長年、マタギを追いかけ取材しているカメラマン田中康弘さんが、東北のマタギをはじめ、山とともに生きる人たちから聞き取った、不思議な体験談の数々。
ここまで、風もないのにざわめく謎の竹やぶの話し、キツネやタヌキに化かされる話し、そして人魂の話しなど、怖いけど、ちょっとわくわくするようなお話が色々ありました・・・

しかし今回は恐い話しです。これは田中さんが、石川県・白山連峰の麓で猟師をしている男性から直接聞いたという、本当に不思議なお話しなんです。

◆白山の山小屋
ある猟師の人が若い頃の話です。猟を始める前に山の上で遊歩道を整備したりするバイトをやってたそうなんですが、ある日その仕事をしていると、天気悪くなってきたので、仕事を切り上げて、二人の仲間と避難小屋に入ることにしたそうです。
しかし、入口が凍りついてなかなか開かない。大の男三人で力を合わせてもなかなか開かなかったそうです。凍ってるし、古い建物なので、曲がってるということもあったんでしょう。しかし、入れないと大変ですから、必死になって、なんとかこじ開けたそうです。
それで、やっとのことで中に入り、もちろん扉を閉めて、持ってきた食べ物なんかを食べて落ち着いていたんだそうです。外はすごい雪になっていました。
するとそのうち何か音がした。あれ?って思って聞いてると、ゴウゴウゴウゴウ風がする中で「シャン」っていう音がするんですよ。それがある一定の間隔でシャン シャンって音がする。それが段々段々はっきりと聞こえるようになってきて、近寄ってくるのがわかる。
そのうちに、山伏が持つ杖の上に付いている鈴の音だとわかったそうです。それが段々近づいてきて、小屋の前に来たのがわかった。すると、今度は小屋の周りを回り出しました。その「シャン、シャン」という音は全員聞いてるんですよ。
誰かが、「開かないから困ってるんじゃないか」と言ったそうです。確かに、屈強な山の男三人で開かないわけですから、一人の力で開くはずがないわけです。だから「開けてやったほうがいいんじゃないですかね?」って言ってたけど、今度はそのシャンっていう音が聞こえなくなった。
どこかへ行ってしまったかな?って思ってたら、いきなり今度は天井でドンっていう音がするんです。そして今度は屋根を歩く音がするんですよ、「ミシ ミシ」と。それと同時にシャンっていう音がする。あ、屋根の上を歩いてると。
「さすが山伏だ」なんて言っていたけど、そんなわけはない。これはこの世のものじゃないってみんな思ってるんですが、でもそう思うと怖いから山伏が歩いてると思うわけですよね、必死に。
そのうちそれが止んだから、「あーよかった。どっか行ったのかな。」と思ったら、さっきまでみんなで苦労して開けた戸がですね、ピシューッ!って開くんです。一瞬で!。三人がかりでバールを突っ込まないと開かなかった扉ががシューンて開くんですよ。そして外からブワーッと吹雪が入ってくる。もう誰も目は開けていません。みんな目を瞑って念仏を唱えていた。しばらくそうやって念仏唱えていたら、扉がピシャーンと閉まったそうです。それでもしばらく誰も顔を上げなかったってそうです。
この話はすごく怖いなと思ったんですよ。場所もはっきりわかってるんだけど、それを言うと登山者の人が怖がるからやめてくれって止められてるんです。白山にはたくさん登山者の避難小屋がありますからね、そのどれか一つです。


いったいどこなんでしょうね。このお話は、田中さんの著書『山怪 山人が語る不思議な話』(山と渓谷社)の中でも、より詳細に書かれていますので、ぜひチェックしてみてください。
この『山怪』という本。田中さんは長い期間たくさんの人への聞き取り取材を経て、一冊にまとめたわけですが、そのお仕事をする中で、田中さんは一つのことに気がついたんです。

◆『山怪 山人が語る不思議な話』
『山怪』で取材してきたものは、短い話だと「この間山の中で木切ってる音がしたんだ。あれタヌキだんべ。」っていう、これで終わっちゃうんですね。こんな話がいっぱいあって、これを色々聞いていて思ったのが、これが民話の元になっているのではないかということ。こういう話がいっぱい集まって完成された地方の民話なのではないかと思ったんです。
昔は今と違って携帯もないしパソコンもないし、テレビもない。そういう時代は話するしかないんですよ。特に阿仁のように雪深いところは四ヶ月くらい雪の中に埋もれてるんですね。昔は雪かきをしなかったので、あまり忙しくなかったんです。雪は踏んで固めて道を作っていました。埋もれたら埋もれたままなんです。
その代わり昼間でも暗いわけですよね、周り雪に埋もれてますから。そんなときは囲炉裏の周りにみんなが集って、縄をなったりとか、そういう作業をずっとやってるんですね。それをおじいちゃんおばあちゃんたちがやっていて、周りにはたくさんの子供たちがいて、一日中飽きることなく話をするんです。それは近所の噂だったり、山の中での不思議な話だったり、人から聞いた話だったりとか、それを延々とするんですよ。
そういう空間があるから、オチも何もないような「ああ、あれはタヌキだった」という話に、それに何か違う話がくっつく。くっついて、くっついて、練られて、練られて長い話になっていく。民話とか昔話はこうやってできてるんじゃないのかなと思ったんです。閉ざされた空間で、人が額を寄せあって、話をせざるを得なかったんじゃないでしょうか。
でもそういう場ってもう今はないんですよね。少子高齢化でおじいちゃんおばあちゃんしか住んでないとか、孫はいるんだけど、夜は別々の部屋にいて、孫はゲームやってる、おじいちゃんおばあちゃんもテレビ見てる。こういう話は語ることでしか生きていくことのできない話なので、話す人がいない、それを聞かされる人がいないと、こんなふうに話が練られて、面白い話に生まれ変わることっていうのは多分もうないんだろうなと思います。
山であった不思議な事って話さないと思い出さないんですよ。だから山でなにか不思議な体験をしても、戻って来て話す相手がいないともう消えちゃうんですよね。
でもこれはちょっともったいないなと思って、それをこの本の中では集めてきちんと記録していこうということなんです。多分これから先はこういうのはもう出てこないような気がするんですよ。恐らく今がもうギリギリかなという感じでやってきましたね。


3回にわたってお届けしてきた田中さんのお話いかがだったでしょうか。ポッドキャストでも詳しくご紹介していますので、こちらもぜひ聞いてみてください!

『山怪 山人が語る不思議な話』 田中康弘(山と溪谷社)

【今週の番組内でのオンエア曲】
・雫に恋して / indigo la End
・パフィーのHey!Mountain / PUFFY

パーソナリティ

高橋万里恵
高橋万里恵

あなたからのメッセージ・ご意見をお待ちしております

各放送局の放送時間

  • JFNヒューマンコンシャス募金は鎮守の森のプロジェクトを応援しています。

ポッドキャスト

  • ポッドキャスト RSS
  • ※iTunesなどのPodcastingアプリケーションにドラッグ&ドロップしてください。
  • 鎮守の森のプロジェクト
  • EARTH & HUMAN CONSCIOUS
  • LOVE&HOPE〜ヒューマン・ケア・プロジェクト〜
  • AIG損保 ACTIVE CARE

PAGE TOP