26.09.03
残業「月45時間以内」9月から一律指導緩和

ネットニュースの内側にいるプロフェッショナルがニュースを読み解きます。
コメンテーターは情報社会学がご専門の、学習院大学・非常勤講師 塚越健司さんです。
塚越さんに取り上げていただく話題はこちら
「残業『月45時間以内』9月から一律指導緩和」
吉田:厚生労働省は9月から、労働基準監督署による残業削減の一律指導を緩めています。
ユージ:塚越さん、まず、基本となる残業時間のルールについて教えてください。
塚越さん:労働基準法では、労働時間の上限は1日8時間、週40時間となっています。ただし、時間外労働に関する労使協定、いわゆる「36協定」を結ぶと、月45時間、年360時間まで残業できます。さらに、事前には予測できないレベルで業務が増えて、労働時間を増やす必要がある場合は、特別条項をつけることで、様々な条件はありますが、時間外労働と休日労働の合計が月100時間未満で、時間外労働は年720時間まで拡大することができます。一方、労働基準監督署、つまり労基署はこれまで、特別条項の範囲内で適法に行われている残業でも、時間数に着目して、月45時間以内に減らすよう一律に指導してきました。ところが、労基署は今月からその指導を一律では行わないことになりました。今後は、45時間を超えたという数字だけで判断せずに、労働者の健康が確保されているかなど、職場の実態を踏まえて、必要な指導を行うということです。
吉田:なぜ、一律指導を緩和するのでしょうか?
塚越さん:直接のきっかけは、7月に閣議決定された「日本成長戦略」と「骨太の方針」です。ここで、労使の合意に則った指導が行われるように見直す、といったことが書かれています。その背景には経済界からの、「一律の指導が企業活動の萎縮につながっている」という指摘がありました。日本商工会議所が4月〜5月にかけて実施した調査によりますと、時間外労働の上限規制で業務に制約が生じていると回答した企業は大体2割ぐらいでした。業種別にみると、運輸業では35.7%と一番高くて、建設業や宿泊・飲食業が続いています。人手不足が深刻な業界ほど規制緩和の声があがっているといえますね。政府に求める対応としては、変形労働時間制やフレックスタイム制など、いわゆる柔軟な労働時間制度を求めるものが7割程度と最多で、その次が労基署の監督指導のあり方の見直しでした。簡単にまとめると、企業としては、少なくとも仕事が繁忙期と閑散期で差がある職場などでは、数字で一律に規制するのではなく、現場に合わせた対応をしてほしいということかなと思います。
ユージ:9月からはどうなったのでしょうか?
塚越さん:まず、今回の見直しがあったからといっても、45時間を超えても大丈夫というわけではなく、上限規制そのものは基本的には変わりません。特に、月45時間を超えて働くことを可能にする「特別条項」を設ける場合は、医師による面接指導や深夜勤務の回数制限、勤務間インターバルなど、健康を守るための措置を「36協定」で定めて、実際に行う必要があります。今回は、企業がこうした対策をしているならば、必ずしも残業時間を月45時間までに減らすようには求めないというものです。ただし、健康被害が生じる可能性が高いと判断されれば、引き続き厳しく対応されます。簡単にいえば、労基署の指導の重点が、「45時間」という数字を重視することから、健康確保措置や職場の実態も含めて判断する対応に変わったということです。
ユージ:塚越さんは、残業削減の一律指導の緩和について、どう思いますか?
塚越さん:国の言いたいことはわかる気がするんですよ。もっと実態を見ましょうということがあります。でもやっぱり労働者としては「もっと働かされるんじゃないの」という懸念はあると思います。実際、厚生労働省が2025年に調査したところ、労働時間を増やしたいと回答した人は全体のおよそ1割ほどで、今のままがいいが6割で、減らしたい人が3割です。もっと働きたいと考える人はそんなにいないんですよね。実際に、労働組合、例えば連合(日本労働組合総連合会)の芳野会長は先月の記者会見で「非常に遺憾」と述べ、長時間労働を広げかねないと言っています。一方で、健康管理を重視する姿勢そのものは評価しています。大事なのは違法な状態で働かせている事業所があるのではないか、ということです。2年前の厚生労働省の発表によると、長時間労働が疑われる2万6,000の事業所を調査したところ、その約4割で違法な長時間労働が行われていたということです。このように働かせすぎているところがまだたくさんあるので、しっかりと取り締まることです。また、健康管理も大事です。特に「特別条項」が守られていないところがあるので、引き続きどれだけチェックできるかというところです。でもやっぱり、経営者の方には働かせたいという人もいらっしゃると思います。そうした場合には、最近は、「(36協定や特別条項に関する)専門相談窓口」がありますので、そのようなところに相談してみて、違法になる前にできることをしていただきたいと思います。