか?
神庭さん:強いて言えば、公立高校の中で序列化が進み、競争が過熱することはあり得る。とはいえ、これまでも偏差値などの比較はあったわけで、今に始まった話ではないです。あとは一部の受験生にとって不利になるケースも考えられます。
ユージ:それはどういった受験生なのでしょうか?
神庭さん:併願制では成績の良い生徒から上位校に挑戦して、不合格になったら次善の学校に順繰りに収まって、玉突きになってしまいます。結果として、従来なら合格できていた学力層の生徒が押し出されて不合格になる可能性もあります。成績下位の生徒にとっては厳しい戦いになるかもしれないということと、なかには第一志望の子が少ない学校で「この学校、みんな第二志望の子ばっかりだね」みたいな学校になってしまう可能性もあります。なので第一志望に加点することもありだと思います。とはいえ、あくまでも実力順・成績順で決める以上、そこはやむを得ないのかなと思います。むしろ、定員割れの公立高校も増えているなかで、学力がそこまで高くなくても「最終的にどこかしら公立校に通えるだろう」という見通しが立つのは安心材料ではないかと思います。
吉田:併願制が全国一律に採用された場合、都市部と地方で効果に違いが出そうですが、いかがでしょうか?
神庭さん:それは当然あると思います。東京圏や関西圏など都市部では私立志向が強いですが、日本の大半のエリアでは公立志向が強く、ダメなら滑り止めの私立に行こうという考え方です。特に過疎地域で通える高校の数がもともと少ない場合、併願制の恩恵は限定的かもしれないです。それでも、せっかく併願できるのだから、その地方の中核都市や県庁所在地にある公立のナンバースクール、優秀な高校もついでに受けてみよう、と考える生徒は出てくると思います。
ユージ:今回の単願制の見直しについて、神庭さんはどう考えますか?
神庭さん:これはやっぱり、多くの生徒・保護者が待ち望んできたことで、とてもいい政策です。普段、厳しいことも言っていますが、今回は決断した石破さんに大きな拍手を送りたいです。私立無償化で、都市部の公立は軒並み倍率を落としていて、このままいくとますます空洞化が進みかねないピンチでした。併願制という追い風が得られれば、私立とも少しは渡り合えるようになりますし、そこは良いと思います。ただ、これだけではまだ不十分です。私立と比較して公立が選んでもらえるようにするためには、評判の悪い内申制度の比重を落とすとか、受験日を早めて受けやすくするとか、より一層、色々な改革が必要です。高校だけでなく、中高一貫の国公立の学校に関しても、そういった所でも、同様の併願システムを取り入れることで、受験の公平性を高めていくことが大切だと思います。
そして、今日の #ユジコメ はこちら。
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