26.06.09
食料品消費税の引き下げ案、どうしてゼロではなく、1%なのか?

ネットニュースの内側にいるプロフェッショナルがニュースを読み解きます。
コメンテーターはダイヤモンド・ライフ編集長の神庭亮介さんです。
今朝、取り上げるテーマはこちら!
【食料品消費税の引き下げ案、どうしてゼロではなく、1%なのか?】
吉田:食料品にかかる消費税について、政府与党は来年4月に現在の8%から1%へ引き下げることを検討しています。高市総理は2月の衆院選で、食料品消費税0%を「私自身の悲願」として公約に掲げましたが、ここへきて1%案が浮上してきたのはなぜなのか、神庭さんに解説してもらいます。
ユージ:消費税0%ではなく1%が有力視されている背景には何があるんでしょうか?
神庭さん:確かに高市さんは当初、食料品の消費税率を2年限定で0%に下げることが悲願だと述べていました。ところが、そこにレジの問題が立ちはだかったわけです。石破さんの時代から延々と言われてきたことではあるんですけれど、レジシステムの切り替えにどうしても時間がかかります。0%にすると最大10カ月から1年ほどかかりますが、1%なら5〜6カ月ほどで済むということです。それなら何とか来年4月のスタートに間に合うので、スピード優先で1%でどうでしょうか、という案が急浮上したというわけです。消費減税自体が、数年単位の時間がかかる給付付き税額控除が実現するまでの「つなぎ」という本来の位置づけだったので、つなぎに時間をかけていられないよという事情もあるのかもしれません。
吉田:どうして0%か1%かで半年近くも変わってくるのでしょうか?
神庭さん:総務省の資料によると、0だと割り算ができず、そもそも0の入力すらできないシステムが存在するそうです。消費税0%と「非課税」というのは税務上区別する必要があるんですけれど、その区別ができないシステムもあるそうなんですね。これを改修するためには、数万ページある設計書の中から0を入力する必要がある項目を全部洗い出して、コスト面を含め顧客である小売業者と細かく擦り合わせをしないといけない。さらに0を入れておかしなことにならないか、数万規模のテストをする必要もあるということなんで、そんなこんなで10カ月、1年かかってしまうということらしいですね。
ユージ:意外と大変なんですね。改めて、消費減税のメリットは、何なんでしょうか?
神庭さん:一番は分かりやすさかなと思います。給付付き税額控除とか、何万円の壁の廃止とかに比べると、日々の買い物でかかる消費税が安くなるというのは目に見えて効果が実感できますから、圧倒的にわかりやすいですよね。4月の消費者物価指数は前年同月比で1.4%上昇しました。これだけ聞くと大したことがないように思えるかもしれないですけれど、生鮮食品を除く食料品は4.1%上がっています。食品は毎日のように買う分だけ、体感物価、体感インフレの度合いが強いです。支出に占める食費の割合を示すエンゲル係数も昨年、2人以上の世帯で28.6%を記録しました。この数字は1981年以来、44年ぶりの高水準なんですね。
ユージ:改めて数字で言われると、すごく上がってますね。
神庭さん:家計の3割近くが食費に持っていかれるということだから、かなり痛いですよね。こういった状況下では、食料品の消費税が下がることをありがたい、と感じる人も多いでしょう。実際、日本経済新聞の5月末の世論調査でも、食料品の消費税を「1%にすべきだ」という人が36%で最も多く、「ゼロにすべきだ」(28%)や「減税は必要ない」(32%)を上回りました。『別にゼロでなくてもいいから、さっさと下げてくれ!』という心の声が聞こえてくるようですよね。
吉田:一方、消費減税のデメリットは何がありますか?
神庭さん:財政の悪化です。食料品の消費税を0%にすると約5兆円、1%でも約4.4兆円の税収に穴があきます。その分の財源を見つけてこないといけません。高市さんは赤字国債に頼らないと主張していますが、果たしてどうなるか、というところだと思います。先月には長期金利が29年ぶりに2.8%まで上昇し、30年物国債の利回りも一時4.2%と過去最高水準をつけました。市場は遠慮も忖度もしてくれないので「無責任なバラマキ」とみなせば、容赦なく国債を売り浴びせてきます。円安・株安・債券安のトリプル安になったら最悪ですよね。地方消費税も引き下げられるので、自治体の減収分をどう手当てするかも課題になりそうです。もう1つは外食産業への影響です。外食は10%でテイクアウトやお弁当は1%となれば、お客は当然、割安な方に流れます。政府は外食業界への補助を検討していますが、そうするとさらに出費が膨らむことになりますよね。
吉田:消費減税案、神庭さんはどうとらえていますか?
神庭さん:私は「味が薄いソバ」のようだなと思いました。
ユージ:どういうことですか?
神庭さん:そもそも消費減税は給付付き税額控除が実現するまでの「つなぎ」という話でした。ところが、今はつなぎの話ばかりになっています。ソバ粉にあたる給付付き税額控除の方も、『控除は後にしてまずは給付だ!』とおかしな方向性になりつつあります。これではただのバラマキになっちゃいますよね。給付か消費減税か、せめてどちらかにすべきじゃないかなと思います。2028年には参院選もあるのに、本当に2年で税率を戻せるのか疑問を感じるところです。あとは現役世代の負担軽減を考えるなら、社会保険料の引き下げの方が消費減税よりずっと優先度が高いです。消費税はある意味平等で、フローの所得が少ない高齢者にも、しっかり負担していただけます。消費税を下げることで、そのツケが社会保険料アップに跳ね返ってきて、かえって現役世代が苦しくならないか。あるいは世代間格差がもっと広がるというようなことにならないのか心配しています。