26.08.20
国が成長する産業を選べるのか?日本成長戦略について

ネットニュースの内側にいるプロフェッショナルがニュースを読み解きます。
コメンテーターは情報社会学がご専門の、学習院大学・非常勤講師 塚越健司さんです。
塚越さんに取り上げていただく話題はこちら
「国が成長する産業を選べるのか?日本成長戦略について」
吉田:政府は、7月に「日本成長戦略」として、半導体、AI、データセンター、医療、宇宙、防災、コンテンツなど、17の分野、62の製品や技術に、2040年度までで官民あわせて、370兆円を超える投資を見込む計画を打ち出しました。
ユージ:早速ですが、国は、なぜ今、成長する産業を選ぶのでしょうか?
塚越さん:まず前提として、昨今は米中の対立やサプライチェーン(供給網)が戦争や紛争で分断されるなど、経済安全保障の観点から様々なリスクがあります。さらに半導体やAI、医薬品を海外に依存すると、有事の際に供給が止まる可能性もあります。海外でも国内産業の育成を重視しており、政府の支援も注目されています。例えばお隣の韓国では6月の終わりに、メモリー半導体分野でリードしているサムスン電子とSKハイニックスの2社が、新しい工場建設にあわせて80兆円を超える巨額の投資計画を発表したのですが、ここには韓国政府も関わっています。投資自体は企業が行いますが、政府は電力や用水といったインフラ整備や、税制面で支えるもので、まさに官民一体となった産業政策が注目されているんですね。日本では、特に今の高市政権は責任ある積極財政を掲げているように、経済成長のための投資を考えています。また、日本には人材不足や生産性の低さといった課題もありますので、ここを解決するためにも政府支援が必要とされています。
ユージ:特に重要なのは、やはり半導体やAIの分野だと思いますが、どうでしょう?
塚越さん:やはり世界が注目している分野となると、半導体とAIが大きいですよね。今回、「日本成長戦略」ということで掲げた「官民投資ロードマップ」という、324ページもある資料も公開されているのですが、そこから一例を挙げると、半導体は2040年度までに68兆円、クラウド・データセンターと蓄電池は2035年度までに32.7兆円、AI・ロボットといった、いわゆる「フィジカルAI」は2040年度までに10.5兆円、ゲームは2033年度までに24.5兆円などがあります。これらは期間や計算方法も違うので、単純に金額だけで比べられるものではありませんが、官民の投資額をあわせて370兆円と巨額です。ただし、これは政府予算として確保されたものではなく、民間の投資予定や市場の予測を含んだ想定額なので、あくまでも現状では目標という感じなんですね。
吉田:投資を促す政府は、どんな役割を担うのでしょうか?
塚越さん:新しい分野の開拓ということもありますので、公共調達というものが重視されています。これは、最初は国や自治体が顧客になるということです。そこで実績をつくって、民間や海外に広げていくので、国が最初のスタートダッシュの手助けをするという感じですね。
ユージ:経済成長が停滞した、「失われた30年」という言葉もありますが、実際に成長する産業を選んで、どういった方向性で成長させるのか、これが難しいことだと思いますが、いかがでしょうか?
塚越さん:今回は重点分野が17、対象が62項目と、さすがに多いですよね。「選択と集中」ができているのかということはありますよね。370兆円は巨額ですが、先ほど話したように推計を含んだ額です。また政府調達も大事なんですけれども、気をつけなければ競争力のない企業を延命することになってしまいます。最初から段階ごとの目標や検証時期を決めて、成果が出なければ制度の修正や、必要なら支援を終了するという仕組みも必要になってくるかなと思いますね。
ユージ:この「日本成長戦略」で、国民全体への還元はどうするのでしょうか?
塚越さん:一部の企業が成功して、そこの利益や株価が上がるだけになってしまわないように、ある分野の成功が他の企業や地方にも回り、賃金や国内の再投資に回る必要があります。国が関与することなので、そのあたりのロードマップもきちんと作って、民間に丸投げにならないようにすることが必要と思います。一方で、そのように厳しく見ることも必要ですけれども、厳しすぎると「じゃあ挑戦するのはやめよう」っていうふうに起業家や企業が思ってしまうのも、それはそれで問題ですよね。だから矛盾するようですけれども、新しい分野って失敗もある程度前提になってきたりとか、失敗することも含めたうえで、それでも挑戦するっていう気持ちがある人たちに、ある種賭けるというか。そういう部分も必要と思うんですよね。新しいことをやっていきましょう、いま乗っている産業で頑張っていきましょう、という人たちを支援するっていう態度。そういったところは、国がこれだけ巨額なことをやるって決めたんですから、そこは伝える。だから頑張る気持ちもある。その代わり、どのくらい成功したのかはある程度見ていって、必要だったら国とかそういったところは助言をして伸びるところを伸ばして、本当の意味で国民に還元でき、国全体を強くしていくことに貢献する。情熱と冷静さを掛け合わせた気持ちを持っていただきたいと思いますね。