26.07.20
クロマグロの漁獲枠、拡大できず… 獲れすぎなのになぜ?

ネットニュースの内側にいるプロフェッショナルがニュースを読み解きます。
コメンテーターはダイヤモンド・ライフ編集長、神庭亮介さんです。
けさのテーマはこちら!
クロマグロの漁獲枠、拡大できず… 獲れすぎなのになぜ?
吉田:太平洋クロマグロの国際的な資源管理を話し合う国際会議が先週まで、長崎市で開かれました。日本はクロマグロの資源量が回復したとして漁獲枠の拡大を求めてきましたが、合意を得ることができませんでした。海の日の今日は「黒いダイヤ」とも言われるクロマグロのニュースについて、神庭さんに解説してもらいます。
ユージ:まずは、長崎の国際会議ではどんなことが話し合われたのか教えてください。
神庭さん:クロマグロなどの漁業資源をどう守るか、ということですね。長崎では8日から14日にかけて「中西部太平洋まぐろ類委員会」北小委員会や「米州熱帯まぐろ類委員会」の会合が開かれまして、日本、アメリカ、韓国、台湾、メキシコなどが参加しました。太平洋クロマグロは日本近海で生まれた後、太平洋を横断してメキシコや米国沖まで回遊します。国境をまたいで移動するので、一国だけでは管理できません。関係国が「他の国に獲られるくらいなら、自分たちが先に獲ろう」と我先にクロマグロを獲り始めると、あっという間に資源は枯渇してしまいます。経済学でいうところの「共有地の悲劇」というやつです。そうならないように、各国で漁獲枠を決めて、資源量がどれくらい回復しているかモニタリングする必要があるんですね。
吉田:その会議で、日本は何を主張したんでしょうか?
神庭さん:日本を含む太平洋の西側海域の来年以降の漁獲枠について、30キロ以上の大型魚の漁獲枠を25%増やし、30キロ未満の小型魚は6%減らすことを提案しました。途中までは、日本の提案でまとまりそうな雰囲気だったんですが、土壇場で東側海域のメキシコが反対に回り、交渉が決裂してしまいました。産経新聞によると、メキシコは最終日に「本国から強い指示があった」として態度を硬化させたということなんですね。鈴木農林水産大臣は記者会見で「メキシコの不誠実な交渉態度は、合意に向けた関係国・地域の真摯な交渉努力を無にするものであり、極めて遺憾だ。漁業者の皆様のお気持ちを考えると、大変残念」と強い言葉でメキシコへの不満を訴えました。
ユージ:メキシコはなぜ急に反対してきたんですか?
神庭さん:日本側からしたら、なんで突然豹変したの?と疑問しかないかなと思うんですけど。実際、日本のメディアの論調も大体そんな感じなんですが、メキシコにはメキシコの理屈があるのかなと思います。大型魚の漁獲枠を25%増やすというのは、日本を含む西側海域の話であって、東側のメキシコにとってはメリットが薄いんですよね。朝日新聞によれば、全体の漁獲バランスを西側8:東側2とする前提で議論が進んでいたということなので、メキシコからすると「俺たちの取り分ももっと増やしてくれよ」という不満があったのではないでしょうか。メキシコは若いマグロを獲ってきて生簀で肥育して、日本などに輸出してきました。日本はライバルであり、取引先でもあります。日本の漁獲量が増えた場合に、メキシコ産マグロの販売価格や需要に影響する可能性もゼロではないですね。
ユージ:日本ではマグロが獲れすぎているというニュースも聞いたことがあるのですが、実際どうなんですか?
神庭さん:獲れすぎなくらい獲れているのは事実なんです。日経新聞によると、クロマグロが大型化しているために、漁獲枠の上限にすぐ近づいてしまうと。そうするとマグロを網から逃してあげないといけないが、その際にブリやフグなどの魚も放流することになり、漁業経営に影響が出ているそうなんですね。日経は「マグロが網に入るおかげで収入が落ちる」「これほどマグロがとれてしまうと、もはや厄介者だ」という漁業者の声を紹介しています。鈴木大臣が「漁業者の皆様のお気持ちも考えると、大変残念」と言っていたのは、こういう背景があるからなんですね。
ユージ:クロマグロ問題、神庭さんはどう考えますか?
神庭さん:問題を2つに切り分ける必要があるかなと思います。1つ目は科学的エビデンス。アメリカ海洋大気庁の資料によると太平洋クロマグロは乱獲によって減少して、2009~2012年頃には、漁業が行われなかった場合の推定資源量の約2%まで落ち込んでしまいました。その後、各国が頑張って漁獲量を制限した結果、2022年には23.2%まで回復したんですね。目標は2034年までに20%まで回復させることだったので、10年以上も前倒しで目標を達成できたということになります。マグロが増えているのだから、漁獲枠を増やそうという日本側の主張には科学的な根拠があるんです。今回、問題になっているのはエビデンスではない2つ目の問題なんですね。
ユージ:2つ目の問題とはなんでしょうか?
神庭さん:メキシコが自分たちの枠も増やせと訴えてくるのは、経済の論理であり、国際政治の話なわけですよ。科学的なエビデンスだけでは何ともしようがないんですね。クロマグロは太平洋全体でひとつの資源です。太平洋の西側と東側に分かれて争うのはナンセンスだと思うんですよね。すべての関係国が納得できるような、公平性の高い漁獲枠の配分ルールを考えないといけません。日本はクロマグロの世界最大の消費国でもありますから、持続可能な漁業資源を守っていく大きな責任を負っているわけですよね。関係国の利害調整に粘り強くあたりつつ、もし我田引水的な要求をしてくるような国があれば、他の国と連携して諫めていく必要があるのかなと思います。