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今、知っておくべき注目のトレンドを、ネットメディアを発信する内側の人物、現代の情報のプロフェッショナルたちが日替わりで解説します。

26.09.09

最低賃金の“引き上げ競争”と、その落ち着き

ネットニュースの内側にいるプロフェッショナルがニュースを読み解きます。

情報社会学がご専門の学習院大学 非常勤講師の塚越健司さんにお話を伺います。
塚越さんに取り上げていただく話題はこちら!


『最低賃金の“引き上げ競争”と、その落ち着き』

吉田:2026年度の最低賃金の改定では、全ての地域で引き上げ額が前の年度を下回りました。時事通信によりますと、過熱していた地域間の引き上げ競争には一服感も見られる、ということです。塚越さん、まずは、「2026年度の最低賃金の改定」について、詳しく教えてください。


塚越さん:「最低賃金」というのは、企業などが労働者に支払う賃金の最低ラインのことです。主にパートやアルバイトなど、非正規労働の賃金に直結していますが、最低賃金が上昇すると、それに伴って基本的には労働者全体の賃金向上につながります。この最低賃金の今年度の改定額が、先週木曜に47都道府県で出そろいました。最低賃金は国の審議会が引き上げ額の目安を示し、そのあと、各地域の審議会で議論して決められます。今回、全国平均の時給は今の1,121円から56円上がって、1,177円と5%の引き上げになりました。引き上げ額としては、過去最高だった去年度の66円に次いで2番目となります。ちなみに、改定後の最低賃金で一番高いのは東京都の1,280円、最も低かったのが宮崎県の1,085円でした。いずれにせよ、時給1,000円超えは当たり前になりました。また、国の引き上げ目安額を上回ったのは33府県で、最大の引き上げ額は目安より9円上乗せした佐賀県でした。とはいえ、去年の上乗せ額の最高は熊本県の18円だったので、全体として引き上げ額は抑制的です。また、去年までは5年連続で過去最高の賃金引き上げが起きましたが、今年は引き上げ率自体も去年よりも低かったということです。まあ、それでも上がってはいるわけです。この新しい最低賃金は、地域にもよりますが10月から遅くとも12月には適用されます。


吉田:ここ数年は、地域間の引き上げ競争がありましたが、今回は、この競争が一服したとみられているようですね?


塚越さん:そうなんですね。近年は、時給が低いと隣の県に労働者が行ってしまうことを恐れて、各地で国の目安に上乗せする「賃上げ競争」になっていたのですが、今年は抑えられつつあるということですね。理由は大きく2つあります。
まず1つは、物価上昇率が落ち着いたことです。今回の審議会で参考にした、去年10月から今年6月までの物価上昇率は平均2.1%、食料品に限っては4.3%でした。前の年の同じ期間に比べて、値上がりのペースは落ち着いています。一方で、今年の最低賃金は去年と比べて平均5%アップしているので、物価上昇より賃金の方が上がっているといった感じですよね。もちろん、値上がりのペースが落ち着いても物価そのものが下がったわけではありませんので、生活などいろいろ大変だと思いますけど、やはり物価上昇の落ち着きは要因として挙げられます。2つ目は、政治的プレッシャーが減ったことです。ここが大きなポイントだと思います。去年の最低賃金引き上げ議論がされていたときは、石破政権でした。石破政権は2020年代中に全国平均で1,500円を目指していたこともあり、当時の赤沢経済再生担当大臣が経済団体などに引き上げを働きかけていました。これを受けて、去年は秋田県の鈴木知事をはじめ、賃金の引き上げを期待すると表明した自治体も多くありました。ただ、経営者側の反発を呼んで、議論が長引いたところもありました。ですが今年は、鈴木知事も「静かに見守りたい」と述べています。これがなぜかと言いますと、高市政権に代わりましたよね。高市政権に代わると、全国平均1,500円の時給目標は「2030年代前半のできる限り早期」と、言ったら先送り、トーンダウンしたという背景もあって落ち着いている状況です。


ユージ:最低賃金の引き上げ競争に一服感が見られることに関しては、塚越さんはどうご覧になりましたか?


塚越さん:去年よりは落ち着きましたが、それでも引き上げ額は去年に続いて2番目に高いです。ただ、世界的に見ると、日本は依然として賃金が低いと言われていますよね。なので、底上げという点ではまだまだ課題があります。一方で、特に中小企業の経営者としては、経営の圧迫が課題としてあります。補助金を出して賃上げを後押しする自治体もありますが、これだけだと無理が出てきますよね。やはり、人材不足ということもあるので、賃上げ競争関係なく、企業は引き続き賃上げ対応を求められると思います。労働者としては、賃金が上がってくれるのはうれしいことですが、あまりにも圧迫すると倒産なんていうことにもつながってきますので、なかなかバランスが難しいところですね。企業も大事ですので、国や自治体が補助金を使って、設備投資などを支援するなど、賃金を上げられる条件を作っていく必要があります。中小企業が大企業との取引のときに、取引価格を上げてくださいと、しっかり交渉できるよう取引適正化法に改正されました。今後は、自治体などがそうした支援や制度を整えていくことが課題かなと思います。

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