26.07.16
ネットの意見を収集・分析する『ソーシャルリスニング』の可能性

ネットニュースの内側にいるプロフェッショナルがニュースを読み解きます。
コメンテーターは情報社会学がご専門の、学習院大学・非常勤講師 塚越健司さんです。
塚越さんに取り上げていただく話題はこちら!
「ネットの意見を収集・分析する『ソーシャルリスニング』の可能性」
吉田:政府がSNSなどネット上で発信される意見を収集・分析する「ソーシャルリスニング」を導入し、政策に反映しようとしています。
ユージ:塚越さん、まず「ソーシャルリスニング」について教えてください。
塚越さん:あまり聞いたことのない言葉ですよね。この「ソーシャルリスニング」は、SNSやブログなどに投稿された言葉を大量に集めて、そこで何が話題になっているのか、どんな不満や要望があるのかを分析する手法です。これまでは主に企業がマーケティングに使ってきました。例えば新商品について「値段が高い」「ここを改善してほしい」といった投稿を分析して、商品の改良や広告戦略に生かします。要するにアンケート等とは違う自発的な声を探る技術なのですが、ネットの声が必ずしも本音というわけではないので、そこは注意が必要かなと思いますね。
ユージ:政府は今回「ソーシャルリスニング」をどう使おうとしていますか?
塚越さん:このソーシャルリスニングで、政府は就職氷河期世代が抱えている不安や不満、支援へのニーズを継続的に調べる方針です。氷河期世代の方は、おおむね今の40代前半〜50代前半の方になります。方法としては民間企業に分析を委託して、SNSやブログなどの投稿から、仕事や介護、住まい、資産形成などについて、どんな不満や要望が出ているのかを調べます。主に投稿の内容や公開されているプロフィールから、年齢や性別などを大まかに推定します。結果を定期的に分析して、政府でもいろいろ話し合っていくことになっていますね。
吉田:なぜ、就職氷河期世代にこの方法を使うのでしょうか?
塚越さん:氷河期世代の方々が抱える課題が非常に複雑なんですよね。日経新聞によると、現在も不本意な形で非正規雇用で働く方は、2025年時点で33万人もいます。この世代のうち、就労も家事も通学もしていない「無業者」は、2025年で46万人と最近も増加しています。さらに、この世代は就職や収入だけでなく親の介護もあるし、ご自身も高齢期が視野に入る年代なので、老後の資産形成も考える必要があります。人生はもともと人それぞれですが、特に経済不況の影響を非常に強く受けた世代であり、置かれた状況がかなり異なるため、ソーシャルリスニングを取り入れるということです。
ユージ:これまでのアンケートやパブリックコメントではダメなんですか?
塚越さん:ダメではありませんが、限界があります。政府は大規模なアンケートも行いましたが、設定した質問への回答だけでは多様なニーズが掴みづらい部分があります。またパブリックコメントも重要ですが、制度を知っていたり、自分から書こうという意欲のある人に参加者が偏りやすい部分があります。あとは、行政に意見を伝えにくい人や、自分で問題があるっていうことを認識していない方もいらっしゃるので、そういった声がなかなか拾いにくいのです。なので、政府が想定していなかった不満を見つけることが、今回のソーシャルリスニングの最大の目的、利点かなと思いますね。
吉田:海外での「ソーシャルリスニング」の導入例はどうでしょうか?
塚越さん:イギリスでは行政機関がXやFacebookを分析していて、閣僚や政策の信頼度や、市民が関心を持つ政策分野等を調べています。またドイツではコロナ禍で情報を分析して、偽情報への対応をどの段階で行うか判断する材料にしました。さらに台湾では2015年、配車サービスの「Uber」の導入をめぐって、賛成派と反対派がオンラインで対話をして、共有できる合意点を可視化しました。これは他国のようにSNSを観察するというよりは、積極的に対話をしてもらうということで、少し方法は異なります。こうした方法、最近は「ブロードリスニング」とも呼ばれていますね。
ユージ:塚越さんは、政府の「ソーシャルリスニング」の活用、どう見ますか?
塚越さん:うまく使えれば、災害時だったり通常の政策でも色々な声が見える利点があると思いますが、課題もありまして、広告や炎上目的の発言、さらに組織的な投稿で世論を動かそうとするものを排除できるのかという点です。多様な意見の中からこうしたノイズを弾き、いかに本当の声を拾えるか、難しいですよね。もう一つ重要なのが、どのような基準で分析したのかという「方法の透明性」です。どのようなワードでどう分類したのかがわからないところで、政府にとって都合よく「これが国民の声です」と扱われても困ります。そちらの方にも目配りをして、必要に応じて第三者機関がチェックすることも必要になります。あとはこの手法が従来の世論調査の代わりではなく、既存の調査と組み合わせることで、これまで見落とされていた課題を発見することに重きを置いて、必要に応じて追加のインタビューを行うなど、複数の手法を組み合わせていくことが重要だと思います。台湾のように意見の違いだけでなく、異なる立場の人々の意見まで可視化できるようになると、国民との対話のいい機会になると思います。課題もありますけど、いい利点もあるということは覚えておいてほしいですね。